SI単位系の話


2019年5月、国際単位系でのキログラムの定義が 変更された。関連して定義変更された物理量が 熱力学や電磁気学の授業に関連するので簡単にまとめてみた。

今回の改定では、プランク定数やアボガドロ数といった 基本的な定収が規定量とされた反面、これまで規定量だったものが 測定量となったので注意が必要。ただし、日常的には 全く影響はない程度の変更である。


長さの単位(メートル)

国際単位系の元になったメートル法の中心になったのが1メートルの定義。 それ以前は、人の身体の長良を基準としていた。(人と言っても 次第にエラい人を意味する様になっていた。)

国際的に通用する単位を決めるにあたって人ではなくて地球を基準に選んだ。 (極を通る地球の円周の4000万分の1が1メートル。)これだと、どの国も 文句の付け様がなく、こうやって決めた1メートルを刻んだメートル原器が 多くの国に配布された。

その後、放電ランプの光の波長の測定精度が上がると困ったことが 起った。同じ作りの放電ランプを同じ条件で点灯したのに、波長が 国毎に異なるということが明らかになった。これは、国毎のメートル原器の 精度のばらつきによる物だとわかり、クリプトン86の放電ランプの 橙色の光の波長を長さの基準とするように変更された。 そのかわり、地球の微小な変形を観測することができるようになった。

さらに、レーザー技術の進歩とともに、光速度の精密測定が可能になったが、 測定精度が頭打ちになり、レーザーを利用した月までの距離の測定に支障が でるようになった。これは結局、波長を決める長さの基準の精度による物で あるため、真空中の光速度を基準(定数)として長さの基準とする様に 改定されている。


質量の単位(キログラム)

元々は1リットルの水をキログラムと定義し、これに基づいて作成された 国際キログラム原器が 100年以上にわたって質量の基準をはたして来た。

2019年からは、プランク定数を規定量として 特定振動数の光子のネネルギーを質量エネルギーの 基準としている。


物質量の単位(モル)

元々は12グラムの炭素12の原子数に等しい 要素粒子を含む 物質量を1モルと定義されていた。

2019年からは、アボガドロ数(規定量)個の要素粒子を含む 物質量を1モルと再定義された。 (従って、炭素12の1モルは厳密には12グラムではなくなっている。)


温度の単位(ケルビン)

温度は、人間の5感では捉え難い物で(視覚と触覚では 定性的に比較できる場合もある)、 通常、熱力学第零法則を前提とした温度計で 測定する。 この 温度計の目盛については、セルシウス温度やファーレンハイト温度が 日常的に未だに使われている。このうち、セルシウス温度は 水の沸点と融点(1気圧下での)を元に目盛が定められていた。 その後、熱力学の発達(最初はシャールの法則の発見)から 絶対温度が提案され、セルシウス温度と同じ目盛で、 ただし水の融点の分だけズレたものとして定められた。

しかしながら、 熱力学第二法則に基づくカルノーサイクルの 効率からこの絶対温度の比が求められる。 そこで、水の三重点を基準として 温度の単位が決められていた。 (なお、統計力学的には、ホルツマンの定義したエントロピーを 内部エネルギーで微分したものの逆数が温度になることが知られている。) 従って、この定義では水の融点は273.15K(摂氏0度ではなくなっており、 沸点も同様である。

2019年の定義改定では、 内部エネルギーをボルツマン定数で除して決定される。 (理想気体であれば、さらに3/2で割る必要があり、理想固体なら3で割って 最終的に温度を決める。)


電流の単位(アンペア)

これまでは、アンペアの法則で求められる磁場(より正確には磁束密度)によって 引き合う無限長導線に流れる電流の大きさでアンペアの大きさが定義されていた。 (関連して、真空の透磁率μ0は規定された値であり、 磁気定数とも呼ばれていた。真空の誘電率ε0も 真空の光速度が規定値となった後は、電気定数となっていた。)

2019年の定義改定では、 電荷量の1クーロンが規定量である電気素量からまず定義され、 アンペアは単位秒当りのクーロン電荷量としての定義に変更された。 従って、 μ0(従って ε0も)は、微細構造定数の精度の不確かさを 持つ測定量となった。


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(last modified at 16th Sep. 2019)