原子炉燃料


本章では核燃料物質と炉心を構成する材料について学ぶ。
(参考書) 「原子炉工学講座4 燃・材料」石森富太郎(倍風館)

核燃料物質とは

核燃料物質とは 熱中性子で核分裂を起こす核分裂性物質(fissile material)と、 熱中性子を吸収してフィッサイルに転換される親物質(fertile material)に大別されます。
核分裂性物質(fissile material)
233U, 235U, 239Pu, 241Pu

親物質(fertile material)
238U, 232Th

原子炉は、その用途や形式の違いにより、要求される核的、熱的、構造上の特性が異なるため、 色々な物質形態の核燃料が使われている。

酸化物ウラン燃料の特性

現在の軽水炉、高速炉においてUO2燃料がもっぱら使われているが、 その理由としては、融点が高い、燃焼度を大きく取れる、使用経験が豊富、 冷却材との共存性が良い、燃焼の際ストイキオメトリック(化学量論的)に安定である、 などがあげられる。以下に、これらの特徴を 他の化学形の燃料、金属ウラン、炭化ウラン、窒化ウランと比較してみる。

UO2の融点は摂氏2805度で、 Uの1132度、UCの2523度、UC2の2450度には勝るが、 UNの2850度(2.5気圧で)には劣る。

UO2燃料の燃焼度を大きくとれるというのは、燃料自身のスエリング、 内圧上昇、照射成長等への耐性、ストキオメトリー、FPの閉じ込めなどが 総合的にすぐれていることである。 UO2燃料は原子炉の開発初期から用いられてきたが、 UO2と同じか、それ以上の特性を持つUNは経験が乏しいという理由だけで まだ実用化されていない。

UO2は水や空気と反応せず安定なのに対し、UCは水、湿った空気、 窒素などと反応し、Uに至っては室温の空気やCO2ガスによっても 酸化され、微細粉末状では空気中で発火し、高温では水蒸気により酸化される。 UNは空気中では微細粉末にしない限り安定で、摂氏300度以上の水蒸気と反応する。 このため、冷却材の共存性という観点からはUO2が最良である。

UO2は燃焼前にUをやや多くしてUO1.98としておくと UO2.02程度までは燃焼が進んでも化学量論的に安定であるが、 UCはCが多くなると被覆管が浸炭され、Uが多いと遊離して被覆管と 低融点合金を作るので、いずれにしてもストイキオメトリックには不安定である。

以上の様に、UO2燃料には長所が多いが欠点もある。主として 伝熱的特性と核的特性である。

UO2の熱伝導率は摂氏200度で0.07(W/cm度)であるのに対し、 UCは0.13(W/cm度)、UC2は0.20(W/cm度)、UNは0.10(W/cm度)であり、 Uはこれらよりも大きい。 つまり、UO2は熱伝導特性はもっとも悪く、これは高温原子炉の 燃料としては重大な欠点になる。

またUO2の密度は10.97g/cm3で、 UCの13.63g/cm3、UC2は11.75g/cm3、 UNは14.32g/cm3、Uの19.04g/cm3に比べて小さく、 ウラン密度に至っては UO2は9.6g/cm3、 UCの12.98g/cm3、UC2は10.70g/cm3、 UNは13.53g/cm3であるので、UまたはUN を用いたほうが小型の燃料とすることができる。 ただし、O、C、Nの中性子吸収断面積が各々 2×10-4、 3.2×10-3、 1.88(バーン)であるため、UNを用いるよりはむしろ UO2の方が好ましい。


ウラン濃縮

天然ウラン等のように濃縮度が低い燃料では238Uによる 共鳴吸収を逃れる確率Pが小さく、そのため中性子がその減速過程の 大部分を減速材中ですごすことが望ましい。(ウラン238に食われる中性子が減ります)従って、同じ量の燃料を 炉心に装荷する時にも、燃料板の厚さまたは燃料棒の直径を大きくし、 互いの間隔を大きくとると、核分裂で生まれた高速中性子は、例えそれが 燃料の中心で生まれたとしても、平均自由行程が大きいため、ほとんど 衝突せず減速材中に入り燃料に戻ることなく衝突を繰り返して熱化し、 その後ゆっくり拡散しながら燃料に達し、235Uを核分裂させるように なる。
逆に燃料が減速材中に均質に分布していると中性子の平均自由行程中に 燃料つまり238Uが含まれることになるので、燃料の濃縮度を 上げないと臨界条件つまりkeff=1が達成されない恐れがある。 この他、燃料が大きいと自己遮へい効果により内部の238Uは 共鳴中性子を吸収しない。実際には燃料の大きさは燃料の熱伝導度や 冷却材の熱特性によって制限されるので、濃縮度をそれに応じて決めなければ ならないが、熱的制限を除外すれば濃縮度を上げるほど燃料棒の 直径を小さくできる。例えば、天然ウラン燃料では1インチ(2.5cm)、 20%濃縮ウランでは1.2cm、93%濃縮ウランでは0.5cmとなる。 従って、炉心の核特性、熱出力のみならず、燃料の形態に依っても適切な濃縮度を選択し、核燃料を製造する必要があります。

