フィッサイルであるウラン235の割合から、天然ウラン、低濃縮ウラン、高濃縮ウラン、 さらにプルトニウムを混合したMOX(Mixed oxide fuel)などがあります。
天然ウランは235Uの割合が0.7%しかなく、これをそのまま燃料として 用いるのはコルダーホール型(黒鉛減速ガス冷却炉)や新型転換炉(重水減速軽水冷却炉)がある。 通常の軽水炉では再生率 ηを高めるため燃料ウランは濃縮されるが、費用と電力の節約のため 濃縮度は2〜3%である。研究用原子炉は高い中性子束を要するため90〜100%の高濃縮ウランが 使われていましたが、最近核セキュリティの理由から核燃料の低濃縮化が進められています。
原子炉物理学の考察より、熱中性子炉の減速材には、 中性子をよく散乱する(Σsが大きい)こと、 エネルギー対数減水率ξが大きい(減速能ξ Σsが大きい)こと、 吸収が小さい(減速比ξ Σs/Σaが大きい)ことが求められる。
軽水は減速能は重水やグラファイトに比べて大きいが、大きな中性子吸収のため減速比が小さく、 天然ウラン燃料原子炉の減速材には用いることができない。
原子炉の安全な作動のためには炉の冷却が必要であり、炉の熱出力は熱力学的な 冷却条件で決まる。さらに発電用原子炉ではできるだけ多量の熱エネルギーを 原子炉から有効に取り出し発電機の駆動という仕事に変えなければならない。
このように原子炉で発生した熱エネルギーを原子炉の外へ運び出すための材料(流体物質) を冷却材という。実用上のガス状冷却材として空気、炭酸ガス、ヘリウムがあり、 液体状冷却材として軽水、重水、炭化水素系有機液体(ターフェニル)、液体金属( 水銀、ナトリウム、カリウム、NaK、リチウム、ビスマス、鉛など)がある。 軽水等の様に、軽い原子核の液体状冷却材は減速材を兼ねることもできる。
関西電力を始めとする日本の原発は、低濃縮ウラン燃料軽水減速軽水冷却炉というタイプに属することが分かります。 軽水は炉物理的には、黒鉛に劣りますが、優れた熱特性のため、原発用冷却材として使われています。
中性子に対しては水や特殊コンクリートが使われ、ガンマ線に対しては 鉄、バリウム、鉛などを含む高密度物質が使われている。
予め初期段階の炉心(燃料を十分に装荷し、正の反応度を持つ)に予め中性子を吸収しやすい物質を混ぜておく、 あるいは冷却材に含ませておくという制御が、とくに動力炉で行われます。 これを、ケミカルシムと言い、制御棒が与える反応度のコントロールを補う方法です。
原子炉には、この他に中性子源として中性子を利用するもの(研究炉あるいは照射炉)があります。
大きな容器の大部分は遮蔽材の砂が入っています。従って、法律上の問題はありますが、 この砂を一旦抜けばこの原子炉は簡単に移動することができ、実際一度は東京で一般展示されたこともあるそうです。
研究炉(MTR) | 動力炉(PWR) | ||
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目的 | 中性子源として中性子を利用 | 発熱源として反応熱を利用 | |
出力密度 | 核設計で本質的に決まる | 経済的最適値をとる | |
中性子束分布 | 中性子がもれるようにピーキング(照射型は平坦化) | 燃焼度、除熱の観点より平坦化 | |
温度係数 | -0.1 ∼ -0.01 (%/°C) | -0.01 ∼ -0.001 (%/°C) | |
燃料の濃縮度 | 出力密度を上げるため高濃縮(核拡散の観点から低濃縮化) | 経済的制約から低濃縮 | |
燃料の形状 | 板状 | ペレット状 | |
燃料の化学形 | アルミニウム合金、サーメット | 酸化物 | |
被覆材 | 中性子吸収の少ないアルミニウム | 高温での耐食性のあるジルカロイ、ステンレス | |
制御棒 | 少数(円形、円環形、平板形) | 多数(十字形、ロッドクラスター) | |
制御方式 | 中性子束一定 | 圧力一定、温度一定、負荷追従など | |
発生熱 | 捨てる | 利用する | |
温度 | 低温 | 高温 | |
圧力 | 常圧 | 高圧 | |
付加設備 | 実験孔、実験設備 | タービン、浄水系 | |
