バンデ・グラーフ型加速器


この加速器は 原子核実験はもちろん、原子力の諸分野でなくてはならぬ器械と なっている。他の加速器がいわゆる電気工学的な装置であるのに反し、 これは静電気の原理を巧みに利用しているのが特徴で、 静電高圧発生器(electrostatic generator) ともよばれる。
バンデ・グラーフ(Van de Graaff)が発明した 静電高圧発生器(electrostatic generator)を用いる バンデ・グラーフ型加速器の原理について説明しましょう。 電磁気学の基本関係から、対地容量がCである浮遊した導体に電気量Qをあたえるとき、 この導体の電位Vは V=Q/C になることがわかります。 Cは一定であるから、なんらかの方法でQを追加していけば電圧Vは上昇していくはずです。 Qを追加する方法として、絶縁ベルトに電気をのせ、ベルト・コンベヤー式に 接地側から送りこむことをバンデ・グラーフは提案しました。

昇圧の原理

コッククロフト・ワルトン型加速器と殆ど同時に バンデ・グラーフ(Van de Graaff)が発表したもので、 原理がきわめて簡単でしかも高電圧が得られる点から、その後改良が 加えられて実用化された。

対地容量がCである浮遊した 導体に電気量Qをあたえるとき、この導体の電位Vは


V= Q

C
(3.1)
である。Cは一定であるから、なんらかの方法でQを 追加していけば電圧Vは上昇していくであろう。Qを 追加する方法として、絶縁ベルトに電気をのせ、 ベルト・コンベヤー式に接地側から送りこむことが考えられる。 ところで加速しようとするイオン・ビーム電流 は 数10 ~ 数100 mAであり、かつ電圧がMVの 値であるから、果たして実現が可能であるかが問題である。 以下MKS単位を用いつつ、これを考えてみよう。

絶縁ベルトを充分巾の広い、近似的に無限平面とし、 その表面の電気密度が一様でσbとする。 この電気によってベルトの表面に垂直な電界が生じるが、 その強度Ebはガウスの定理によって


Eb= σb

2ε
(3.2)
となる。ここでεはベルトのおかれた 空間の誘電率で、空気の場合 ε = 8.9 ×10-12 F/m である。

σb がふえると Eb も増して行き、ついに空間の絶縁が破れて放電が起きる。 空気の標準状態(0 ° C, 1atm) ではこの限界は
Eb(max) 3 ×106 V/m
と測られているから、(3.2)式より、 これに対応する σb(max)は
σb(max) @ 5.3 ×10-5 Coul/m2
となり、これがベルトにのせうる最大の電気量である。

一方、ベルト巾をb、その速度をv(各々m、m/s単位)とするとき、 ベルトによって送られる電流は
i 5.3 ×10-5vb (A)
となる。例えばv=10m/s、b=5mのとき、 i=265 mAとなって、加速に必要な ビーム電流値と同程度になっている。 すなわち絶縁ベルトで電気を運ぶ方式で、 所要の電流を得る見通しがついた。

つぎに電圧Vがどこまで上がるかを調べてみよう。 簡単のため加速器上部の導体を半径Rの球とすると、 球表面における電界強度Es
Es= 1

4πε
Q

R2
(3.3)
である。球の無限遠接地に対する容量は C=4πεRであるから、 (3.1)式を用いて
Es= V

R
(3.4)
となる。ここで、Es(max)はさきのEb(max)と 同じ値であるから
V(max) 3 ×106 R (V)
をえる。従って、R=0.5mに選ぶならば、 V(max) 1.5MVとなり、 充分な高電圧を発生できることがわかる。

絶縁ガスと絶縁ベルト

絶縁ガス

これまでの計算はすべて 0 ° C, 1atm の空気について行なったものであるが、 実際に加速器を大気中に露出して運転するとき、 放電のおこる危険性がある。また、もっと高電圧で 大電流の器械でありたい。 そのため全体を金属性タンク中に収め、また電気的陰性の絶縁ガスの適当なものを選んで 気圧を高め、電界限度Eb(max)や Es(max)を上げ、 もっと高電圧で 大電流のイオンビームを得ようとします。

2つの球の間で起こる放電電圧 はEb(max)に比例する量で 、 気体の種類や圧力とともにどのように変わるかを 調べると、 明らかに気圧が増すほど電界強度が増すことから、 適当なガスを選んで高気圧に填めることが行なわれる。 従って金属製タンクはガス圧力に耐えるよう、高張力鋼で 作られる。

