原子力機器の概要
本章では原子力開放の歴史と関連する機器の概要を学ぶ。
(参考書)
「原子炉工学大要」長谷川、大田、三石(養賢堂)
原子力とは
原子間力(原子同士を結びつける電磁作用)を開放するものではない。
はるかに小さい原子核から、核子を結びつける核力(強い相互作用)を
開放することを指す。その意味で、英語のNuclear powerないしは
Nuclear energyの方が
よりふさわしい表現といえる。(原子核力とでも命名すれば
良かった?
)
原子力という用語は、一種の誤訳ではないかと私は考えています。
つまり、原子と原子核の決定的な違いが十分に理解されないまま混同され、
原子力と言う言葉が間違って(拡大して)使われる原因となっています。
原子核については、高校での授業でも説明され、教科書や入門書で
イラストをみた記憶もあるかと思います。
私自身、子供向けの本でもイラストをみたことを覚えています。
しかし、原子と原子核では5桁の大きさの違いがあることに注目して下さい。
原子より5桁大きいとなると、細胞やバクテリアの世界になります。
昨今問題になっているバイラス(日本語ではウイルス)は、この間のサイズで
ざっといえば細胞の100分の1から原子の100倍位の範囲です。
原子核が主体となる10の-15乗メートル(フェムトメートル)の世界では、
代表的エネルギーがGeV, 温度では100億Kに相当します。
ただし、量子力学的なトンネル効果のため、原子核反応はMeVに相当する
エネルギーがやり取りされ、太陽中心1500万Kで核融合反応も起ります。
- nucleus、nuclear
- 原子核、核の
- nuclide
- 核種(特定核、核体)
- nucleon
- 核子
- nuclei,kernel,core
- 核
日本の法律で原子力および原子炉がどのように定義されているか
原子力基本法(昭和三十年十二月十九日法律第百八十六号) 「第三条第四号」
(定義)
第三条 この法律において次に掲げる用語は、次の定義に従うものとする。
一 「原子力」とは、原子核変換の過程において原子核から放出されるすべての種類のエネルギーをいう。
二 「核燃料物質」とは、ウラン、トリウム等原子核分裂の過程において高エネルギーを放出する物質であつて、
政令で定めるものをいう。
(政令:天然ウラン、劣化ウラン、トリウム、濃縮ウラン、プルトニウム、ウラン233)
三 「核原料物質」とは、ウラン鉱、トリウム鉱その他核燃料物質の原料となる物質であつて、
政令で定めるものをいう。(政令:核燃料物質以外のもの)
四 「原子炉」とは、核燃料物質を燃料として使用する装置をいう。
ただし、政令で定めるものを除く。(政令:
原子核分裂の連鎖反応を制御することができ、かつ、その反応の平衡状態を中性子源を用いることなく
持続することができ、又は持続するおそれのある装置以外のもの)
五 「放射線」とは、電磁波又は粒子線のうち、直接又は間接に空気を電離する能力をもつもので、
政令で定めるものをいう。
法令上の定義を離れれば、燃焼などの化学反応も物理的には「原子力」といえなくはない。
しかし、そのときに開放されるエネルギーはeVオーダーに過ぎない。
本講義の主題の原子核エネルギーは反応当たりMeVのオーダーに
達する。
中世の錬金術士が元素合成(原子核変換)に失敗したのは、この大きなエネルギーを
まだ扱うことが出来なかったから。
原発は原子力のなかの
ごく一部です。また、原子炉は「制御された核分裂連鎖反応」を
前提としますので、爆発的な破壊力を要する兵器とは相異なります。
原子核エネルギーの歴史的経緯
20世紀の放射線の発見と加速器の発明は原子核反応の研究の歴史です。
その中でも、エネルギーという観点から最大のものは、中性子と核分裂の発見です。
- 1904年(長岡)1911年(Rutherford)
- 原子モデルの提唱。
- 1913年(Rutherford,Bohr)
- 原子核の提唱。
- 1918年(Rutherford)
- 原子核の変換の発見。14N + α → 17O + p
- 1918年(Aston)
- 塩素の同位元素の発見
- 1932年(Cockcroft,Walton)
- 粒子加速器の発明。陽子ビームによるリチウムの核反応。
- 1932年(Chadwick)
- 中性子の「確認」。9Be + α → 12C + n
- 1932年(Fermi、Joliot-Curie)
- 中性子による原子核の人工変換法。(ラドンガスとベリリウム粉末を詰めたガラス管中性子源)
