核融合工学と世界の核融合開発
本章では核融合工学と世界の核融合開発のトピックスについて学ぶ。
(参考書)
「核融合のためのプラズマ物理学」宮本健郎(岩波書店)、
「プラズマエネルギーのすべて」プラズマ核融合学会(日本実業出版社)、
「核融合への挑戦」吉川庄一(ブルーバックス)
核融合工学
核融合炉工学で重要なテーマを5つ挙げます
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熱粒子負荷制御
不純物やヘリウム灰の除去と 熱負荷の抑制がキーとなっており、ダイバータを液体金属により構成しようと言う
前衛的なアイディアも検討されています。
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超伝導コイル開発
液体窒素で使用可能な 高温超伝導体を閉じ込め磁場をつくるのに用いる動きもあります。
また、LHDのヘリカルコイルは一体物で、精度を保って巻き上げるのに1年半かかりました。
コイルを分割して製作し、精度よく接合するための基礎研究も行われています。
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ブランケット
第一壁の背後にあり、放射線遮蔽、中性子運動エネルギーの回収、そして トリチウム増殖と言う、
3つの重要な役割を担う必要があります。ITERでは基本的に工学的研究はデーマではありませんが、
テストブラッケットモジュール(TBM)という仕組みで、各極の様々なブラッケット研究を
可能とする様な仕組みが取り入れられています。
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低放射化材料の開発
将来の廃炉時の放射性廃棄物の低減、さらにはトータルの建造コストの低減に重要な影響を及ぼします。
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トリチウム取り扱い
核融合炉は核分裂炉に比べて放射線の問題が少ないと言われている。
核反応で長寿命のα放射核種を生まないこと、高いエネルギーの中性子による
放射化は構造材の組成の工夫で避けられることなどによる。しかし、
燃料として使用するトリチウムの量はかつて経験が無いほど膨大であり、
その閉じ込め、監視(計測)などは必ずしも容易ではない。
管理区域のモニターには10Bq単位の、ブランケットでは10の17乗Bqの 量のトリチウムが問題となります。
当然、これだけ量が異なると計測法すら単一の方法では対応できません。
ちなみに、ITERでのDT実験に必要なトリチウム量の確保すらめどがたっていないと言われています。
だからこそ、高温ガス炉でトリチウムを製造するという提案が出てくる訳です。
おそらく、核融合炉の最後の技術的課題がこれらトリチウムの取り扱い
であり、これを解決すれば(あるいはD-D反応炉の様にトリチウム問題を
回避できれば)核融合の実証炉が作られるであろう。
逆に、トリチウムという名前が、東電福島第一発電所の汚染水と結びつけて、
嫌われると、日本で核融合炉を作るのはかなり難しいかもしれません。
トリチウムは自然に無いと良く言われますが、上空では宇宙線と大気分子の反応で常時作られており、
放射性崩壊と平衡を保つ量が自然界に存在していることを 忘れずに、議論すべきではないでしょうか。
当然、食物や飲料を介して微少量のトリチウムは体内に取り込まれておりますが、
自然放射線の内部被ばくへの寄与は、カリウム40等に比べて全く無視できます。
全世界の半分の人が属する7つの極(ロシア、アメリカ、ヨーロッパ連合、日本、中国、韓国、インド)が
国際協力で建造しているトカマク型核融合実験炉。
主な沿革と予定は以下の通り。
- 1985年
- 米ソ首脳会談(レーガンとゴルバチョフ)
で東西緊張緩和のシンボル事業として提案。
- 1988〜1990年
- 概念設計活動。
- 1992〜2001年
- 工学設計活動。(1998年より3年延長、米一時脱退、中韓印参加)
日欧のトカマクでの閉じ込め改善等を取り込んで、建設費の見積りが半減しました。
- 2005年
- 建設サイト(カダラッシュ、サンポールデュラン)決定。
- 2007年
- IO(ITER機構)発足。初代所長、池田要。2代目所長、本島修。3代目所長、ベルナール・ビゴ。
- 2025年?
- 建設終了、ファーストプラズマ。
- 2035年?
- 核燃焼プラズマ(DT)実験。
ITERでの目標は、
- Q > 10(短時間パルス)
- Q > 5(定常)
- 480秒の放電パルス
- 自己点火プラズマ
- 核融合発電所に必要な科学技術と技法(超伝導磁石と遠隔操作技術)の開発
- トリチウムの生産構想
- 中性子を遮蔽し熱を生み出すブランケット技術
ITER計画の特徴は、7つの極で部品を製造し、物納して組み立てるというものです。
これにより、各極の産業界が核融合炉建造のためのノウハウを蓄積できると考えられています。
日本は、トロイダルコイルや中性粒子ビーム加熱装置を担当しています。
ITER機構では建設サイトの写真や開発中の部品の写真を公開しています。
また、コミックも公開されていますので、時間のある時にでも見ていただければと思います。
ITER計画が始まってからすでに35年です。後たった5年というべきか、
まだ5年もかかると見るかはいろいろ考え方がありますが、
これからは核融合にとって重要な時期である事は 間違いないでしょう。
日本は部品調達には大きな寄与をしていますが、人的参加は極めて少ないです。
ITER機構では、プラズマや核融合に限らず、幅広い分野でのエキスパートを国際公募しています。
核融合炉の原型炉DEMOを目指したITERを補完する研究プロジェクト。
ITERサイトをヨーロッパに譲った代わりにEUの
Fusion for Energyが六ヶ所サイトでの本計画に10年間
(2007〜2017)
協力することになっている。
当初10年の予定でECとの国際協力でスタートしましたが、
最近フェーズIからフェーズIIに移行し、研究継続が進められています。
実施される計画は
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国際核融合材料照射施設(IFMIF)の工学設計活動
- 国際核融合エネルギー研究センター(
ITER遠隔実験、原型炉設計、シミュレーションセンター)
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サテライトトカマク装置JT-60SA(これのみ那珂サイト)
サテライトトカマクの建設は2020年4月に完成し、2023年にファーストプラズマが
作られる予定になっています。なお、装置の名称がかなかな歴史を含んでいますので簡単にお話ししましょう。
旧原子力研究所(JAERI)時代に建設されたトカマク(Tokamak)は当初,
プラズマ体積が60立方メートルだったのでJT60と命名されました。
その後装置改造によってプラズマの容積を増やし、JT60-Uとなりました。こんどは、JT60-Super Advanceだそうです。
アメリカのローレンス・リバモア国立研究所内で建造されたレーザー核融合に関する実験施設
とそこで行われている自己点火実験の名称。
192本のレーザービームを円筒型のターゲット内面に照射してX線に変換し、
固体水素ターゲットを爆縮して慣性核融合の自己点火を目指す。
アメリカが一時期ITER計画から撤退したおりに
NIF計画がより安価な方法としてスタートしたが、その後建設費は増大し続け、
2009年には施設が完成したものの、自己点火の実証には
均一な爆縮の実現のため2022年までかかった。
なお、NIF計画には軍事的側面もあるため、外国人の直接的な共同研究は認められていない。
慣性核融合のプラズマの爆縮過程の計算は、長崎型原爆の炉心の計算に相通じる点が多々あるからです。