絶縁ガスとして六フッ化イオウ(SF6) が最もすぐれている。 これを5 ~ 6atmにつめるが、高価( ~ 500円/kg)であるため ガス回収装置を取り付ける。 フレオン(CCl2F2)は安価( ~ 300円/kg)であるが、 放電によってガス分子がこわれ、 ベルトを化学的に損なうガス(F化合物)を発生する欠点があるので、 今はあまり用いられない。空気は酸素を含むので火災の危険があり、 現在では窒素と炭酸ガスの混合(体積比約5:1)を 15 ~ 20atmにつめることが多く行なわれている。

絶縁ベルト

絶縁性のよい、巾50cmぐらいの無限ベルトが用いられるが、 これを駆動するのにふつう5kW程度のプーリー電動機が 使われる。従って絶縁性とともに、動力を伝えることが要求され、 強度が強くて伸びの少ないことが必要となる。

強い木綿糸、絹糸で帯芯を作り、これにナイロン糸をかませた織布に 良質のゴムを塗布して厚さ1mmぐらいのベルトを作り、4枚ぐらい重ねて 接着し輪状にする。この重ねた枚数のことをプライ(ply)という 単位で表わす。長時間運転とともに表面が磨耗して、そのゴミが 器械内部に付着するので、表面状態をいつも良好に保っておく 必要がある。

ベルトに電気をのせるには、 尖った櫛状の針を ベルトに2 ~ 3mmの距離に近づけ、この電極針に 20kV程度の電圧を加えると、尖端放電によって 電気がベルト上に吹きつけられる。 電極を+にすると+電気が、−にするとー電気が のる。最近は細いニッケル線の櫛を直接ベルトに 接触させ、 10kV の電圧をかける方法もとられている。

一方ベルト上の電気を集めるには、ニッケルの細かい金網の 尖端をベルトに触れるようにする。 なお、帰りベルトの表面に、高圧側で逆電気を吹きつけ、 接地側に集めることにより、2倍の電気量を運んで有効に利用する。

加速器の構造

この加速器は大きく分けて次の構成からなっている。
  1. 昇圧コラム: 絶縁ベルトとこれを支える数10 ~ 数100段の積上げ碍子コラム
  2. 加速管: 数10 ~ 数100段の電極付碍子コラムと排気装置 <br> 昇圧コラムとは独立して基板に立っていますが、 これはベルトによる振動を逃れるためです。 ただし加速管の1段当たり高さはコラム1段とそろえてあり、 これは一様な電界が加速管全体にかかるようにするためです。
  3. イオン源: 高圧側発電機を電源とするイオン源とその制御系
  4. タンクガス系: 高圧ガスタンク、ガス充排気系および冷却系
円筒状高圧ガスタンク内に1段当たり30mmぐらいの 絶縁碍子を数10 ~ 数100段積上げてコラムとし、 これに絶縁ベルトをとりつける。ベルトは上下2つの プーリーにかかっており
上部プーリー:
AC 200 ~ 400Hz, 100 or 200V, 1 ~ 2kW 発電機をかねる。イオン源電力をこれから供給。
下部プーリー:
電動機によって駆動。
となっている。上下プーリーの近くに、 電気吹きつけおよび 集め機構がある。

一方加速管は昇圧コラムとは独立して基板に立っているが、 これはベルトによる振動を逃れるためである。 ただし加速管の1段当たり高さはコラム1段とそろえてあり、 これは一様な電界が加速管全体にかかるようにするためである。

コラムや加速管の突起物による電界を消すため、各段ごとにフープと よばれる金属輪を取り付ける。このフープ直径とタンク内径の比は 1:2.5 ~ 3に選ぶ。各段間に1000 M W の抵抗を入れ、一様な電位傾度を保つ。このようにしても 電極間や段間で放電することがあるので、主要箇所に 放電ギャップを入れる。 加速管は高性能排気ポンプで高真空に排気する。ただし上部のイオン源を 動かすために少しイオン源ガスを流入させるが、このばあいでも 充分よい真空に保つことが必要である。とくにイオン・ビームが細く 集束して電極に当たらぬように調整する。