- 1934年(I.Nodack)
- 中性子による原子核破壊の可能性指摘。
- 1935年(Urey)
- 重水素、DD反応、三重水素の発見。
- 1938年(Hahn,Strassmann,Meitner)
- ウラン核分裂の発見。(放射性バリウム同位体の分離と核の液滴モデルによる
反応エネルギーの評価。アインシュタインの公式の適用。)翌年、プリンストンの学会報告。
核分裂を発見したのは化学者のハーンと理論物理学者のマイトナーです。
ハーンは当時知られていた最大の原子のウランに中性子を吸収させて、出来た物質が
ウランより軽い原子であることを実験的に突き止めました。
マイトナーはそのような原子核の分裂がどのように起るものかを
亡命先でモデル計算をしました。残念ながら、ノーベル賞は彼女ではなく
ハーンの弟子のシュトラスマンが選ばれました。
このあたりのドラマはそれだけで映画になるような内容で、マイトナーの
伝記も出ています。
- 1939年(Bohr, Wheeler)
- 液滴モデルによる核分裂のメカニズム
- 1940年フリッシ=ピエール覚書
- 高濃縮ウランでの高速核分裂連鎖反応の理論
- 1942年マンハッタン計画(Fermi)
- 核分裂連鎖反応の実証(CP-1)。プルトニウムの製造(X-10原子炉)。
起爆装置の開発(ガン方式、爆縮方式)。
核分裂反応を制御した形で連続した形で起こすのが原子炉で、1942年に
イタリアから亡命したフェルミによって行われました。
当時は「炉(reactor)」という言葉は無く、パイルと呼ばれました。
元々は干し草の山を表わす言葉で、天然ウランの燃料と減速材の炭素をスタジアムの
中の小部屋に積み上げて形成されました。
- 1945年(Heisenberg)
- ハイガーロッホ炉。
- 1945年
- 広島、長崎への原爆投下。
- 1951年
- 初めての原子力発電(EBR-I,Experimental Breeder Reactor No.1)。
- 1954年
- ビキニ岩礁での水素爆弾実験。第五福竜丸が被ばく。
- 1963年
- 東海発電所一号炉。
- 1979年
- スリーマイル島原子力発電所で、運転員の誤操作によりメルトダウン事故。
- 1986年
- チョルノービリ(チェルノブイリ)原子力発電所で、実験中に爆発事故。
- 1999年
- JOC核燃料施設で、正規の作業手順を無視したことにより臨界事故。
- 2011年
- 東京電力福島第一原子力発電所で、津波に起因する放射性物質漏洩事故。
原子核エネルギーの利用
原子核反応に伴い発生する各種放射線の利用(主に電離・励起作用
によるイオン・励起活性種の利用)は幅広いが、原子核反応に
より開放されるエネルギーを直接利用するものには
以下のものがある。なお、エネルギー利用でない原子炉(研究炉)が
多数存在することを忘れてはならない。
- 原子力兵器、核兵器(Nuclear weapon)
- 原子核反応によって放出される熱、
爆風および放射線といった高エネルギーを破壊に用いる大量破壊兵器の総称。
劣化ウラン爆弾のように放射線の生物影響を悪用するものはここには含めない。
高濃縮ウランを使った広島型は点火装置が極めてシンプルです。
プルトニウムを使った長崎型は、Pu241の自発核分裂のため、大部分を占めるPu239を一度に
核分裂を起こさせることが非常に困難です。そのための点火装置は国家機密事項です。
核兵器禁止のためには
1963年の部分的核実験禁止条約があるが、
地下核実験を含め禁止する1996年の包括的核実験禁止条約 (CTBT) は、2010年現在でも発効していない。
また
1968年に国連総会で採択された核拡散防止条約 (NPT) は
アメリカ合衆国、ソビエト連邦、イギリス、フランス、中華人民共和国(五大国)のみを
国際的に認められた「核兵器保有国」として核軍縮義務を規定し、
他の「非核兵器保有国」の核兵器保有を禁止し「核の平和利用」に限定するものである。
- 原子力発電(nuclear electricity generation)
- 原子核分裂時に発生する熱エネルギーで高圧の水蒸気をつくり、
蒸気タービン及びこれと同軸接続された発電機を回転させて発電する。
同じ原発といっても
色々なタイプがあり、沸騰水型BWRと加圧水型PWRの違いが14ページに示されています。
- 原子力電池(nuclear battery,radioisotope generator)
