核融合プラズマ


本章では制御核融合反応を利用するための高温プラズマ物理学と様々な周辺技術について学ぶ。
(参考書) 「核融合のためのプラズマ物理学」宮本健郎(岩波書店)、 「プラズマエネルギーのすべて」プラズマ核融合学会(日本実業出版社)、 「核融合への挑戦」吉川庄一(ブルーバックス)

星の核融合

日常、認識することは少ないが、太陽を始めとする星々のエネルギー源は核融合反応であり、 その副産物(中性子捕獲反応とβ崩壊による)として、あらゆる元素(より正確には核種)が作られている。

夜空に見える星の多くは天然の核融合炉で、日本の法律上は原子力の一種です。 さて、天然の核融合炉の星も、少しずつ反応が違います。 小さな星は、水素を燃料として 1000億年以上も光り続きますし、 大きな星は短期間で炭素や酸素の核融合も起こします。 冬の星座で有名なオリオン座のペテルギウスは、宇宙的な感覚では比較的地球の近くにある巨星ですが、 超新星になる直前だと言われています。

では、私たちの太陽(ソル)の内部では何が起っているのでしょうか? この問いは、ベーテが初めて解明しました。
p + p → d + e + ν
d + p → 3He + γ
3He + 3He → α + p + p
ここで、最初の重陽子合成は弱い相互作用による核子の変換が含まれており極めて反応速度が遅いです。 他の2つは強い相互作用による核子の組合せの変更だけですので速く進みます。

実のところ、核融合反応を起るコアが星全体の10分の1程度のコンパクトな大きさであっても、 太陽のコアでのエネルギー生成密度は、人間の体温維持の熱量並みです。 太陽の作り出す膨大なエネルギーは、太陽の膨大なサイズがあってこそ可能な訳です。

地上の核融合

最も低温でも起る可能性があるのは次のDT反応である。
d + t → α + n + 17.58 MeV
もし、この反応が持続する条件が保持される(具体的にはアルファ粒子の 運動エネルギーで炉心プラズマの温度が保持される)とすれば、 少数であるがDD反応も起っている。
d + d → 3He + n + 3.27 MeV
d + d → t + p + 4.04 MeV
トリトン(三重水素の原子核)は放射性で、天然にはほとんど 存在しないため、ブランケット内での次の反応で生成する必要があります。
6Li + n → t + α + 4.8 MeV
リチウム6は天然リチウムの中で少数で、大部分を占める リチウム7は高速中性子としかトリチウム生成反応をおこさない。

中性子の関与する核反応は(核分裂と同様に)低温でも起こるが、 重陽子や三重陽子が核反応を起こす(核力の相互作用を及ぼす) ほど近接するためには、メガ電子ボルト相当のクーロン障壁を 克服するだけのエネルギーが必要である。しかし、量子力学的な トンネル効果を考慮すれば、10〜100keVのエネルギーで 核融合が起こると予想される。熱運動でこの程度のエネルギーを 持つ高エネルギー成分が存在するためには、10KeV程度の 温度で十分であり、このとき燃料の水素同位体は 軌道電子が完全に原子核から分離した プラズマ状態にある。(サハの平衡式)

従って、制御熱核融合の研究の歴史は、超高温完全電離プラズマの 研究の歴史に他ならない。


制御核融合の歴史的経緯

1950年年代前半
水素爆弾(hydrogen bomb,thermonuclear weapon)の秘密開発。 原爆の放射線を利用した一種の間接照射爆縮による慣性閉じ込めであると推定されるが詳細は 未だ未公開。水爆の成功により、制御核融合に付いても楽観視され、国の威信をかけた研究という位置づけでした。

ZETA(英),steralleator(米),Tokamak(ソ),ミラー(米、ソ)

アルゼンチンのペロン声明(誤報)
"On February 16, 1951, in the... Isla Huemul... thermonuclear reactions under controlled conditions were performed on a technical scale."

1955年(第1回原子力平和利用国際会議)
Bhabhaの予言(20年以内に制御核融合の実現)。

1957年
ローソン条件(Lawson criterion)で定量的な議論が可能となると、 制御核融合炉までの長い道のりがはっきりしました。。

1958年(第2回原子力平和利用国際会議)
情報公開。

原子力委員会核融合専門部会。A/B計画。(プラズマ研究所)

