原子力用語集



critical assembly(臨界集合体、臨界実験装置)
炉心構造(核燃料と減速材の割合など)を容易に変更することが出来る原子炉であって、 核燃料物質の臨界量などの原子炉の核特性を測定するのに用いるものとして定義される。 出力は100W以下であって、実験のたびごとに特性の変わる材料試験のモックアップ実験に用いられる。 臨界量または臨界寸法は中心に中性子源を置き、燃料を増やしながら中性子の係数率を測り、 その逆数が0となる外挿点として求まる。得られるデータは指数関数炉に比べ正確であるが、 高価であることと取扱手続きが多いことが欠点である。

exponential pile(指数関数炉、指数実験装置)
原子炉の核的特性についての基礎知識を得るための臨界未満集合体のことである。 臨界集合体に比べて得られるデータの精度は劣るが、原子炉の一部を模擬した体系より臨界量 または臨界寸法を求めることが出来るため安価である。 臨界量は中性子源を挿入し、内部の中性子束分布φを測ることにより、 模擬した炉の幾何学的バックリングB2gを ∇2φ+B2gφ=0 より算出し、これが材料バックリングB2m と等しくなる燃料量として求まる。

mock-up test(実物大模型試験)
原子炉及び付属機器などの実物大模型を用いた、冷却系や制御棒駆動系などの 非核的な機構の性能試験のこと。動力炉の開発段階において、理論的解析が困難で 実験データも不十分な時に行われる。

medium fission energy(中間核分裂エネルギー、MFE)
核分裂を起こす中性子の平均エネルギーという意味で、0からMFEまでの エネルギーを持つ中性子の起こす核分裂数 ∫0MFEφ(E)Σf(E) dE が全エネルギースペクトルにわたる中性子の起こす核分裂数 ∫0φ(E)Σf(E) dE の1/2になるように決められている。MFEは原子炉の炉型、特に 中性子スペクトルによって決まり、熱中性子炉では小さく、高速炉では 大きな値をとる。(高速炉では0.1 ˜ 2MeV、熱中性子炉で0.05eV、 研究炉で0.03eV程度である。)

reactor neutron spectrum
原子炉内に存在する中性子数の、そのエネルギーに対する分布のことで、 原子炉の形式、つまり高速炉、熱中性子炉、中速中性子炉によって異なる。 中性子スペクトルを表す指標の1つとして、核分裂を主として起こす中性子の エネルギーを示す中間核分裂エネルギー(MFE)がある。 熱中性子炉は核分裂中性子スペクトルに、減速中の中性子の1/Eスペクトルと マックスウエル分布が重なっているが、高速炉ではほぼ核分裂スペクトルのみで、 スペクトル全体が硬化している。

age equation(年令方程式、老成方程式)
弾性散乱による中性子の減速過程を、減速密度(単位時間にエネルギーE以下にまで 減速される単位体積あたりの中性子数)q(E)で扱うフェルミ理論で導出される式 ∂ q/∂ τ = ∇2 q のこと。ここで、τ は τ(E) = ∫EE0 D/(ξ Σf E) dE で定義されるフェルミ年令で、q(E)に対する距離rの2次モーメント(能率)に相当し面積の次元を 持つ。 また、τ(Eth)は拡散距離の2乗に等しく、H2Oは27cm2、 D2Oは131cm2、グラファイトは368cm2、 である。 年令方程式は拡散方程式と組み合わせることにより、臨界量の導出を手計算で行うことが出来るが、 その精度は必ずしも良くなく、実験または計算機による多群計算で検証する必要がある。

power density(出力密度)
原子炉の炉心の単位体積当りの熱出力のことで、kW/LまたはW/cm3で表す。 場合によっては、炉心として燃料棒の外に減速材なども含めて考えることがある。 一般に出力密度は研究炉や高速炉で大きいが、減速材の熱除去特性で制限され、水を用いた場合には ほぼ100kW/L以下である。実際の数値を挙げるとPWRでは70kW/L、BWRでは40kW/L、 HFRでは1000kW/L、ふげんでは11kW/L、FBRでは480kW/L程度である。

temperature coefficient
反応度の温度係数のことで、反応度の対数値の温度についての変微分係数で 定義される。減速材などの密度変化に伴う遅効性のものと、燃料に含まれる238Uの 共鳴吸収のピークのドップラー広がりによる即効性のものに大別される。 反応度の定義( ρ=(k-1)/k, k=k/(1+LT2B2)Exp(-B2τT), k=η ε p f ) より、温度係数は7因子η、 ε、 p、 f、τT、LT、B2の 個々の温度変化で決まる。低濃縮燃料を用いる大型動力炉ではドップラー広がりによるpと 密度変化によるε、fが競合し、高濃縮燃料を用いる研究炉ではpと もれの増大によるτT、LTの効果が競合し、 全体としてはいずれも負の値を取るようにされている。

