物理の式、工学の式


このページには試験やレポートでしばしば眼にする学生諸君の 理解不能な式表現を取り上げ、問題点を解説します。 毎年毎年同じような式を目にするので、何か原因があるのでは ないかとも思いますが、そこまでは調査が行き届いていません。 (関連情報を募集します。)

その式はどんな意味?

簡単な具体例を挙げよう。ニュートンの運動方程式といえばma=fと書く。 場合によっては、a=f/mとなることもある。 それは、「質点の加速度が外力に比例する」という運動法則を適切に表現しているからで、 f=maと書くと、慣性力の定義式となって全く別の意味を持つ。

しかし、証明問題の学生の解答にはもっとすごい変形バージョンが出てくる。
1=f/(ma)
あるいは、例えば外力がf=f0sin(t)などという関数で与えられる場合、
sin(t)=ma/f0
最初の例では左辺は単なる数値であり、後の例では数学的関数。つまり、これは 数値や関数が物理的変数で定義できますよという数学的な関係を示す式?になっている。 (わけがわからん。)


等号の意味分かっていますか?

証明問題などで
A=Bが成り立っていて、左辺がA=A1=A2=A3と 変形(微分、積分、約分など)でき、右辺も B=B1=B2=B3 と変形できるから、A3=B3が成り立つ。
という類の問題は多い。これを、
A=B=A1=A2=A3=B1=B2=B3
と書いて、説明もなしという学生が多い。そんな学生に質問。 「等号の意味は、定義(左辺を右辺で決める)、等値(左辺と右辺は等しい)、代入(左辺の代わりに右辺を 用いてよい)の3つしかない。では上の式の全ての等号の意味は何ですか?」

はじめのA=Bでは等値だ。式変形のA=A1=A2=A3では代入だ。 だからといって、A3=B1は代入とは認められないぞ。そもそも 一つの式の中にある等号は一つの意味しか持ってはならないはず。

プログラム言語ではこれらの3つの意味を区別して別々の演算子を割り当てているものが多いが、 数学では「=」一つで共用しているので混乱したのかもしれない。

代入の場合は式中に等号がいくつも現れることもあるが、式が途切れたときは注意が必要。 例えば
A=A1=A2
(なにか説明)
=A3
というような書き方は減点対象。A=A3というように必ず左辺と右辺を明示すること。


次元と単位の違い分かっていますか?

これも、簡単な具体例を挙げよう。 地上での重力は F=mgという式 で求められる。このとき、Fは力の次元を持ち、 mは質量、gは加速度の次元をもつが、これらの文字は単位を持っている わけではない。だから、 mはkgであってもトンであっても構わないし、gの単位が何であっても良い(重力単位系では単位がない) 。 しかし、いったんm=1[kg]という単位付の数値が与えられたなら、普通はg=9.8[m/s^2] という値も使って、F=9.8[N]という数値にする。間違っても、F=gと書いては ならない。 このときは当然、Fも単位付であり、左辺と右辺は数値も単位も等しくなければならない。 (この例では、単位はN=kg m/s2という関係になっている。)

先に書いたように、物理法則を表す式(例えば、F=mg)は左辺と右辺の物理量が次元も含めて 等しいことを示す。だから、ここでの等号の意味は「等値」だ。 これに対して、上の例のm=1[kg]の等号は「代入」であり、最後の F=9.8[N]では、Fという物理量の数値が単位を含めて9.8[N]と「等値」であることを 示している。

電磁気学の分野ではさらに注意が必要である。例えば、 導体球の静電容量はC=4π ε0aという公式で求められるが、 この公式はSI単位系でのみ成り立つ。(他の単位系ではε0は 現れず、数値定数も異なる) このときε0はπと同様に定数値であり(πと違って単位も持つ)、aの値が指定されたときには π=3.14と同様に必要な有効数字を使って、Cの値を 同じ有効数字の範囲内で決定しなければならない。 (仮に半径が1[m]であっても、単にC=4π ε0と書いただけではダメ。 これでは式としての次元が両辺で一致しないし、Cに対する数値+単位を与えるものでもない。 注:この項目に関する記述は2015年始めに少し加筆修正した。)

相対論の世界では、時間をその時間の間に光が移動する距離で表わすことが 一般的らしい。即ち、時間も長さの次元を持つと言わざるを得ない。 同様に、プランク単位の量で規格化したと理解していた量子重力理論の 世界では、次元そのものも変わっているという理解が正しいらしい。 (注:この項目に関する記述は2018年半ばに加筆した。)


0.5個って?

100キログラムの横荷重に耐える木の棒に40キログラムの重りをいくつつるしたら 棒が折れるか?この問題に2.5個と答えた人はいないかな?ところが、試験やレポートに なると、自然数のはずの答えを小数や分数で答える人が少なくない。 あまつさえ、先の電磁気の問題のように π やε0が最後まで残って平気でいる回答を見ると 絶望的な気持ちになる。

すこし高度になるが、 熱力学の問題で断熱膨張後の空気の温度を20Kと平然と答えた人もいた。そんな低温では空気は 液化してしまうって。 答えの数値がどのあたりに来るかという常識的検討が全く欠如しているのだろう。


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(last modified at 6th Feb. 2015)