- 放射性核種の原子核崩壊の際に発生するエネルギー(主にα線のエネルギー)を熱として利用し、
熱電対と同等の熱電変換素子により電力に変換するものが主流で
radioisotope thermoelectric generator (RTG, RITEG) と呼ばれ、
パイオニア10号やボイジャー1号の様に木星より遠くで
活動する宇宙探査体のエネルギー源として使われている。また、極めて長寿命であるため
埋め込み用医療機器(ペースメーカーなど)の電源としてもかつては研究されていた。
原子力電池の例として、韓国で市販されたペースメーカーを紹介しています。
例えば20年にわたって交換なしに動作する電池はなかなか他では得られません。
プルトニウムを用いたのは、主に遮蔽の容易なアルファ線を放射する核種だからです。
同様の原子力電池はボイジャーなどの遠距離宇宙探査機のエネルギー源としても使われています。
- 原子力推進
- 原子力を動力源とする推進方法。自動車、飛行機や船、宇宙船などへの応用が研究されているが、
実用例は軍用船舶(潜水艦、空母)を除いてあまりない。
ロシアでは民間砕氷船の動力源にも原子炉が利用されている。
原子炉を発電ではなく動力として使うという試みで、
日本でも、「むつ」という名前の試験船が作られましたが、1970年代に「放射能漏れ」(じつは
放射線もれ)が問題となり、廃炉にされています。
核融合を前提とした
恒星間ラムジェットはSFの題材ともなっているが、基礎研究はすでに行われている。
- 原子力衛星
- 原子力電池ではなく小型原子炉を動力源とする人工衛星(軍用)。
宇宙開発初期に、米ソによって複数打ち上げられたが、現在は打ち上げられていない。
旧ソ連のコスモス954号(Kosmos 954)は1977年に打ち上げられたが、翌年カナダ北西部に墜落し
汚染事故を引き起こした。
原子炉
核分裂性原子核を含む燃料(核燃料)を入れた中性子反応炉。
炉心(核燃料、減速材、反射材などからなる)、冷却材、制御棒、構造材、放射線防御設備
などで構成され、様々な種類がある。
研究用、動力用を問わず原子炉には「原子炉主任技術者」が任命されなければ
ならない。
用途で分類すると以下のように分けられる。
- 試験用原子炉、研究用(中性子照射用)原子炉
- 生産用原子炉(アイソトープ、燃料転換)
- 動力用原子炉(発電、交通動力)
中性子エネルギーや減速材で分類すると以下のように分けられる。
- 熱中性子炉(黒鉛減速炉、軽水減速炉、重水減速炉)
- 中速中性子炉
- 高速中性子炉
炉心構造で分類すると以下のように分けられる。
冷却材で分類すると以下のように分けられる。
現在、日本の商用発電炉は全て熱中性子炉の内でも軽水炉(BWRまたはPWRと呼ばれる)に
限られているので、本講義もそれを中心に行う。
臨界集合体
主に臨界試験等の用途で用いられる低熱出力の原子炉。
臨界に達しないものを未臨界集合体、加速器からの中性子ビームを援用する
ものをビーム支援臨界集合体とも呼ぶ。
加速器
荷電粒子を加速する装置の総称。原子核/素粒子の実験に用いられるほか癌治療などにも応用される。
静電加速器、線形加速器、サイクロトロン等の種類がある。
最近、6MeV以上のエネルギーの加速器は放射化物の管理が法令で義務付けられた。
(放射性元素から出る放射線のエネルギーはこれよりは小さいため、中性子線および
二次中性子を発生する放射線以外は放射化のおそれは小さい。)
核融合炉(核融合実験装置)
制御熱核融合研究のための実験装置。
トカマク型、ヘリカル型、ミラー型などの磁気閉じ込め方式と
レーザーを利用した慣性閉じ込め装置に大別されている。
原子力研究機構のJT-60Uは、臨界条件の超高温プラズマを
閉じ込めることが可能として、唯一法律上の放射線発生装置と
されていたが、
現在は廃棄され、JT-60SA装置として再建設された。
平成26年度に
放射線障害防止法施行令が修正され、原子力規制委員会が必要と認めたものも
放射線発生装置と見なされることとなった。臨界条件には達しないものの
重水素実験を実施した大型ヘリカル装置LHDもこれにより
放射線発生装置としての管理を受け流こととなったが、2023年に重水素実験を
終了し、放射線発生装置としての登録解除が認められた。
ITERは、フランスで建設中の装置で、当初2020年完成
予定だったが、2025年の完成も怪しくなった。
10keV以上のエネルギー状態を実現することが
できるようになり、初めて原子核融合反応を維持できると期待されています。