M/F ratio
減速材(Moderator)と燃料(Fuel)の量の比のこと。M/F比に対し 反応度をプロットすれば、反応度はあるM/F比のところで最大となる。燃焼が進むとFが減り、 温度が上がると実効的にMが減少するため、原子炉に負の温度係数をもたせ、高い燃焼度を 達成するためにはM/F比を少なめにした炉心を作り、燃焼度が進み温度が上がっても 反応度がピークを超えないようにする必要がある。このような炉心状態を アンダーモデレートと呼ぶ。

resonance escape probability
熱中性子炉では高エネルギーの核分裂中性子を熱エネルギーまで減速する 必要があるが、その過程で燃料中に含まれる238UやOによる共鳴吸収 を受けることがある。中性子がこの共鳴吸収を受けることなく熱化される確率を 共鳴をのがれる確率といい、普通pという文字で表す。pの値は炉心のM/F比により 変化し、M/F比が大きいと中性子は減速過程の殆どを減速材中ですごすため、pは 大きくなる。具体的数値を挙げるとPWRやBWRでは0.8程度、CANDUや コールダーホールでは0.9、MTRや研究炉では0.93程度である。

chemical shim
PWRにおいて、可燃性毒物質の溶液を利用して原子炉の初期反応度を押さえ、 制御機構を簡単化する方法。PWRは燃焼度やキセノン毒作用を補償するため25%もの 初期反応度を持つが、1次冷却水に中性子吸収断面積の大きな10Bを 含むホウ酸を0.2%程度混ぜておけば運転が進み余剰反応度が低下するにつれて 10Bも消費されるので、制御棒で補償すべき反応度変化を小さくすることができ、 中性子束の平坦化が容易となるが、減速材の温度係数が1/10程度になるという 欠点がある。また、ホウ酸の析出による腐食も問題となる。

poison curtain
BWRにおいて、初期炉心装荷時の超過反応度を抑えるために、 燃料中に混ぜた可燃性毒物と共に用いられる板状の毒物質で、 核燃料配列の間に配置される。 炉が一度起動されれば、FPの135Xeや149Smが大きな 毒作用を持つために、ポイズンカーテンは1回目の炉心変更の時に取り外されることが 多い。PWRでは濃縮度の異なる多領域炉心を用いているため、ポイズンカーテンが使用される ことはなく、化学シムによって反応度を補償している。B4Cを ステンレスパイプにつめ、それを溶接して板状にする。 中性子分布が不均一になるので、ポイズンカーテンのそばに高濃縮燃料を 用いて燃焼を均一化する必要がある。

cluster control rod(房型制御棒)
燃料集合体中に16本程度の一様に分布した細い制御棒を同時に出し入れできるように なっており、従来の十字型制御棒に比べて容易に中性子束のピーキングを抑えることが 可能であり、制御棒フォロワーも不要となるが、円滑な移動、特にスクラム動作に 高度な技術を要することが欠点である。ゾリータサンオノフレ発電所以降のウエスティングハウス エレクトリック社製のPWRで用いられている。吸収材としてはB4Cまたは Ag-In-Cd合金を用いSUSで被覆する。

control rod follower
制御棒ブレードの延長部のことで、一般には同一断面のジルコニウム合金製である。 軽水炉では制御棒ブレードが引き抜かれた炉心部空所は水で置換されるため、 局所的な中性子束のピーキングが起こり、燃料の焼損を招く。 そのため、弱い吸収剤であるジルコニウムをフォロワーとして付けて、 水ギャップの発生を防いでいる。また、ジルコニウムの変わりに燃料を フォロワーとすることにより、制御棒の聞き具合が良くできる。 いずれにしても、フォロワーの長さ分だけ圧力容器を大きくしなければならないことが 欠点である。