ウラン濃縮法(特に質量差を利用した方法)の原理は単純であるが、 実際のシステムの独自技術( 濃縮に用いる微細な穴のあいた隔膜や遠心分離機、作業物質として用いる腐食性の高い六フッ化ウランガスを取り扱うための機器等 )については、核拡散防止上および商業上の両方の観点から厳重な機密保持が行われている。

熱拡散法
1938年、クルジアスとディッケルが考案した最初の濃縮法で、 フリッシ、仁科らも研究していた。 長い二重円筒状の装置を外部から冷却し、内筒を内部より加熱し、 外筒と内筒間に六フッ化ウランを密封すると熱対流によって熱循環流となり、 上部に軽い235UF6が集まる。 しかし、この方法が実際に実用化されたことはない。

電磁気法
マンハッタン計画では ローレンスがサイクロトロンのために建設中であった巨大な電磁石を転用して 作成された質量分析器(カルトロン)を利用して濃縮が行われた (暗号名Y-12) が、多量の電力を要すため現在は使用されていない。

ガス拡散法(隔膜法)
マンハッタン計画で、 ユーリーとダニングが検討した濃縮方法。(暗号名K-25) 6フッ化ウランガスを加圧、隔膜を通過させるカスケードを 数千回繰り返す。 1段あたりの分離係数は質量比の平方根で与えられる。 (α=(352/349)1/2=1.0043) この値が小さいため、大規模なプラントが必要であるが、 歴史のある濃縮法となっている。

遠心分離法
回転する円筒に導入された 6フッ化ウランガスは遠心力と釣り合う圧力勾配が 生じ、軸領域と壁領域で分離される。 気体拡散法と異なり分離係数には原理的には 上限が無い。
α=Exp((M2-M1)(r ω)2/2RT)
日本原子力燃料が六ヶ所で操業しているプラントはこのタイプである。

レーザー法
235Uに正確に同調したレーザーを吸収させ、電離を起こしたり 6フッ化ウランガスからフッ素原子を1個解離させて、高効率の分離を 起こす、比較的新しい方法。


動力炉の燃料集合体

適当に濃縮された酸化ウランの粉末が得られると、酸化物ペレットが作られ、燃料集合体に組み立てられます。


燃料再処理

使用済燃料から、未燃焼の分裂性物質を回収し、新しく生成した分裂性物質を回収し、 毒作用を与える分裂生成物を除去し、物理的損傷を回復すること。有用な超ウラン元素や 核分裂生成物の分離も再処理に含まれる。
湿式法
使用済燃料を硝酸で溶かし、溶液化学的性質の差から核分裂性物質と 核分裂生成物を分離する。このうち、リン酸トリブチルを溶媒とする 溶媒抽出法(ピューレックス法)は既に実用化されている。
切断された燃料棒から使用済燃料を硝酸で溶かし、溶液化学的性質の差から核分裂性物質と核分裂生成物を分離します。

半乾式法
プルトニウムの分離を湿式法で、ウランの精錬を 乾式(フッ化物揮発法)で行う方法で、実用段階にある。 乾式法の問題点(プルトニウムの分離回収)をうまく避けているが、 湿式法の問題を改善したものではない。


動力炉での使用済み燃料の組成

1トンの燃料を考えると、天然ウランは 7キログラムしかウラン235を含んでいませんが、 通常45キログラムまで増やしています。(低濃縮ウラン燃料)

使用後の燃料も90%以上は変わらないウラン238であり、処理が必要な核分裂生成物や 超ウラン(TRU)核種の量は意外に少なく50キログラムにもなりません。 ちなみに、使用済み燃料ですら、天然ウランより、235Uが濃縮された状態にあることに注意して下さい。

従って、先の核燃料サイクルの図で示されている様に、 核分裂生成物やマイナーアクチノイド(高レベル廃棄物と呼ばれます)やプルトニウムを取り除いた使用済み燃料を、 新たな核燃料の材料に回すことは、極めて合理的な手段と考えられます。


分離変換技術(Partitioning & Transmutation)

高レベル放射性廃棄物に含まれる放射性核種を、その半減期や利用目的に応 じて分離するとともに、長寿命核種を短寿命核種あるいは非放射性核種に変換する

特に、マイナーアクチノイドと呼ばれるネプチニュームやアメリシウムは 高発熱、高ガンマ線強度、高中性子線強度の為、これの核変換を試みることは 高レベル廃棄物のリスク低減や減容に有効である。