1960年年代
煉獄(Purgatory)の時代。

様々なプラズマ閉じ込め方式が淘汰されていきましたが、 巨視的不安定性、異常輸送、追加熱による閉じ込め劣化により先は見えていませんでした。

1970年年代
トカマクの発展。タンデムミラー、ヘリオトロンの建設。

平均極小磁場、改善閉じ込め(H-mode)などの研究成果を反映。

1980年代
3大トカマクの稼働。

1990年
低温核融合フィーバー。

1990年代
DT燃焼、臨界条件の達成。

2000年代
ITER計画の停滞(誘致合戦)と建設開始。アジアの超伝導トカマク。

2012年
NIFでの臨界実験(未達成)。


制御核融合プラズマの条件


臨界条件、ローソン条件、自己点火条件

核融合反応によるエネルギー発生率 PNF=(n/2)2<σv> EF が、 プラズマを高温に保つために必要な加熱入力Pheat に等しい時を臨界条件(brake even)という。

実際には、核融合発生エネルギーを100%加熱に費やすことはできない。 この効率をηとし、加熱入力Pheat=ηPNF が、輻射損失 PR と、拡散損失 PL=3nT/τE の総和に等しいと置いて、発電プラントに必要な nτEの最小値をTの関数として求めることが出来る。 特に、η=1/3という、通常の熱機関の効率を用いたものを ローソン条件という。
プラズマイオンの数密度(m<sup>-3)とエネルギー閉じ込め時間(s)の積が 最低でも10の20乗を超える必要があることが示されます。

DT反応に置いては、PNFの1/5はα粒子に分配され、 これの閉じ込めが良ければ直接プラズマの加熱に寄与する。 従って、η=1/5とした時の条件を自己点火条件(self ignition)と言う。


閉じこめ磁場配位


MHD平衡

プラズマを磁場で閉じ込めるためには プラズマを電磁流体とみなして考えると、定常状態でプラズマに働く電磁力と 流体力学的な力がつりあっている必要がある。
∇ p = j × B

ベクトルjおよびBはいずれもpの勾配に直交することから、 jとBはいずれも等圧面上に乗っていることがわかる。 アンペールの法則(∇ × B = μ0 j)と組み合わせると、 圧力が磁気圧と釣り合っていることが示される。
∇ (p+B2/2μ0) = (1/μ0)(B⋅∇)B

磁場が湧き出しなし(磁力線に端がない)なので、閉じ込め磁場配位はドーナツ状の磁気面になり、 磁力線が磁気面を多い尽くすことになる。

特に、トロイダル方向(ドーナツの主軸周りの方向)に一様性がある 軸対称系閉じ込め磁場では、ψ=rAφが磁気面関数を与え、 Grad-Shafranov方程式と呼ばれる2階微分方程式の解になっている。 このとき、圧力およびrBφはψのみの関数で 右辺の源の項を与える。
ヘリカル系などの非軸対称系に対しては、厳密な磁気面関数の存在は 証明されていないが、実用的な範囲で近似的な磁気面構造が 存在することが、実験的にも示されている。

磁気面上の磁力線のねじれ具合を回転変換(あるいは安全係数)と言い、 その値が低次の有理数のとき磁気面構造が変動にたいして脆弱になる。 隣り合う磁気面の回転変換の違いをシアー(ずり)、 平均な磁場強度の極小性を示す比容積とその空間微分などは 磁気面の安定性を示す磁気面量である。


不安定性


プラズマの加熱

プラズマを核融合反応が起こる温度まで加熱するには、 プラズマ中に非熱的過程でエネルギーを注入し、熱的緩和 過程を利用する。


磁場中の輸送

統計力学によれば、衝突による 拡散過程では拡散係数の大きさは衝突に伴う空間変位のステップ長さの2乗と衝突 周波数の積で与えられる。(古典拡散)しかし、核融合プラズマの輸送過程は もっと複雑である。
新古典輸送
閉じ込め磁場は空間的に非一様であり、その様な局所磁気ミラーに捕捉された イオンや電子は極めて大きなステップ長を持つため、拡散係数が非常に大きくなる。 また、電子とイオンの拡散係数は大きく異なるため、両者の粒子束が等しくなる様に 径方向電場が形成される。
ボーム拡散
核融合研究の初期に実験的に見いだされた、新古典拡散より 遥かに大きな拡散。これを克服しないと核融合の実現は不可能と言われていた。 (煉獄の時代)
異常輸送
ボーム拡散も含めて、新古典輸送で説明できない輸送の総称。 現在は、イオンや電子の2体衝突ではなく、微視的な乱流にもとづく 輸送であると理解されている。 まだ、異常輸送は完全に理解された訳ではないが、いわゆる 閉じ込め改善モードでは、新古典郵送レベルにまで輸送を低減することができる。
加熱による閉じ込め劣化(Lモード)
トカマク等で追加熱実験が始まると、閉じ込め時間(異常輸送で決まる)が 加熱パワーの凡そ0.5乗に反比例して劣化することが見いだされた。(Kaye-Goldston scaling) つまり、加熱パワーを4倍にしてやっと到達温度が2倍になるということになり、 1980年前後の核融合研究の主要問題となっていた。
Hモード、内部輸送障壁
ダイバーターを備えた西ドイツ(当時)のトカマクASDEXで初めて、 プラズマの密度や温度の周辺部の分布にペデスタルが形成され、そこでの 閉じ込めが大幅に改善される現象が報告され、Hモードと命名された。 現在のところ、径電場によるプラズマのポロイダル回転または回転速度のシアが 閉じ込め改善に寄与していると考えられている。