スクラム条件 | 実験に不都合な場合 | 原則としてスクラムはなし | |
経済性 | 本質ではない | 本質的 |
簡単に研究炉と動力炉を比較してみましょう。 研究炉の出力密度は核設計で本質的に決まりますが、動力炉は経済的最適値をとって決めます。 中性子束分布は、研究炉では中性子がもれるようにピーキング(内部照射型は平坦化) させますが、 動力炉では燃焼度、除熱の観点より平坦化させます。 燃料の濃縮度は、研究炉では出力密度を上げるため高濃縮(核拡散の観点から低濃縮化)ですが、 動力炉では経済的制約から低濃縮とします。 燃料そのものは、研究炉では板状のアルミニウム合金などが使われますが、 動力炉ではペレット状の酸化物が利用されます。 炉心で発生する熱は、研究炉では炉の健全性を保つために外部に捨てるだけですが、 動力炉ではできるだけ有効利用をする熱設計を行います。後者の良い例が、高温ガス炉です。
1回の核分裂当りに発生するエネルギーGは約200MeVである(ただし、燃料要素内では180MeV、 構造材や冷却材での中性子捕獲に伴う放射線がのこりのエネルギー)。 このGの値は、単位変換すると3.2x10-11Jであるから、 1Wの熱出力を得るためには毎秒1/3.2x10-11=3.1x1010個の 核分裂性核種が核分裂を起こす必要がある。 235Uの235g中にはNA=6.02x1023個の原子核が あるから、1MWの動力炉では107秒=2780時間=116日で消費される計算になる。 (逆に熱出力1Wの研究炉では核燃料の消費は殆どないことがわかる。)
燃料の出力密度(単位体積あたりの熱出力)は
PD=G Σf φ = G N σf φ
ただし、核分裂性核種の数密度はN=ρ e NA x /Mで評価
しなければならない。(ρ、x、M
は燃料物質の密度、分子量、1分子中の燃料原子数、eは核分裂性核種の濃縮度。)
炉心燃料の容積はV=W/ρ であるから、原子炉の熱出力は Q= G W e NA x σf φ /M で表される。 したがって、全てのエネルギーの中性子束で平均化した 核分裂ミクロ断面積(熱中性子炉では1/v則より、温度の-1/2乗に比例する) を使えば必要な中性子束が評価できる。
伝熱面積をSとすると、伝熱面の熱流束はq=Q/Sであり、これを満足するような 冷却材の選択と伝熱面の工夫が必要となる。 (q=α(Ts-Tc)を満たす熱伝達率α、 あるいはヌッセルト数Nu=α L/κ を実現しないといけない。 冷却材流路の有効直径d=4A/STで定義すると、 レイノルズ数Re=Umd/νとプラントル数Pr=&nu/a を与えて、鉛管内の乱流熱伝達の実験式からNuを求めることが できる。Nu=0.023Re0.8Pr0.4) そのため、ガス炉では燃料棒にフィンを付けで伝熱性能を上げたり、 軽水炉ではバーンアウトを避けて核沸騰状態に保ったりしている。 (水(軽水や重水)を冷却材として用いると、伝熱面表面温度と冷却水温度の差(過熱度)が小さいときは 熱流束密度が比例して増大しますが、冷却材が沸騰し始めると、伝熱面が次第に蒸気バブルで覆われる様になり、 最後には過熱度が大きな膜沸騰に遷移し、伝熱面の損傷に繋がる可能性があります。)
東電(TEPCO)の資料からは 福島第一発電所の原子炉の炉心溶融は、この膜沸騰によるものか、 そもそも冷却水から露出したことによるものかは簡単に言えませんが、 炉心からの熱が安定して冷却材で取り除くことが極めて重要であることは分かると思います。
仮に除熱問題が満たされても、燃料(あるいは被覆材)の温度が制限以下で あることも満足しないとならない。 燃料中心の温度と冷却材温度の差はQに比例し、 比例定数は燃料のサイズ、被覆材の厚さ、おのおのの熱伝導率、 接触部の熱コンダクタンス、及びαに依存する。)
被覆材表面の温度分布は
Ts(z)=Tf(z)+(qc/α) cos(πz'/L)
燃料の表面温度分布は右辺のαを熱抵抗に置き換えて同じ式で
求まる。最大値は下流側(z > 0)に表れる。
燃料中心の温度は、これよりさらに出力密度Pの寄与で
∫0a (1/r2) ∫0r Q(r') r'2/ κ dr
だけ高くなる。(発熱のr分布も中性子束分布に比例し、