Ag-In-Cd Alloy
銀、インジウム、カドミウムを80:15:5の割合で混ぜ合わせた合金のこと。 共鳴エネルギー領域の中性子をも吸収するため、制御棒としての効果の高い ハフニウムを模擬した中性子吸収特性を持つ。ハフニウムに比べて 銀インジウムカドミウム合金は安価であるが、機械的強度が悪いため、 制御棒として用いるためにはステンレスなどで被覆する必要がある。

fuel inventory
原子炉施設を稼動させるための燃料の必要在庫量を燃料インベントリーと いう。1回の燃料サイクルの間、炉を臨界状態に保つために炉心に装荷された 燃料だけでなく、燃焼により消費された分を交換できるように貯蔵されている 燃料、また再処理サイクル上にある燃料も含めて考える。燃料インベントリーを 減らすことが原子力施設に要する資金の節約、核拡散の防止につながる。 特に、炉心に装荷する量を炉心インベントリー、原子炉用地にある 新燃料と使用済み燃料の和をプラントインベントリー、イエローケーキ の段階から精錬、加工、原子炉、再処理の各過程における燃料の和を サイクルインベントリーという。

end of life(寿命終期)
原子炉の炉心寿命の終わりを意味するものではなく、炉心内の 135Xeや149Sm等の量が平衡に達する第3燃焼サイクル以後の 燃焼サイクルにおいて、炉の運転を停止して燃料を交換する直前のことを意味する。 原子炉の設計においては核設計は寿命終期において臨界状態が保たれるように なされる。LWRでは約1年ごとに寿命終期になり、炉心燃料の交換 追加などが行われる。

cermet
ニッケル、コバルト、クロム、アルミニウム等の金属母材に アルミナ、マグネシア、ジルコニウム、チタン、カーバイド等の耐火粉末をまぜ、 セラミックを混合焼結した耐熱材料の一種。サーメットという名前は セラミックとメタルを組み合わせてつけられた。サーメットは密度が大きく 加工性、熱伝導が良いため、動力炉の核燃料のUO2やUCをサーメット化 することにより熱効率の向上が期待される。金属母材の中性子吸収による 中性子経済の低下という欠点があるが、高出力や核過熱を使う炉の燃料に 用いられる。

sintering(焼結)
粉末状の材料をあらかじめプレスして原子間距離を短くしておくことにより、 融点の2/3程度の高温で互いに結合させること。 ホットプレスと異なり、理論密度100%を達成することはむつかしいが、 望みの理論密度の材料を作り出すことが可能である。 原子力関係ではUO2粉末にポリビニルアルコールやパラフィン等の粘結剤をまぜ、 よく粉砕混合して数トン/cm2の圧力で、理論密度96%の UO2ペレットを作っている。

hot press(熱間プレス)
金属の再結晶温度以上で行う金属や粉末のプレス加工のこと。 シンタリングと違って容易に理論密度100%を達成できるが、100%以下の 理論密度を得ることはかえって困難であって、ホットプレスによって 燃料ペレットを作るとクラックを起こしやすい。現在、原子力関係では BWRのB4C制御棒、FBRの燃料ペレットなどの製造に用いられている。

theoretical density(理論密度)
ある材料の密度と、その材料の単結晶の密度の比として 定義される。大きさの異なる粉体を用いたバイパックやホットプレス、 シンタリングなどにより理論密度90%以上を達成することができる。 核燃料ペレットの理論密度が高すぎるとクラックが、また低すぎると 焼きしまりが生じ、燃料の破損につながる。

vibrating packing(振動充填法)
バイパックと略される粉体充填法の一つ。原子力関係では酸化ウランや 炭化ホウ素の粉末を被覆管に充填し、これを振動することにより短時間で理論密度90%以上の 均一な燃料棒や制御棒を作ることが行われる。ただし、ホットプレスやシンタリングに 比べ理論密度が低いことと、粉体の飛沫の恐れがあるため、主として実験炉でしか 用いられない。ただし、BWRのポイゾンカーテン用のB4Cの充填にも 用いられる。

gas plenum
燃料棒、制御棒内で核分裂または中性子照射に伴い発生するガスを とりこむ空間のこと。燃焼度の高い原子炉では発生するガスの量が多いため、 ガスプレナムだけではとりこめず、ベントチューブの使用が考えられている。 燃料棒の上下のプレナムにはペレットのがたつきを防ぐためスプリングが入れてある。