バンデ・グラーフ加速器は数kWの電力を消費するので、 タンク内の除熱が必要となる。そのためタンク下部に フレオン冷却機を備え、市水と熱交換する。

ベルトが廻るとともに上部構造が振動することは 避けられない。 そこで加速管は下部の基盤に直立させ、 支柱などの構造物とは独立にしている。 大体の寸法を次に記す。
Table 3.1: バンデ・グラーフ型加速器の概略寸法
最高電圧 段数 フープ直径 タンク内径 タンク高 ガス圧力
(MV) (cm) (cm) (cm) N2+C02(atm) SF6(atm)
2 ~ 50 ~ 40 ~ 100 ~ 250 ~ 20 5 ~ 6
3 ~ 75 ~ 60 ~ 150 ~ 350 " "
4 ~ 100 ~ 75 ~ 220 ~ 450 " "
5 ~ 127 ~ 80 ~ 300 ~ 600 " "

高電圧の安定化

先にのべた原理と方法によって 絶縁ベルトに電気をのせると電圧が上昇する。 とくに帰りベルトにも反対電荷の電気をのせて、より多くの 電気量を運ぶが、この方式をダブラ法という。

ところでバンデ・グラーフ加速器ではベルトが運ぶ電気の何割かが イオン・ビームになるのであるから、ビーム負荷がかかれば その分だけ高電圧が落ちることになり、極めて不安定な加速器となる。 ビーム電流の変動に拘らず加速電圧が安定している工夫が必要となる。 そこで高圧電極の近くに コロナ・ポイント(corona point) をおくと、この尖端に放電がおこる。そしてこのときの放電電圧は コロナ・ポイントの位置で決まり、放電電流に殆どよらない。 従ってビーム電流が増減すると、コロナ電流が減増して補償し、 電圧は変わらない。そこでコロナ・ポイントの位置を変えるだけで、 高電圧を大きく変え、かつほぼ一定値に保つことができる。

この方式では電圧安定度が数% であって、不充分である。その改良法として発電電圧計を 利用し、その示す電圧の上下に応じてベルトにのせる電気を 減増することが行なわれる。これによって1% 程度に高電圧を安定化できる。

最も精密な方法は、 イオン・ビーム を利用するものである。 10-4以下の安定度をもつ電磁石でビームを曲げ、 2つのスリット間を通す。加速電圧が上がればイオンのエネルギーが 増してビームが下スリットに当たり、作動増幅器が働いて コロナ・ポイントにつながれた三極真空管のグリッド電圧を上昇させる。 従ってコロナ電流が多く流れて加速電圧が下がる。 この方法は応答が速く、0.1% 程度に電圧を安定化できる。 これを スリット・スタビライザー(slit stabilizer) という。ただし、三極管の極性のため、負の高電圧の安定化はできない。

ここで述べた スリットを第1スリットとし、これより離れて 第2スリットを置いて充分狭くし、同様なスリット・スタビライザーを 作って微細に高電圧を制御することもできる。このように2段の 安定化を行なうと、加速電圧を極めて安定化できる。

高圧側電源

高電圧側のベルト用プーリーはひとつの発電機となっており、
イオン源、イオン引き出しと集束電源、帰りベルト用スプレー電源、その他
の電力1 ~ 2kWを供給する。とくに変圧器重量を軽減するため、 100 ~ 200Hzの交流発電となっている。

イオン源としては、フィラメントを用いないRF型やPIG型が 長寿命であるので、よく使われる。RF型とはパイレックス放電管内の ガスに100 ~ 200MHzの高周波電磁界を加えて放電させたもの、 PIG型とは磁界内での電子の往復らせん運動によって放電させた ものであり、いずれも細いカナルからイオンを取出す。

このカナルの直下に-5 ~ -40kV可変の電圧を加えると、 イオンが引出される。このビームを電気レンズの作用で集束させるための 電源が集束電源であり、0 ~ -40kV 連続可変にする。電圧の可変は、接地側からの回転制御棒で スライダックを廻すのがふつうである。

帰りベルト用のスプレー電源は、ベルト回転と同時に -30kV程度が発生するようにしてあり、これを 先に述べたような 方法でベルトに負電荷をのせる。

イオン源ガスの微調整には、ダブル・ニードル・バルブまたは サーモ・メカニカル・リークを用い、 いずれも接地側からの制御棒で操作を行なう。

以上は正イオンを発生して加速するばあいであるが、もし 電子を加速するときは、電子源を取付け、また引出し、集束、 スプレー電圧をすべて逆極性にする必要がある。 いずれにしても高圧側電気回路が故障すればタンクを開けて 修理する事態となるため、できる限り頑丈で長時間動作する回路でなくては ならない。