ベッセル関数で記述される。)
熱設計ではこの値が燃料の融点などより十分小さいように
保たれる。
原理的には冷却材の流量wを大きく取れれば、少なくともTs(z)はいくらでも 冷却材温度に近づけることができるが、そのためにはポンプ動力が膨大になってしまう。 (冷却チャンネルに沿った水頭(流体の持つエネルギーを水柱の高さに置き換えたもの) の管摩擦による変化も検討しなければならない。) 従って、炉心の熱出力のどれ位を仕事(あるいは電力)として取り出せるかという熱効率を検討する必要があります。
炉心出口(1)の乾き飽和蒸気(圧力P1、温度T1)はタービンで断熱膨張 し、出口(2)で 圧力P2まで下がり、湿り蒸気に変わる。このときの温度はP2での 飽和温度に等しい。(T1=Ts(P2)) また、乾き度はエントロピーの保存 s1=s2=s'(P2)+(s"(P2)-s'(P2))x2 で決めることができる。このx2を使って比エンタルピー h2=h'(P2)+(h"(P2)-h'(P2))x2 や、タービンの単位質量あたりの仕事(より正確には工業仕事)wt=h1-h2 が求まる。
湿り蒸気は復水器で熱量qc=h2-h3を捨てて、その出口(3)で飽和水になる。 ここで、h3=h'(P2)、s3=s'(P2)である。
飽和水はポンプで断熱圧縮(s4=s3)されて、 炉心入り口(4)に圧力P4の加圧水として送られる。 炉心では等圧過熱されるため、P4=P1であり、 ポンプ仕事は温度や容積の変化が小さいことから wp=h4-h3 ≈ (P1-P2) v3 で見積もれるが、これは十分に小さく簡単な評価では0とおいてよい。
炉心で冷却水が受け取る熱量はqb=h1-h4 ≈ h1-h3
せあるから、この蒸気サイクルの効率は
ηth=wt/qb = 1 - qc/qb
≈ (h1-h4)/(h1-h3)
正味仕事の式は、ボイラーで受ける熱と復水器(コンデンサ)で捨てる熱量の差として評価しています。 熱力学の演習問題としては、これら4つの状態のエンタルピー(熱力学に詳しくない人向けに簡単に言うと、 流れを伴う流体の持つ熱エネルギー)を計算してもらうことになります。 現実の発電炉では、ランキンサイクルより複雑な蒸気サイクルを用いたり、ガスタービンとの組合せを行ったりしてしていますが、ここでは省略します。
放射化した冷却材は炉心外部に放射性物質を運び出すことになるが、
軽水が中性子に照射されて生じる16N(半減期7秒)や
19O(半減期29秒)は5分以内に消滅すると考えてよい。
しかし、ナトリウムの場合、半減期15時間の
この関係は核分裂後t秒後(1
東日本大震災で損傷を受けた原子炉の崩壊熱を評価すると、
制御棒等を用いた心停止直後は定格出力の数パーセントの崩壊熱があり、
津波が到達したときも1パーセント程度の崩壊熱が残っていました。
半年後にようやく0.1%を切って、崩壊熱による炉心損傷がこれ以上 進行するおそれはなくなりました。
あらためて、これを見ますと早い段階で冷却系が損傷をうけたことが、第一発電所の事故を深刻にしたことがわかります。
同じ福島県にある東電の第二発電所では、津波の影響を受けたものの冷却設備が生きていたため、
大事には至りませんでした。
また、宮城県にある東北電力の原子炉は高台に設置されていたため、大地震を受けながらも大事には至りませんでした。
東日本大震災は原発の安全性の問題を浮き彫りにしたと言う点は間違いありませんが、
同時に、どのようにすれば安全に原発を運用できるかと言う貴重な実例を与えてくれたことは、忘れるべきではないと思います。
黒鉛減速材を用いた原子炉の冷却材に空気が混入し、温度が600度を超えると、
炭素1グラム当たり8100calの化学反応熱が発生する。これにより、
原子炉建家を吹き飛ばす爆発がおきました。(原爆の爆発とは違い化学エルギーが原因でした。)
ナトリウム冷却材を用いた原子炉の熱交換器が破損すると
2次冷却系の水蒸気と反応して水素と熱を発生する。
出力1ワットでT秒間運転されていた原子炉が、
停止後t秒でベータ線及びガンマ線の形で
放出される全出力(MeV/s)は
p(t,T)=4.10 x 1011(t-0.2-(t+T)-0.2)