核融合プラズマ
本章では制御核融合反応を利用するための高温プラズマ物理学と様々な周辺技術について学ぶ。
(参考書)
「核融合のためのプラズマ物理学」宮本健郎(岩波書店)、
「プラズマエネルギーのすべて」プラズマ核融合学会(日本実業出版社)、
「核融合への挑戦」吉川庄一(ブルーバックス)
星の核融合
日常、認識することは少ないが、太陽を始めとする星々のエネルギー源は核融合反応であり、
その副産物(中性子捕獲反応とβ崩壊による)として、あらゆる元素(より正確には核種)が作られている。
夜空に見える星の多くは天然の核融合炉で、日本の法律上は原子力の一種です。
さて、天然の核融合炉の星も、少しずつ反応が違います。
小さな星は、水素を燃料として 1000億年以上も光り続きますし、
大きな星は短期間で炭素や酸素の核融合も起こします。
冬の星座で有名なオリオン座のペテルギウスは、宇宙的な感覚では比較的地球の近くにある巨星ですが、
超新星になる直前だと言われています。
では、私たちの太陽(ソル)の内部では何が起っているのでしょうか?
この問いは、ベーテが初めて解明しました。
p + p → d + e + ν
d + p → 3He + γ
3He + 3He → α + p + p
ここで、最初の重陽子合成は弱い相互作用による核子の変換が含まれており極めて反応速度が遅いです。
他の2つは強い相互作用による核子の組合せの変更だけですので速く進みます。
実のところ、核融合反応を起るコアが星全体の10分の1程度のコンパクトな大きさであっても、
太陽のコアでのエネルギー生成密度は、人間の体温維持の熱量並みです。
太陽の作り出す膨大なエネルギーは、太陽の膨大なサイズがあってこそ可能な訳です。
地上の核融合
最も低温でも起る可能性があるのは次のDT反応である。
d + t → α + n + 17.58 MeV
もし、この反応が持続する条件が保持される(具体的にはアルファ粒子の
運動エネルギーで炉心プラズマの温度が保持される)とすれば、
少数であるがDD反応も起っている。
d + d → 3He + n + 3.27 MeV
d + d → t + p + 4.04 MeV
トリトン(三重水素の原子核)は放射性で、天然にはほとんど
存在しないため、ブランケット内での次の反応で生成する必要があります。
6Li + n → t + α + 4.8 MeV
リチウム6は天然リチウムの中で少数で、大部分を占める
リチウム7は高速中性子としかトリチウム生成反応をおこさない。
中性子の関与する核反応は(核分裂と同様に)低温でも起こるが、
重陽子や三重陽子が核反応を起こす(核力の相互作用を及ぼす)
ほど近接するためには、メガ電子ボルト相当のクーロン障壁を
克服するだけのエネルギーが必要である。しかし、量子力学的な
トンネル効果を考慮すれば、10〜100keVのエネルギーで
核融合が起こると予想される。熱運動でこの程度のエネルギーを
持つ高エネルギー成分が存在するためには、10KeV程度の
温度で十分であり、このとき燃料の水素同位体は
軌道電子が完全に原子核から分離した
プラズマ状態にある。(サハの平衡式)
従って、制御熱核融合の研究の歴史は、超高温完全電離プラズマの
研究の歴史に他ならない。
制御核融合の歴史的経緯
- 1950年年代前半
- 水素爆弾(hydrogen bomb,thermonuclear weapon)の秘密開発。
原爆の放射線を利用した一種の間接照射爆縮による慣性閉じ込めであると推定されるが詳細は
未だ未公開。水爆の成功により、制御核融合に付いても楽観視され、国の威信をかけた研究という位置づけでした。
ZETA(英),steralleator(米),Tokamak(ソ),ミラー(米、ソ)
アルゼンチンのペロン声明(誤報)
"On February 16, 1951, in the... Isla Huemul... thermonuclear reactions under controlled conditions were performed on a technical scale."