He leak test   
UO2ペレット燃料を被覆管につめる時には焼きしまりを 防ぐため、Heガスを管内に密封しておく。従って被覆管を溶接した後で、 ヘリウムの漏れを調べることによって溶接の良否を知ることができる。これを ヘリウムリークテストといい、ソープテストや加圧水テストと共に用いられる。 ヘリウムは最も小さい気体分子であるため、高精度の検査が可能であるが、 測定に技術を要し、時間がかかるという欠点がある。

color check
ダイテストとも呼ばれる非破壊試験法。傷の有無を調べる箇所を トルエン等の溶媒で荒い、赤色塗料を塗って放置し、乾いた後はトルエンでふきとり、 さらに白色塗料をぬってピンク色となれば傷があることがわかり、その色、広がりから 傷の深さ大きさももとまる。ただし、寒冷地では染料の拡散を利用する方法であるため、 用いることができない。原子力関係では被覆管、圧力容器の表面のひび割れ、 ピンホールなどの安価で簡便な検出法として用いられている。

soap test
容器、配管、建家などの気密試験法の一つ。内部に空気で規程圧力の 1.2〜1.5倍の圧力をかけ、外表面に石けん水を塗っておき、漏れがある場合、 泡の発生によりもれの位置やその程度が分かる。大容量試験が簡単に行えるので、 原子炉建家の気密試験などに用いられているが、その精度は ヘリウムリークテストには及ばない。

ultrasonic test(超音波深傷検査)
ボイドや溶接欠陥などのように密度の変化する点を、そこでの 超音波の反射を利用して見つける方法である。簡単な方法であるにもかかわらず 1mm2の精度でボイド等をチェックできるので原子炉燃料や 原子炉容器の製作において用いられている。測定に時間がかかるのが 欠点である。

blister test
研究用原子炉燃料の被覆部と燃料ミートの接合性を調べる方法の一つ。 燃料板を摂氏550度で30分間、あるいは摂氏500度で60分程度加熱すると 接合性の悪い部分で小さなブリスタリングが生じるので接合性をたやすく調べる ことができる。

neutron radiography
中性子によるラジオグラフ(放射線写真)を用いて鋳物中の欠陥、 溶接部の不良箇所、あるいは生体組織中のRIを調べる方法のこと。 原子力関係では被覆管などの溶接部分にカドミウム水溶液を塗り、 中性子を照射することによって溶接の良し悪しを調べたり、 強いγ線を発する使用済燃料の中の可燃性毒物の位置を調べたりすることが、 非破壊的に行われている。一般に水素、ホウ素などの軽元素を強いX線、γ線下でも よく検出できる特徴がある。

SUS 316L
オーステナイト系ステンレス鋼の一種で、炭素量が0.03%と少なく(Lは ロウカーボンの意味)、ニッケルを12〜13%程度含むほかモリブデンを2〜3%含む。 極低炭素化しているため粒界腐食が防止される他、還元性の酸に対する耐食性も 向上している。原子炉では、SUS304が主として低温で用いられるのに対し、 SUS316は高温で用いられている。熱膨張率が大きく熱伝導率が比較的小さいため、 熱応力による疲労が起こりやすいこと、中性子吸収断面積が大きいこと、 不純物のCoの放射化などの欠点がある。

zircalloy 4
ジルコニウムの高温水に対する耐食性を増すために作られたジルコニウム合金の 一種。ジルカロイ4はジルカロイ2と異なりほとんどニッケルを含まない。一般にジルカロイは ステンレス鋼と同じく耐食性,加工性に優れ、高温耐性もある外に、中性子吸収断面積が 小さいため軽水炉用の炉心タンク、燃料被覆管、冷却管などに用いられている。 欠点としてはコストの高いことであったが、製造技術の進歩とともに 価格も低下してきている。ジルカロイ4はPWRで、ジルカロイ2はBWRで用いられている。