お湯を入れた底の深い鍋で、側面からの放熱でお湯が冷えていく時に、 鍋の側面に沿ってお湯の中に流れをつくると、熱の損失が押さえられることが示すことができます。 この流れを帯状流(ゾーナルフロー)とよび、お湯の温度分布をくわしく調べると、 帯状流の位置で温度の径方向の勾配が大きく変化することが見いだされます。 これが、内部輸送障壁で起っていることと同じで、 この場所で、実効的な熱伝導係数が大きく減少しています。磁場閉じ込めされたプラズマ中の輸送は、 プラズマ中の微視的な乱流で支配されています。 巨視的な流れにより、微視的乱流が抑制されたものが、各種の輸送障壁と考えられています。

その後、安全係数の分布が極小値を持つような場合にはプラズマ中の 半ばに非常に閉じ込めの良い状態が実現されることも見いだされている。 臨界プラズマ条件の実現にはこれらの閉じ込め改善モードの組み合わせが 必須となっている。

周辺局在モード(ELM)
Hモードなどで形成されたペデスタルが一時的に崩壊し、蓄積されていた 熱エネルギーの例えば10%が一度にダーバーター領域に放出される現象。 核融合路の熱設計における最大の問題点である。


プラズマ壁相互作用

4大トカマクのうち、TFTRとJETで 臨界プラズマ条件と、 DTプラズマでの核融合中性子の発生が確かめられました。 なお、実際に重水素と三重水素のプラズマを生成した。 アメリカのTFTRはこの実験の後、装置の放射化のためシャットダウンされました。 日本のJT−60Uでは、重水素プラズマしか生成せず、「もし半分が三重水素なら」という計算値で 臨界条件を確認しています。 炉心プラズマはSOLプラズマに囲まれており、固体との直接相互作用は 金属リミター、あるいはダイバーター版に限られているが、第一壁にも中性粒子や熱の影響は表れています。


ダイバータ

ダイバータというのは不純物の炉心プラズマへの侵入を防ぎ、炉心で発生したヘリウム等を排気するためのものです。 様々なダイバーター構造の提案が示されていますが、 いずれのダイバータにおいても、不純物粒子と水素イオンをかき集めている訳で、 必然的にこれらの粒子が担う熱エネルギーも集中することになります。 ダイバータープラズマからの熱流束は、定常状態であっても、現在の工学的な除熱限界を超えています。 従って、放射ダイバーター、ガスブランケット、非接触プラズマ等のプラズマ側の工夫や、 液体リチウムダイバーターなどの抜本的工夫が必要となっています。 その上、ELM時の巨大なパルス熱流束に対して これらの熱制御が有効であるかどうかは未だ不明です。

直線型ダイバーター模擬装置MAP-IIでは、左から来たプラズマが右のターゲット板にあたっています。 ターゲット容器のガス圧を上げていくとプラズマの発光が消えています。これは、 非接触プラズマが形成されている(電子温度が50ミリ電子ボルト、つまり絶対温度600K以下にまで 下がっている)ことによることが分かります。

大型ヘリカル装置のダイバータレッグ部に、センサーを設置し、センサーHDLPのターゲットの温度変化から、 センサーが受ける熱流束を決定しました。温度変化のデータからはよくわかりませんが、 プラズマの非接触化が起ると(#99252では)、レッグ部にくる粒子だけでなく、熱も時間的にゼロまで 落ちていることを、世界で初めて正確に示すことができています。 この実験では、水素ガスを吹き付けるだけではプラズマの非接触化は達成されず、 放射損失の大きいネオンガスを少量追加することで非接触化が達成されています。


トリチウム取り扱い

核融合炉は核分裂炉に比べて放射線の問題が少ないと言われている。 核反応で長寿命のα放射核種を生まないこと、高いエネルギーの中性子による 放射化は構造材の組成の工夫で避けられることなどによる。しかし、 燃料として使用するトリチウムの量はかつて経験が無いほど膨大であり、 その閉じ込め、監視(計測)などは必ずしも容易ではない。 例えば、ITERでのDT実験に必要なトリチウム量の確保すら めどがたっていないと言われる。

おそらく、核融合炉の最後の技術的課題がこれらトリチウムの取り扱い であり、これを解決すれば(あるいはD-D反応炉の様にトリチウム問題を 回避できれば)核融合の実証炉が作られるであろう。