- 1955年(第1回原子力平和利用国際会議)
- Bhabhaの予言(20年以内に制御核融合の実現)。
- 1957年
- ローソン条件(Lawson criterion)で定量的な議論が可能となると、
制御核融合炉までの長い道のりがはっきりしました。。
- 1958年(第2回原子力平和利用国際会議)
- 情報公開。
原子力委員会核融合専門部会。A/B計画。(プラズマ研究所)
- 1960年年代
- 煉獄(Purgatory)の時代。
様々なプラズマ閉じ込め方式が淘汰されていきましたが、
巨視的不安定性、異常輸送、追加熱による閉じ込め劣化により先は見えていませんでした。
- 1970年年代
- トカマクの発展。タンデムミラー、ヘリオトロンの建設。
平均極小磁場、改善閉じ込め(H-mode)などの研究成果を反映。
- 1980年代
- 3大トカマクの稼働。
- 1990年
- 低温核融合フィーバー。
- 1990年代
- DT燃焼、臨界条件の達成。
- 2000年代
- ITER計画の停滞(誘致合戦)と建設開始。アジアの超伝導トカマク。
- 2012年
- NIFでの臨界実験(未達成)。
制御核融合プラズマの条件
臨界条件、ローソン条件、自己点火条件
核融合反応によるエネルギー発生率
PNF=(n/2)2<σv> EF
が、
プラズマを高温に保つために必要な加熱入力Pheat
に等しい時を臨界条件(brake even)という。
実際には、核融合発生エネルギーを100%加熱に費やすことはできない。
この効率をηとし、加熱入力Pheat=ηPNF
が、輻射損失
PR
と、拡散損失
PL=3nT/τE
の総和に等しいと置いて、発電プラントに必要な
nτEの最小値をTの関数として求めることが出来る。
特に、η=1/3という、通常の熱機関の効率を用いたものを
ローソン条件という。
プラズマイオンの数密度(m<sup>-3)とエネルギー閉じ込め時間(s)の積が
最低でも10の20乗を超える必要があることが示されます。
DT反応に置いては、PNFの1/5はα粒子に分配され、
これの閉じ込めが良ければ直接プラズマの加熱に寄与する。
従って、η=1/5とした時の条件を自己点火条件(self ignition)と言う。
閉じこめ磁場配位
-
トーラス(環状)系
- 軸対象系
- トカマク
- ロシア語の「電流+磁場」の意味で,プラズマ中を流れる大電流によるピンチ作用で
プラズマを閉じ込め、外部コイルで作った強いトロイダル磁場で安定化する。旧ソ連の
クルチャトフ研究所で開発され、1960年頃の情報公開とイギリスチームによる
トムソン散乱計測で閉じ込めの高性能が確認されて以来、世界中で同タイプの
実験装置が作られ、現在も唯一臨界条件を満足するプラズマ閉じ込めに成功している。
世界最大のトカマクは現在はカラム研究所のJETであるが、国際協力によるITERが
現在建造中である。
- 逆転磁場ピンチ(RFP)
- プラズマ電流の生成手順に工夫を加えることにより、プラズマ内でトロイダル磁場の
反転を起こし、トカマクに比べて弱い磁場で閉じ込めを実現するのがRFP。
- スフェロマック、シータピンチ
- トカマクと異なり、ダイナモ作用を利用してトロイダル磁場も
プラズマ電流が作るもの。名称は、生成されるプラズマが球状であることから
名付けられた。
特に、ポロイダル磁場が無いものは、流れる電流の向きに
ちなんでシータピンチと呼ばれ、核融合研究の初期にはこの装置で核融合が実現できると
期待されていた。
- 球状トーラス(ST1)、コンパクトトーラス(CT)
- 通常のトカマクのアスペクト比(=大半径/小半径)を小さくし全体を球状(より正確には
リンゴ状)にしたものがST。非常に高いベータ値(=プラズマ圧力/磁気圧)が実現でき、
装置サイズがコンパクトに出来ることから、最近建設されるトカマクは多かれ少なかれSTと
区別できなくなっている。