Al 5052
アルミニウム合金の1種で、特徴としては、マグネシウムを2.5%程度 クロムを0.2%程度含むこと。Al 1100と異なり、中性子照射による耐力、 引っ張り強さの増加や伸びの減少は少なく、原子力関係では燃料要素の部品や 被覆管に用いられている。一般にアルミニウム合金は熱中性子の吸収断面積が 小さく、強度、耐食性が良く、使用経験があり、熱伝導が良く、経済的にも 利点が大きいが、高温での強度、耐食性に問題があるため、主に研究用原子炉や 臨界集合体で用いられている。

breading ratio(増殖比、BR)
BRの定義は親物質の転換によって作り出された新しい 核分裂性物質の原子数を燃焼により壊れた核分裂性物質の原子数で割った ものである。BRが1に満たない時には、むしろ転換率と呼ばれる。 増殖比は燃料の濃縮比や炉内の中性子スペクトルによって変化し、 239Puや235Uを用いる時には 高速炉でなければBR > 1とはならないが、 233Uを用いれば熱中性子炉で BR > 1を達成できる。

burn up
原子炉の運転によって核燃料が中性子の照射により消費され、 それにつれて反応度が減少する現象を燃焼といい、燃料の燃焼度は 単位重量当たり核分裂反応等で発生した熱量で表わす。 通常はMWD/Tを単位とする。現在の軽水炉では3万MWD/Tの燃焼度が 達成されており、高速炉では10万MWD/Tの燃焼度が目指されている。 燃焼度を制限する因子としてはFPガスの蓄積や中性子照射による燃料の 劣化が主なものである。

stoichiometric balance(化学量論的釣り合い)
核燃料の一つであるUO2の燃焼が進むとUが 失われるため、生成したFPの酸素ポテンシャル、つまり酸素との親和性に応じて 余った酸素はFPと酸化物を作るが、一般にFPはウランに比べて酸素との親和性は 良くないため、燃焼が進むと二酸化ウランはUO2+x となり、xが次第に増加し、熱伝導率が変化する。 従って,あらかじめUO1.98程度になる様に燃料の組成を調整し、 UO2.02程度になったら使用をやめる様にしている。

BISO
被覆燃料粒子の1形式で、高温ガス炉の燃料として開発された。 BISOというのはBuffer Isotropic(緩衝等方性)の略語。 UC2燃料板の回りを、緩衝層としての低密度多孔性の 熱分解炭素(PyC)層で被覆し、核分裂片損傷や燃料核スエリングを 吸収し、気体状FPのガスだめにもなっている。さらに外側を高密度等方性PyC 層でおおい気体状FPの閉じこめを行っている。 構造が比較的簡単であるが、重いFPなどに対する強度が弱いため、 より多重層のTRISOなどが開発されている。

TRISO
被覆燃料粒子の1形式で、 TRISOはTriIsotropic(三重等方性)の略語。TRISOは2重被覆であるBISOを 改良したもので、ウランまたはトリウムの炭化物燃料の回りを緩衝層としての 低密度多孔性熱分解炭素(PyC)層で覆い、核分裂片損復、核燃料スエリングを吸収、 FPをためこむ点までは同じであるが、その外側に高密度等方性PyC層、SiC層、 高密度等方性PyC層の三層で被覆し、機械的強度、寸法、安定性を向上 させ、気体状、固体状FPの閉じ込めを良くしているため、より高燃焼度 を達成できる可能で気がある。

NDTT
脆性遷移温度(nil ductility transition temperature)の略号。 一般に、物質はNDTT以上では延性を、NDTT以下では脆性を示し、 脆性破壊はNDTT以下でのみ生じる。鉄鋼材料のNDTTは中性子照射、熱サイクル、 残留応力、不純物の存在などによって上昇する。従って、原子炉容器の 材料に対しては、最低使用温度より16.7度ほど低く抑えることが法律で規定されている。 またそれを確かめるため、炉内に入れた試験片を適当な間隔で取り出し、 引張り、衝撃試験を行う必要がある。

densification(焼きしまり)
焼結ペレット型の燃料の理論密度が低い時、100MWD/T程度の 燃焼度のころ、ペレットの密度の増す現象を示す。ペレットの焼きしまりが 増大すると、非加圧燃料棒においては、ペレットと被覆管の間にすきまが 生じて、被覆管がつぶれ、軽水炉では局所的な出力増加が起こり、 冷却材喪失事故の際にはペレットの蓄積エネルギーが増加するので ECCSの性能が低下する。燃料ペレットの理論密度を95%以上にすると 焼きしまりは防止でき、被覆管にギャップガスとしてHeを封入すれば 熱伝導率の低下が防げる。