タンデム・バンデ・グラーフ型加速器

バンデ・グラーフ型加速器は原理が簡単で数MVの高電圧を 発生できる長所があり、原子核反応実験用に多数建設された。 しかし後でのべる線型加速器やサイクロトロンに 比べると、イオン・エネルギーが低いという欠点がある。 ところでバンデ・グラーフでは加速に直流の電位差を 使っており、正イオン、電子、負イオンのどれでも 加速できる。そこでもし適当な負イオン(-e)があり、 これを高電圧(+V)に向けて加速するならば、 エネルギーはeVである。もしこの高電圧の部分で 負イオンが突然正イオン(+ne)に変換できたとすると、 そのまま接地側に向けて再び加速されてneVの エネルギーを得るであろう。従って全エネルギーは
K=eV+neV = (1+n)eV
(3.5)
となり、大きな値となる。例えば5MVの高電圧で始め O-イオンを加速し、高圧電極の中で O- O4+ と変換するならば、 O4+イオンはさらに接地側に向けて走り出す。 こうして
K=5 MeV + 4 ×5 MeV = 25 MeV
をえる。このようにひとつの高電圧を2回利用する方式の加速器を タンデム・バンデ・グラーフ (tandem van de Graaff) 型加速器という。タンデムは双頭という意味である。

中性原子を放電させると、ふつう正イオンが 大量に発生し、負イオンはごく僅かである。この中から負イオンを 取出すこともできるが、一般に行なわれるのは、 正イオンに余分の電子を付着させて負イオンに変換する。 正イオンを10keV程度に加速し、気体層を通過させるとき、 大半は中性原子に戻るが、気体の種類をうまく選ぶと負イオンも 発生する。このように衝突によって核外電子が増減する現象を 電荷変換 (charge echange)という。 タンデム・バンデ・グラーフはこの電荷変換を巧みに利用した器械 である。イオンのエネルギーが増して数MeVともなると、 正負イオンのどれも電子をいくつか失って正イオンに変わる。 従って上のOイオンの例を取り上げると次のようになる。

イオン源 電荷交換 電荷交換
O+ O
加速加速
O- O+
"
O2+
: "
On+
イオン源から出た正イオン・ビームは アッダー(adder) とよばれる低圧ガス槽内で電荷変換衝突により、 その一部が負イオンに変わる。 分析電磁石によって負イオンのみを選別して加速管内に入れ、 +Vの高電圧に向けて走り、eVのエネルギーをえる。 高電圧電極の所に炭素薄膜があり、ここを通過するときに 電荷変換衝突を起こして電子をはぎとられ、 +1,+2,...+n, ... の正イオンが生ずる。炭素薄膜をストリッパー (stripper) といい、数10枚を用意して交換できるようになっている。 この電荷変換衝突によってもイオンの進行方向は初めと 殆ど同じであるので、そのままさらい加速されて +neV (n=1,2,...) のエネルギーが加わる。 なお衝突によって生じた正イオンの電荷分布は エネルギーeVの関数であるが、このエネルギーが高いほど 裸になりやすい。

負イオンを大量に作ることは容易ではなく、また H、O、F、Clなどは負イオンを作りやすいが、 He、N、Neなどはできにくい。従って タンデム・バンデ・グラーフで加速できるのは限られており、 またビーム電流も1mA程度である。 ただ重イオンには多数の負イオンがあるので、その加速には 便利である。

ストレート方式を 横型あるいは縦型にしたばあい、全長あるいは全高が 大きくなりすぎる。とくに高電圧にするほど、この欠点 が支障となってくる。V ≤10MV の器械のときは、 フォールディング方式 が優れている。これは高電圧部に180 ° 電磁石をのせ、 ストリッパー直後の正イオンを反対方向に 曲げるもので、帰り加速管の途中にさらにストリッパーを 入れてイオン電荷をふやし、エネルギーの高いビームを 得る工夫も行なわれている。日本原子力研究所東海村には V=20MVのものがあり、高圧ガス・タンクの直径は8m、 高さ約30mのものである。なおこの器械では絶縁ベルトではなく、 後述する絶縁ペレットの方式で昇圧を行なっている。