- 内部導体系、マルチポール、スフェレーター
- スフェレーターはプリンストンの吉川が、マルチポールはGAの
大川が基礎実験に用いた装置で、当時問題となっていた異常拡散が無く
良い閉じ込め性能を示した。プラズマ電流を代替する導体がプラズマと接するために
核融合炉には応用できない。
- 非軸対象系
- ステラレーター
- プリンストン研究所で考案された装置であるが、ヘリカル磁場コイルの制作精度の
問題でトカマクほど優れた成果が得られなかったため、アメリカではこのタイプの装置は
長らく作られることはなかった。なお、名称は「星のようなもの」という意味である。
本来、次のヘリオトロン等と異なり、1対のヘリカルコイル
でポロイダル磁場のみを作り、これとトカマクと同様のトロイダルコイルの磁場を組み合わせる
ものを指していたが、最近では等価な磁場を作る複雑なモジュラーコイルを
利用するものも含めている。
- ヘリオトロン、トルサトロン
- 京都大学で考案されたものがヘリオトロンで、核融合科学研究所のLHDは
トカマク以外では最大の実験装置で、トカマクに次ぐ閉じ込め性能を実証している。
名称は、ギリシャ語の太陽(ヘリオス)から来ている。
トルサトロンはフランスで考案されたものであるが、実態はヘリカルヘリオトロン
と呼ばれるタイプと大差はない。近年では、ステラレーターも含めてヘリカル型と
称されることが多い。
- 立体磁気軸、ヘリアック、ヘリアス
- 通常のヘリカル系ではプラズマ断面の変形はあるものの、プラズマ
の形状はドーナツ状である。しかし、理論的にはらせん状に変形した(磁気軸が
平面に乗らない)配位がより好ましいと予測されていた。
実際に建造されたのは小型の装置ばかりであったが、ヘリオトロンJは
磁気軸の旋回を積極的に取り入れている。
- バンピートーラス
- 直線型であるミラーを多数連結してトーラス型にして
端損失を無くしたもの。そのままではポロイダル磁場が無いため、
トーラス磁場配位としては不安定である為、相対論的エネルギー電子ビーム(REB)
による安定化の研究が行われた。
-
開放端(直線)系
- ミラー、タンデムミラー
- 磁力線方向の閉じ込めは磁気モーメントの断熱不変性を利用するが、
磁力線に平行なイオンは失われる。(ロスコーン)そこで、3つのミラーを並べ、
両端のミラー内に静電閉じ込めのための電位障壁を生成するのがタンデムミラーである。
このプラグ電位形成の為の循環電力が大きいため、臨界条件の達成は難しいと
考えられ、既存の装置はトカマク等のダイバーター模擬装置として転用されている。
- カスプ
- 単純ミラーでは交換不安定性に対して不安定であったが、コイル電流の一部の
向きを反転して最小B配置を実現している。ただし、磁場ゼロの点が存在するため、
そこで磁気モーメントの保存は破れている。
- 反転磁場配位(RFC)
- ミラー磁場中に方位各方向にプラズマ電流を流し、引き延ばされた
トカマクのような配位を
実現したもの。β値を極めて高く取れるという理論的予想があったため、
アドバンス燃料核融合の発電炉の概念設計がなされたことがある。
MHD平衡
プラズマを磁場で閉じ込めるためには
プラズマを電磁流体とみなして考えると、定常状態でプラズマに働く電磁力と
流体力学的な力がつりあっている必要がある。
∇ p = j × B
ベクトルjおよびBはいずれもpの勾配に直交することから、
jとBはいずれも等圧面上に乗っていることがわかる。
アンペールの法則(∇ × B = μ0 j)と組み合わせると、
圧力が磁気圧と釣り合っていることが示される。
∇ (p+B2/2μ0) = (1/μ0)(B⋅∇)B
磁場が湧き出しなし(磁力線に端がない)なので、閉じ込め磁場配位はドーナツ状の磁気面になり、
磁力線が磁気面を多い尽くすことになる。
特に、トロイダル方向(ドーナツの主軸周りの方向)に一様性がある