TIG welding
チタン不活性ガス溶接と呼ばれ、板厚0.5~3mmの薄板をつき合わせ、 タングステンを用いて溶接する方法のこと。3mm以上の板厚に対するMIG溶接と 共にオーステナイト系ステンレス鋼に対する溶接法としてよく用いられている。

fail safe
万一の異常時に装置が安全な方向に動作するようにすること。 例えば、原子炉の制御系においては、制御棒駆動用の電源が喪失した時、 制御棒は自動的に落下して原子炉を安全に停止するようになっている。 フェイルセーフのロジックを組み込むことはフールプルーフと共に安全な 原子力プラントを作るのに不可欠な原則である。

fool proof
捜査員が間違った判断を下した時に、適当なインターロックにより 装置が動作しない様にすること。原子力プラントでは安全性確保のため、フェイルセーフ と共にフールプルーフのロジックをシステムに組み込んでいる。ただし、 予期せぬ原因による事能には対応が十分ではないことに注意する必要がある。

2 out of 4
全く同じ警報システムを4個用意しておき、少なくとも2つが同じ警報信号 を出した時に装置の動作を停止する様にする方法。この方法では何らかのノイズにより 装置が停止するのを妨げる他に、2 out of 3では1つの警報システムが故障するたびに 装置の運転を停止しなければならなかったのに対し、警報システムの修理を行いながらも 装置の運転を行えるという利点がある。

static and passive
staticとは可動部が無く信頼性の高いことを意味し、 Passiveとは作動に当たって電源、空気圧などの駆動源を要しないことを 意味する。原子炉、特にその制御系は安全性、信頼性が要求されるため、 これらの原則を満たす様に設計されている。例えば、PWRの制御棒駆動系が 故障した時には、制御棒は重力によって落下し、炉を安全に停止させる。

risk and benefit
日本語で言えば危険度と利益であり、新しい装置、技術等の導入に当たっては、 それに伴うリスクとベネフィットのバランスを評価することによって、安全性の位置づけや 許容量の設定がなされている。例えば,放射線治療を考えれば、健康な人はそれによって 受けるベネフィットが小さいため、放射線を受けるリスクはおかさないが、生死に関わる ガンにおかされている人は受けるベネフィットが大きいので何ラド(100ミリシーベルト) もの放射線を受けるリスクをおかす。

technology assessment
新しい産業を起こした時の社会に対する影響を調べることで、通常は 新しい産業に伴う悪影響(公害など)が現れてから行われることが多かったが、原子力は 例外で、原子力産業を起こす前に十分なテクノロジーアセスメントが行われたため、 これまでのところ大きな事故や悪影響は見られていない。(この部分は「行われた アセスメントが十分であったとは言えない」と訂正しないといけない。)

LOCA
冷却剤そう失事故(loss-of-coolant accident)の略で、1次冷却系の 破断などにより冷却材が炉内より失われることによって生じる原子炉の事故のこと。 LOCAが起ると反応度の上昇による暴走、炉心の過熱溶融など生じるため ECCSなどの非常装置を備えておく必要がある。アメリカではLOCAがチャイナシンドローム につながると考えている人が多い。

ECCS
緊急炉心冷却装置(emergency core cooling system)の略で、 原子炉の安全防護系統の1つ。ECCSはLOCA等の原子炉事故の際、炉心が崩壊熱で 過熱するのを防止する。原子炉の安全解析ではECCSの効果の評価が主な問題と なっている。ECCSによる冷却時間は約1時間であり、フェイルセーフ及びスタティックかつ パッシブな設計になっている。

decay heat
一般には放射性物質の崩壊に伴って生じる熱のこと。原子炉の停止後もFPの 崩壊に伴いかなりの熱が炉心で発生するので冷却系を止めることはできない。 また、LOCA等の原子炉事故でも反応度の増加による炉の暴走よりもむしろ崩壊熱に よる炉心の溶融が問題となっている。これの極端な例がチャイナシンドロームである。 また、使用済み核燃料も運転時間に応じて貯蔵プールで冷却する必要がある。