静電加速器の改良

静電気現象を利用して高電圧を発生させる方法は、バンデ・グラーフ以後 いろいろ発表されている。例えばベルトの代わりに絶縁油を循環させ、 この中に電気を吹きこむ案があった。ベルトが表面電気であるのに対し、 絶縁油が体積電気であって大電流がとれることを狙ったのであるが、 成功していない。また送風機によって絶縁物粉末を高電圧側に吹き上げて、 これに電気をのせる珍案も出たが実現しなかった。 しかし絶縁ベルトを使うことはひとつの弱点であり、これを改良するのに いろいろ工夫が行なわれている。

ペレトロン

金属製の小円柱ペレットを絶縁物によって鎖状につなぎ、 ベルトの代わりとして用いると、 電気を運ぶ 機構として使える。 問題はつなぎ方と 可撓性および引っ張り に強い絶縁物がえられるかどうかにあるが、 最近その材料が得られた。 このようなチェーンを何條か架けて 高電圧加速器としたものを ペレトロン (pelletron) といい、現在2MV程度から20MVの端子電圧のものが 市販されている。

ラダートロン

ペレットを横に大きくしていくと結局金属棒を絶縁紐で つないだ梯子状 のもにとなり、従って呼名が ラダートロン (laddertron) となった。この型がもっと細かな梯子状となると 織布となり、ベルトとなる。ただしラダートロンは まだ作られていない。

誘電体利用の加速器

面積Sの2枚の平行平板が間隔d でおかれ、板の間に誘電率がe の媒質があるとき、このコンデンサの容量は
C= ε

d
S
(3.6)
であたえられる。平板に面密度σ の電気量をのせるときの電圧Vは
Q=σS
(3.7)

V= σ

ε
d
(3.8)
である。

いま回転円板の左側に高誘電率ε の誘電体を挟んでコンデンサに電圧Vをあたえておき、 次に円板を廻して誘電体をとり除いてしまう。 このとき電気量Qは保存されるから、 右側空間の媒質の誘電率がε0のとき、 電圧はV ×([(ε)/(ε0)]) となる。ε >> ε0のときは 電圧が始めより大きく上昇して発生し、 これらを直列につなぐときは相当高電圧がえられる。

特徴と用途

バンデ・グラーフ加速器は原理が簡単で、リップルがないという長所のほか、 容量Cを使用していないので蓄積電気エネルギーが殆どなく、 従って放電時の故障がすくないとの利点がある。 しかし全体を高圧ガス・タンク中に収めているので、調整修理に手間がかかり、 またベルトの磨耗による粉塵の発生という欠点もある。またベルトの回転によって 振動が起こり、コラム全体が揺れるので、加速管にこの振動が伝わらぬよう 設計しなければならない。

この加速器では5MVぐらいの高電圧が簡単に得られ、 またタンクを大きくしてSF6ガスを用いると10MV以上の 電圧が発生できる。 かつスリット・スタビライザーによって加速電圧が極めて安定できるので 精密実験に適しており、原子核の反応実験に広く使われてきた。 最近は原子物理、放射線物理、物性の実験に専ら利用されるように なった。一方数MeVで数100 mA の電子ビームを金、タングステンなど重い元素の水冷ターゲットに 当てると、 10000 Ci(~PBq)の60Co相当以上の 強い制動X線(bremsstrahlung) が発生するので、RIガンマ線に代わる線源として、 放射線損傷、放射線高分子、生物学などにも用途が広い。

タンデム・バンデ・グラーフは最終的にえられるイオン電流が 少ない欠点があるが、多種類の数10MeV重イオン・ビームが 使えるので、核反応、原子衝突、物性の実験に広く使われる ようになった。

バンデグラーフ加速器の応用例の一つとして、核融合プラズマの 空間電位測定用の重イオンビームプローブ(HIBP)がある。 プラズマ閉じ込め磁場の中のプラズマに送り込むために、高エネルギーの重イオン一次ビームを作って入射します。 プラズマ中で一次ビーム粒子が電離し、二次ビームを検出すると一次ビームとのビーム粒子のエネルギー差は 電離を起こした点での電位に比例します。磁場閉じ込めプラズマは、 内部の電場(つまり電位分布)に特徴的な粒子及びエネルギーの輸送状態の急激な遷移を示すことが知られており、 HIBPは有用な計測機器として重宝されています。