軸対称系閉じ込め磁場では、ψ=rAφが磁気面関数を与え、
Grad-Shafranov方程式と呼ばれる2階微分方程式の解になっている。
このとき、圧力およびrBφはψのみの関数で
右辺の源の項を与える。
ヘリカル系などの非軸対称系に対しては、厳密な磁気面関数の存在は
証明されていないが、実用的な範囲で近似的な磁気面構造が
存在することが、実験的にも示されている。
磁気面上の磁力線のねじれ具合を回転変換(あるいは安全係数)と言い、
その値が低次の有理数のとき磁気面構造が変動にたいして脆弱になる。
隣り合う磁気面の回転変換の違いをシアー(ずり)、
平均な磁場強度の極小性を示す比容積とその空間微分などは
磁気面の安定性を示す磁気面量である。
不安定性
-
MHD不安定性(巨視的不安定性)
プラズマリング(1次元的にはプラズマ柱)の変形を伴う不安定性。
MHD方程式に摂動ベクトルを導入し、その形状や分散関係(
時間的空間的にフーリエ展開した時の角周波数と波数の関係)で
分類される。
線形化方程式を解くか、変分問題(エネルギー原理)に適用して
不安定性の発生条件を調べることができる。
小半径方向に圧力勾配を維持するためにはある程度の大きさの
シアパラメーターの大きさが必要である。(Suydam条件)
- 交換不安定性、フルート不安定性
- プラズマと真空の境界面にたてみぞ型の変形が成長するもの。
本質的な機構はプラズマが受ける加速度によって生じる荷電分離の
成長である。いわゆる極小磁場(Min-B)で安定化される。
- バルーニング不安定性
- 磁気面のなかで磁気丘になっている部分で局所的に
境界面の変形が成長するもの。有限な抵抗が不安定性を助長する。
- ソーセージ不安定性
- プラズマ柱のくびれが成長するもの。(トロイダルモード数m=0)
縦磁場(トロイダル磁場)を導入することで安定化される。
- キンク(折れ釘)不安定性
- プラズマ柱の折れ曲がりが成長するもの。(トロイダルモード数m=1)
安全係数q=aBφ/RBθが1より大きいと
安定化される。(言い換えると、トカマクではポロイダル磁場を作り出す
プラズマ電流の大きさに上限が課せられる。Kruskal-Shafranovの条件)
- ηiモード
- イオンの温度勾配の密度勾配に対する比ηiが
大きいときに生じる。
- ティアリング(裂け)不安定性
- プラズマの抵抗が大きい(磁気レイノルズが小さい)とき磁気面構造が
破壊され、0次磁場と摂動が平行となる位置に磁気島が成長する。
- 抵抗性(散逸性)ドリフト不安定性
- 磁場に垂直方向のプラズマの圧力勾配によるドリフトが駆動力となる
静電不安定性。磁場方向には伝播しない。
磁場閉じ込めプラズマには普遍なため、ユニバーサル
不安定性とも呼ばれる。イオンのラーマ半径が摂動波長より大きいと
成長し、イオン温度を高めることで安定化される。
-
運動論的不安定性(微視的不安定性)
プラズマの速度分布関数がマックスウエル分布からずれることに
より生じる不安定性。
ボルツマン方程式とポアソンの方程式(電磁モードであればアンペールの法則)
を連立させて解析する必要がある。
- 二流体(複流)不安定性
- 磁場方向に複数の粒子群(ビーム)がドリフトするとき、
ビーム中の粒子のバンチング(bunching)が空間電荷を成長させるもの。
- 捕捉粒子安定性
- トーラス磁場外側に捕捉された粒子の存在により誘起される。
バウンズ周波数領域に生じる。
- ロスコーン不安定性
- ミラー磁場中に閉じ込められたプラズマでは、磁力線方向に
運動する粒子が失われているために誘起される。
- ハリス不安定性
- 電子温度が低く、磁場に垂直方向の温度が高い(温度の非等方性)
時に、イオンサイクロトロン高周波に生じる。
プラズマの加熱
プラズマを核融合反応が起こる温度まで加熱するには、
プラズマ中に非熱的過程でエネルギーを注入し、熱的緩和
過程を利用する。