マイナーアクチノイドは、高速中性子核分裂を起こしやすく、遅発中性子割合が 小さいため、熱中性子炉の燃料に混入するのは制御上の問題が予想される。 従って、高速中性子炉の利用の検討や加速器駆動未臨界システムの開発が行われている。 また、海外では核融合炉の中性子を利用したハイブリッド路も提案されている。

法律上、原子炉は 「原子核分裂の連鎖反応を制御することができ、かつ、その反応の平衡状態を中性子源を用いることなく 持続することができ、又は持続するおそれのある装置」と定義されています。 したがって、未臨界システムは原子炉としての規制を受けないというメリットもあります。


被覆管に要求される条件

非均質炉で燃料棒のさび、冷却材による溶解、あるいは核分裂片(FP)の 漏洩を防ぐため、核燃料を別の材料で覆うことが行われる。 この材料が持つべき特性としては
  1. FPを閉じ込めるだけの機械的強度を持つ(耐熱性に優れ、高温特性が良い)
  2. 燃料及び冷却材との共存性が良い(耐食性(特に冷却材に対する)が優れていて、腐食をうけない)
  3. 燃料からの熱伝達、冷却材への熱伝達が良い
  4. 中性子吸収断面積Σa=Nσaが小さい
  5. 放射線損傷が少なく、誘導放射能が弱いか半減期が短い
  6. 加工が容易(加工性が良い)
  7. 安価(価格が安く、入手が容易である)
等がある。
原子炉で主として用いられるステンレス鋼はオーステナイト系の SUS316またはSUS304で、前者は高温で後者は低温で用いられる。 一般にステンレスは水に対する耐食性が良く、機械的強度にも すぐれているため、条件(1)(2)は満たされるが、中性子吸収が 大きい(熱中性子に対し2.9バーン、高速中性子に対し4バーン)ので 条件(4)は満たされておらず、燃料として濃縮ウランを用いる必要がある。 また熱伝導率も小さい(0.032cal/cm度s)ため条件(3)も満たされていない。 しかし、古くから用いられた材料であるため、条件(6)(7)も満たされ、高速炉や研究炉の構造材に使われる。

窒素や炭素不純物が混在する高温水に対する 耐食性を改良する目的で作られたジルコニウム合金の一種であるジルカロイも水に対する耐食性が良く、 熱中性子吸収断面積も小さく(0.23バーン)、機械的性質も良く、 加工性にもすぐれているため、条件(1)(2)(4)(6)は満たされ, 軽水炉の構造材として広く使われている。ただし、価格はステンレスの15倍程度であって、条件(7)は満たされない。 また、水素を吸収すると脆化する傾向があるので、条件(5) に対しても十分満足いくものではない。 熱伝導率もステンレスと同程度(400度で0.042cal/cm度s)であるので、 条件(3)も満足いくものではない。

ただし、高温水蒸気により多量の水素を生成するため、 東京電力福島第一発電所の3号炉心などの水素爆発の 原因になったといわれている。

アルミニウムは300度以上では急速に水に侵されて、 高温での抗張力は小さいため、低温研究炉には 使用される。(加工性と対放射線損傷は優れている)

ベリリウムは加工性が極めて悪く、価格の点もあり原子炉に 使われることはない。(核融合炉には使用が検討されている。)

マグノックス合金

酸化しないマグネシウムという名前のマグネシウム合金。 ウランに対して不活性で、比較的安価で放射線損傷は少ない。 ガス冷却炉の燃料被覆材に多く使われている。(マグノックス原子炉)


ヘリウムの特徴と原子力分野での利用

ヘリウムの特徴を並べると、軽い、分子が小さい、化学的にまったく不活性である、 融点が低い、熱伝導率が良く圧力の大小に依存しない、 熱中性子吸収断面積がほとんど0、熱や放射線の作用に対して安定、資源が地球上で かたよっているなどがあげられる。 原子力関係ではヘリウムは主として冷却材と燃料被覆管の封入ガスとして用いられる。 冷却材としての使用は、化学的に不活性、熱伝導率が良い、中性子吸収がない、 放射線に対して安定という特徴が生かされ、封入ガスとしての使用はこの他に 熱に対し安定という特徴も生かされている。また、分子が小さいことを利用して リークテストにも用いられている。

原子炉材料への放射線損傷

中性子によるものが最も多い。核分裂生成物の寄与は主に 使用済み燃料の内部に限られます。 中性子、及び一次反超原子は構造材の結晶格子中に様々な欠陥をつくると予想されます。