China syndrome
主にアメリカで問題となっている現象で、LOCA等で炉心が融解し 流動状になった核燃料物質が炉心の外で再び集まり再臨界になり底を 溶融し、さらに下に流れていくというプロセスをくり返し、ついには 地球の裏側まで達するというものである。実際には原子炉の自己制御性により 反応度の暴走は抑えられるので、ECCSにより核燃料の崩壊熱が 制御できればチャイナシンドロームは生じることはない。

aseismic design(耐震設計)
構造体の振動解析を行って大地震に際しても十分に耐えうるような 設計を行うこと。原子炉施設の様に各種の材料、構造要素からなる複雑な 構造物の振動解析にはモデルの精密化、対象に合った減衰定数の採用などが 必要で、模型を用いた振動特性実験も行われている。構造物は耐震設計の 度合いに応じてランク付けされ、0.6ガル、ダイナミックの振動に耐える制御棒 駆動装置はAsランクであり、1次配管はA(0.6ガル)、原子炉建家は B(0.3ガル)である。

man-rem
集団に対する遺伝的影響を表わす国民遺伝線量の単位。 原子炉施設を中心に円周方向に方位を分けた1セクターずつ算出され、 各セクター内の国民遺伝線量はセクター内の人が種々の放射線により受ける 線量の総和を施設からの距離に対する人口分布に掛け合わせて得られる。 1マンレムとはセクター内のすべての人が1レムを被ばくしたことだけでなく、 例えば1%の人が100レムの被曝をしたことにも対応する。

emergency spray
緊急スプレーまたは炉心スプレーと呼ばれ、原子炉冷却材の流出に伴う 炉心露出、ブローダウンが起った時に炉心上部より冷却に必要な水を スプレー状にして一に散布する装置のこと。緊急スプレーはこの他に、 FPの放射性ヨウ素を溶かし込むことによって、その散逸を防ぐ働きもある。 通常、緊急スプレーは炉心下部に貫通孔の多いBWRで主として用いられる。 水源にはサプレッションプールの水を用いることが多い。

suppression pool
サップレッションチャンバーとも呼ばれ、原子炉下部におかれたプールのことで、 大量の水が蓄えられている。原子炉のブローダウン時には発生した蒸気をサプレッションプールに 導き,水に戻すことにより炉心の破壊が防がれる。プールの形状は通常ドーナツ型で、 格納容器と太いパイプでつながれている。サプレッションプールの水は炉心スプレイの水源ともなる。

safeguards
日本語でいえば保障措置という意味で,1957年までは 原子炉、原子力施設に起こりうる事故による災害からの公衆防護を示していたが、 現在はIAEA、ユートラム、アメリカ原子力委員会の間で平和目的の核燃料施設が 軍師目的に転用されないように監視、転用を検知、転用が起っていないことを保証する すべての手段の総称を示している。具体例としては施設に関する設計審査の提出、 記録の保持、報告の提出、査察の受け入れが4本立ての義務となっている。 また保障措置はこのような事務的な手続きだけでなく、貯蔵庫のシールや 燃料を転用しにくい化学形にすることなども含まれている。

MBA
物質収支区域(material balance area)の略で、保障措置のため その区域が責任を持つ物質の量を示す記録があり、いつでも物質収支が 求められるような区域のこと。物質管理の1単位となっており、その境界はプラント内を 仕切る物理的境界、プロセスのタイプ、組織のラインに基づいている。 MBA内での不明の損傷または利得は明らかにされねばならない。具体的には、 新燃料貯蔵庫、炉心、使用済燃料貯蔵プールなどがあり、その出入り口はKMP となっている。

KMP
重要測定点(Key Measurement Point)の略で、枢要点ともいう。 保障措置の目的にとり効果的に核物質の量が測定できる場所のこと。通常は、MBAの 入口、出口でのフロー測定と貯蔵庫内でのフィックス測定を行う場所に大別される。 核物質はKMPを通らなければ移動できない様になっている。

PP
物理的保安対策(physical protection)の略で、保障措置の立場から 核燃料物質の盗難,転用を防止し、それが生じたことを検知するための対策のこと。 警護、監視、警報システム、鍵の保管などが含まれるが、封印、移動量のオンライン 計測はこれに含まれない。

EKG
実効キログラム(Effective kilogram)、またはキログラム当量の 略で、核兵器への転用されやすさを表わすために定義された核分裂性物質の重量のこと。 EKGの定義は、プルトニウムに対してはkg単位の重量、 1%以上の濃縮ウランに対してはkg単位の重量に濃縮度の2乗をかけたもの、 0.5〜1%の濃縮ウランに対してはkg単位の重量に0.0001をかけたもの、 0.5%以下の劣化ウランとトリウムに対してはkg単位の重量に 0.00005を掛けたものである。