- ジュール(オーミック)加熱
トーラス中にトランスの原理で誘起されるトロイダル電場により
電流を流し、プラズマを加熱する。完全電離プラズマの電気抵抗は
温度と共に低下するため、トカマクではkeV程度までしか達成できない。
(RFPでは流せる電流が大きいため、いわゆるオーム点火の可能性がある。)
なお、プラズマの密度が低いと逃走電子が発生し、不安定性やX線の
発生につながる恐れがある。
- 中性粒子ビーム入射(NBI)加熱
静電的に100〜1000keVに加速された水素イオンを中性化した後
プラズマに入射する。粒子補給の手段としても使われている。
プラズマのサイズが大きくなるにつれてビームエネルギーを
あげる必要があり、中性化効率の観点から負イオンビーム源
の利用が始まっている。
- 電子サイクロトロン(ECH)加熱
電子サイクロトロン周波数領域(数10GHz)の電磁波のエネルギーを
サイクロトロン減衰を通してプラズマに吸収させる。
プラズマ中を伝播するためには複雑なモード変換を
利用する必要がある。
- イオンサイクロトロン加熱
イオンサイクロトロン周波数領域(数10MHz)の電磁波のエネルギーを
サイクロトロン減衰を通してプラズマに吸収させる。
表皮効果による電力損失を避けるためには、近接したアンテナの設計が
必要で、プラズマ壁相互作用および放射化の観点から問題が残る。
- アルファ粒子加熱
DT反応で生じた高エネルギーイオンの緩和過程を利用する。
他の方法と同様にイオンの閉じ込めが重要であるほか、
燃料の希釈を避けるための
エネルギーを失ったヘリウム灰の排出の問題も未解決である。
磁場中の輸送
統計力学によれば、衝突による
拡散過程では拡散係数の大きさは衝突に伴う空間変位のステップ長さの2乗と衝突
周波数の積で与えられる。(古典拡散)しかし、核融合プラズマの輸送過程は
もっと複雑である。
- 新古典輸送
- 閉じ込め磁場は空間的に非一様であり、その様な局所磁気ミラーに捕捉された
イオンや電子は極めて大きなステップ長を持つため、拡散係数が非常に大きくなる。
また、電子とイオンの拡散係数は大きく異なるため、両者の粒子束が等しくなる様に
径方向電場が形成される。
- ボーム拡散
- 核融合研究の初期に実験的に見いだされた、新古典拡散より
遥かに大きな拡散。これを克服しないと核融合の実現は不可能と言われていた。
(煉獄の時代)
- 異常輸送
- ボーム拡散も含めて、新古典輸送で説明できない輸送の総称。
現在は、イオンや電子の2体衝突ではなく、微視的な乱流にもとづく
輸送であると理解されている。
まだ、異常輸送は完全に理解された訳ではないが、いわゆる
閉じ込め改善モードでは、新古典郵送レベルにまで輸送を低減することができる。
- 加熱による閉じ込め劣化(Lモード)
- トカマク等で追加熱実験が始まると、閉じ込め時間(異常輸送で決まる)が
加熱パワーの凡そ0.5乗に反比例して劣化することが見いだされた。(Kaye-Goldston scaling)
つまり、加熱パワーを4倍にしてやっと到達温度が2倍になるということになり、
1980年前後の核融合研究の主要問題となっていた。
- Hモード、内部輸送障壁
- ダイバーターを備えた西ドイツ(当時)のトカマクASDEXで初めて、
プラズマの密度や温度の周辺部の分布にペデスタルが形成され、そこでの
閉じ込めが大幅に改善される現象が報告され、Hモードと命名された。
現在のところ、径電場によるプラズマのポロイダル回転または回転速度のシアが
閉じ込め改善に寄与していると考えられている。
お湯を入れた底の深い鍋で、側面からの放熱でお湯が冷えていく時に、
鍋の側面に沿ってお湯の中に流れをつくると、熱の損失が押さえられることが示すことができます。
この流れを帯状流(ゾーナルフロー)とよび、お湯の温度分布をくわしく調べると、
帯状流の位置で温度の径方向の勾配が大きく変化することが見いだされます。
これが、内部輸送障壁で起っていることと同じで、
この場所で、実効的な熱伝導係数が大きく減少しています。磁場閉じ込めされたプラズマ中の輸送は、
プラズマ中の微視的な乱流で支配されています。
巨視的な流れにより、微視的乱流が抑制されたものが、各種の輸送障壁と考えられています。
その後、安全係数の分布が極小値を持つような場合にはプラズマ中の
半ばに非常に閉じ込めの良い状態が実現されることも見いだされている。
臨界プラズマ条件の実現にはこれらの閉じ込め改善モードの組み合わせが
必須となっている。
- 周辺局在モード(ELM)
- Hモードなどで形成されたペデスタルが一時的に崩壊し、蓄積されていた
熱エネルギーの例えば10%が一度にダーバーター領域に放出される現象。
核融合路の熱設計における最大の問題点である。
プラズマ壁相互作用
4大トカマクのうち、TFTRとJETで
臨界プラズマ条件と、 DTプラズマでの核融合中性子の発生が確かめられました。
なお、実際に重水素と三重水素のプラズマを生成した。
アメリカのTFTRはこの実験の後、装置の放射化のためシャットダウンされました。
日本のJT−60Uでは、重水素プラズマしか生成せず、「もし半分が三重水素なら」という計算値で
臨界条件を確認しています。
炉心プラズマはSOLプラズマに囲まれており、固体との直接相互作用は
金属リミター、あるいはダイバーター版に限られているが、第一壁にも中性粒子や熱の影響は表れています。
- アウトガス
一般に大気中に曝された金属壁には多量の(真空放電の意味で)気体分子が吸着している。
プラズマ放電が始まると、イオンが吸着した分子をたたき出し、真空度を低下させて
放電を不安定化させる。
従って、核融合実験装置では、予め吸着した分子を排気し、さらに容器壁にチタン等を蒸着させて
残留ガスを強く吸着させたりしています。
- 放射冷却
壁から混入する不純物は電荷数が大きいため、輻射パワーを増大させ、プラズマの
温度を上げるのを妨げる。
重い元素ほど放射冷却が大きく、臨界ブラズマを作り出すのに 許容できる混入量がちいさくなる。
- 燃料希釈
イオンのスパッタリングなどでたたき出された壁原子は多量の電子を放出して多価イオンに
まる。磁場閉じ込めの性能に制限があることから、この時には燃料となる水素イオンの
割合が減ることを意味する。
- スパッタリング
プラズマ中のイオンが固体に入射すると物理的に表面の原子をたたき出すか、
化学反応により表面層が失われる。
炭素の場合、特定の壁温度で水素イオンと化学反応してメタンを生成する 化学スパッタリングが予想されます。
プラズマ対向壁にはスパッタリングのしきい値の高い金属が使われています。
- 熱制御
ダイバータープラズマからの熱流束は、定常状態であっても、現在の工学的な
除熱限界を超えている。従って、放射ダイバーター、ガスブランケット、
非接触プラズマ等のプラズマ側の工夫や、液体リチウムダイバーターなどの
抜本的工夫が必要である。しかし、ELM時の巨大なパルス熱流束に対して
これらが有効であるかどうかは未だ不明である。
- 周辺局在モード(ELM)
ELMは、 Hモードなどで形成されたペデスタル(密度や温度の分布にみられるこぶ)が一時的に崩壊し、
蓄積されていた熱エネルギーの例えば10%が一度にダーバーター領域に放出される現象です。
現在の核融合路の熱設計における最大の問題点になっています。
- 水素吸蔵
主プラズマへの影響を最低限にするため、これまでは低Z元素である炭素(カーボン)を
ダイバーター版や第一壁に用いることが多かった。かつては、
ヨーロッパの国際協力材料試験トカマク装置で、日本人がタングステンやモリブデンの
プラズマ照射をしたいという実験プロポーザルをした時には、散々非難され、
実験期間の最後に短時間だけ認められたということがありました。
しかし、炭素は多量の水素をとりこむ