PIT(Physical inventry taking)
実在庫量調査のことで、通称棚おろしとも呼ばれる。1年に1回、核燃料物質の 全在庫量を、サンプリング、計量、分析を含む技術を用いて物理的に確定し、それを 報告する。報告を受けた国またはIAEAはこの報告と記帳を照合、チェックする。

IAEA inspection
保障措置の観点から、国際原子力機関(IAEA)の査察員が対象国の主要原子力 施設の検査、運転実績の照合、核物質の数量確認、記録報告の監査を行うこと。 普通は査察員が査察の度に派遣されるが、核燃料物質の実効キログラムの多い施設には 査察員が常駐しいている。

B(M), B(U)
核燃料物質の運搬に用いる容器の基準のこと。 B(M)は多国間の、B(U)は1国内での運搬に対する基準であって、 科学技術庁告示第九号の別表第1〜第4で与えられるA1値または A2値より強い放射性物質に適用され、L型、A型に比べ厳しい 設計制作試験などの条件が課せられており、使用済燃料、プルトニウムの 輸送に適用される。 B(U)は製造国のみの承認で良いが、B(M)は通過国の承認も要る。

transport index(輸送指数)
核燃料物質またはこれを収納するコンテナの危険度を示す量である。 原則として輸送物に対しては,表面から1mはなれた位置でのミリレム/時単位(マイクロ シーベルト/時単位)で表わした最大放射線量率の値をとり、コンテナに対しては コンテナ内の輸送物に対する輸送指数の総和をとるものとする。 核燃料物質などをおさめたコンテナには輸送指数を示すことが定められている。

HTGR
高温ガス炉(High Temperature Gas Reactor)の略で、従来のガス冷却黒鉛減速炉 から発達した原子炉の形式。発電用原子炉としての経済性向上や,原子力製鉄、 原子力ガス化法などの実現のため,冷却材ガスの入口温度、出口温度を 高くしてある。核燃料としてはBISO、TRISOなどの被覆粒子燃料を用い、 冷却材ガスとしてはヘリウムを用いる。炉の出力密度、燃料比出力、 燃料燃焼度が増加するが,燃料の製造に技術を要し、ヘリウムが高価で、もれの問題があるという 欠点がある。西独のAVR、英のBragon、米のPeach Bottonなどがある。

HCPWR
ハイコンバージョン加圧水炉の略称で改良加圧水炉とも呼ばれる。 M/F比を従来のPWRに比べて大きくとることにより燃焼度をかせぐことが出来る。 ただし、熱除去の問題は従来のものに比べてさらに重大となる。

MSR
溶融塩原子炉( molten salt reactor)の略称で、液体状の溶融塩燃料を用いる原子炉を示す。 溶融塩炉はORNLで1954年から航空推進用原子炉として研究が始められた。 トリチウムサイクルを用いたMSRでは233Uの増殖が熱中性子により 可能であり、中性子経済、増殖利得が良く、燃料のインベントリーが低下する。 欠点としては、プラント保守、機器の交換修理、使用期間中の検査などに 特殊機器を要すること、溶融塩中に含まれるLiが中性子を吸収して大量の トリチウムを生み出すことがある。

water boiler
通称、湯沸かし型とも呼ばれる水溶液均質炉の一種、正確には 濃縮ウラン軽水減速均質炉と言うべきもの。ウオーターボイラー型原子炉は 動力炉には向かないが、構造が簡単で安全性が高いので研究用原子炉として 広く用いられている。日本初の原子炉JRR-1もこの型の原子炉である。

TRIGA
ジェネラルアトミック社製の原子炉の略号で、TRIGAとは 教育(Training)、研究(Reserch)、同位体形成(Isotope production)のための ジェネラルアトミックス社(General Atomic)の原子炉の頭文字をとって 名付けられた。反応度係数が非常に大きいためNSRRとして、暴走実験等の 安全設計のための実験が行われている。減速材のZrHは結晶効果により 負の温度係数を与えるだけでなく、FPの閉じ込めも良い。また、制御材には 共鳴中性子の吸収の良いErを用いている。 日本には立教大、武蔵工大、及び原研にある。(あった?)