性質があるため、炉心内のトリチウム量の制限から利用が制限され始めている。
- タングステンファズ(fuzz)
炭素の代わりに用いられ始めているタングステンであるが、高温状態で多量の
ヘリウムイオン照射を受けると表面に微小な樹枝状突起構造が形成され、
トリチウム吸蔵、単極アークの発生、ダスト粒子の発生などを引き起こす
可能性が懸念されている。
このfuss現象は、名古屋大学のグループから最初に報告されました。
タングステンは非常に高いスパッタリングのしきい値を持つため、
ダイバーター領域のプラズマイオンの熱エネルギーや固体境界で生まれる
電位差(シース電位)によるエネルギーでは全く影響内と思われていましたが、
水素ではなくヘリウムのプラズマ照射を続けると表面がボロボロになったのです。
その後、核融合研のシミュレーショングループがこの現象のモデル化を試みたり、
大阪大学の材料研究のグループが、イオンおよび金属の組合せの違いを調べたり、
名古屋大学でプラズマ壁相互作用へのインパクトを調べたりして、この研究を日本の研究者がリードしています。
2018年には、プラズマ・核融合学会誌の小特集としてタングステンファズが取り上げられています。
ファズが形成されたタングステンは、二次電子の能出が多く、また熱放射係数が大きい(ほとんど1の黒体と同じ)反面、
熱伝導率などが(局所的には)小さくなっています。これらの性質を積極的に利用しようと、提案されています。
ダイバータ
ダイバータというのは不純物の炉心プラズマへの侵入を防ぎ、炉心で発生したヘリウム等を排気するためのものです。
様々なダイバーター構造の提案が示されていますが、
いずれのダイバータにおいても、不純物粒子と水素イオンをかき集めている訳で、
必然的にこれらの粒子が担う熱エネルギーも集中することになります。
ダイバータープラズマからの熱流束は、定常状態であっても、現在の工学的な除熱限界を超えています。
従って、放射ダイバーター、ガスブランケット、非接触プラズマ等のプラズマ側の工夫や、
液体リチウムダイバーターなどの抜本的工夫が必要となっています。
その上、ELM時の巨大なパルス熱流束に対して これらの熱制御が有効であるかどうかは未だ不明です。
直線型ダイバーター模擬装置MAP-IIでは、左から来たプラズマが右のターゲット板にあたっています。
ターゲット容器のガス圧を上げていくとプラズマの発光が消えています。これは、
非接触プラズマが形成されている(電子温度が50ミリ電子ボルト、つまり絶対温度600K以下にまで
下がっている)ことによることが分かります。
大型ヘリカル装置のダイバータレッグ部に、センサーを設置し、センサーHDLPのターゲットの温度変化から、
センサーが受ける熱流束を決定しました。温度変化のデータからはよくわかりませんが、
プラズマの非接触化が起ると(#99252では)、レッグ部にくる粒子だけでなく、熱も時間的にゼロまで
落ちていることを、世界で初めて正確に示すことができています。
この実験では、水素ガスを吹き付けるだけではプラズマの非接触化は達成されず、
放射損失の大きいネオンガスを少量追加することで非接触化が達成されています。
トリチウム取り扱い
核融合炉は核分裂炉に比べて放射線の問題が少ないと言われている。
核反応で長寿命のα放射核種を生まないこと、高いエネルギーの中性子による
放射化は構造材の組成の工夫で避けられることなどによる。しかし、
燃料として使用するトリチウムの量はかつて経験が無いほど膨大であり、
その閉じ込め、監視(計測)などは必ずしも容易ではない。
例えば、ITERでのDT実験に必要なトリチウム量の確保すら
めどがたっていないと言われる。
おそらく、核融合炉の最後の技術的課題がこれらトリチウムの取り扱い
であり、これを解決すれば(あるいはD-D反応炉の様にトリチウム問題を
回避できれば)核融合の実証炉が作られるであろう。