対地容量がCである浮遊した 導体に電気量Qをあたえるとき、この導体の電位Vは
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絶縁ベルトを充分巾の広い、近似的に無限平面とし、 その表面の電気密度が一様でσbとする。 この電気によってベルトの表面に垂直な電界が生じるが、 その強度Ebはガウスの定理によって
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σb がふえると
Eb も増して行き、ついに空間の絶縁が破れて放電が起きる。
空気の標準状態(0 ° C, 1atm)
ではこの限界は
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一方、ベルト巾をb、その速度をv(各々m、m/s単位)とするとき、
ベルトによって送られる電流は
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つぎに電圧Vがどこまで上がるかを調べてみよう。
簡単のため加速器上部の導体を半径Rの球とすると、
球表面における電界強度Esは
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2つの球の間で起こる放電電圧 はEb(max)に比例する量で 、 気体の種類や圧力とともにどのように変わるかを 調べると、 明らかに気圧が増すほど電界強度が増すことから、 適当なガスを選んで高気圧に填めることが行なわれる。 従って金属製タンクはガス圧力に耐えるよう、高張力鋼で 作られる。
絶縁ガスとして六フッ化イオウ(SF6) が最もすぐれている。 これを5 ~ 6atmにつめるが、高価( ~ 500円/kg)であるため ガス回収装置を取り付ける。 フレオン(CCl2F2)は安価( ~ 300円/kg)であるが、 放電によってガス分子がこわれ、 ベルトを化学的に損なうガス(F化合物)を発生する欠点があるので、 今はあまり用いられない。空気は酸素を含むので火災の危険があり、 現在では窒素と炭酸ガスの混合(体積比約5:1)を 15 ~ 20atmにつめることが多く行なわれている。
強い木綿糸、絹糸で帯芯を作り、これにナイロン糸をかませた織布に 良質のゴムを塗布して厚さ1mmぐらいのベルトを作り、4枚ぐらい重ねて 接着し輪状にする。この重ねた枚数のことをプライ(ply)という 単位で表わす。長時間運転とともに表面が磨耗して、そのゴミが 器械内部に付着するので、表面状態をいつも良好に保っておく 必要がある。
ベルトに電気をのせるには、 尖った櫛状の針を ベルトに2 ~ 3mmの距離に近づけ、この電極針に 20kV程度の電圧を加えると、尖端放電によって 電気がベルト上に吹きつけられる。 電極を+にすると+電気が、−にするとー電気が のる。最近は細いニッケル線の櫛を直接ベルトに 接触させ、 ≤ 10kV の電圧をかける方法もとられている。
一方ベルト上の電気を集めるには、ニッケルの細かい金網の 尖端をベルトに触れるようにする。 なお、帰りベルトの表面に、高圧側で逆電気を吹きつけ、 接地側に集めることにより、2倍の電気量を運んで有効に利用する。
一方加速管は昇圧コラムとは独立して基板に立っているが、 これはベルトによる振動を逃れるためである。 ただし加速管の1段当たり高さはコラム1段とそろえてあり、 これは一様な電界が加速管全体にかかるようにするためである。
コラムや加速管の突起物による電界を消すため、各段ごとにフープと
よばれる金属輪を取り付ける。このフープ直径とタンク内径の比は
1:2.5 ~ 3に選ぶ。各段間に1000 M W
の抵抗を入れ、一様な電位傾度を保つ。このようにしても
電極間や段間で放電することがあるので、主要箇所に
放電ギャップを入れる。
バンデ・グラーフ加速器は数kWの電力を消費するので、 タンク内の除熱が必要となる。そのためタンク下部に フレオン冷却機を備え、市水と熱交換する。
ベルトが廻るとともに上部構造が振動することは 避けられない。 そこで加速管は下部の基盤に直立させ、 支柱などの構造物とは独立にしている。 大体の寸法を次に記す。
最高電圧 | 段数 | フープ直径 | タンク内径 | タンク高 | ガス圧力 | |
(MV) | (cm) | (cm) | (cm) | N2+C02(atm) | SF6(atm) | |
2 | ~ 50 | ~ 40 | ~ 100 | ~ 250 | ~ 20 | 5 ~ 6 |
3 | ~ 75 | ~ 60 | ~ 150 | ~ 350 | " | " |
4 | ~ 100 | ~ 75 | ~ 220 | ~ 450 | " | " |
5 | ~ 127 | ~ 80 | ~ 300 | ~ 600 | " | " |
ところでバンデ・グラーフ加速器ではベルトが運ぶ電気の何割かが イオン・ビームになるのであるから、ビーム負荷がかかれば その分だけ高電圧が落ちることになり、極めて不安定な加速器となる。 ビーム電流の変動に拘らず加速電圧が安定している工夫が必要となる。 そこで高圧電極の近くに コロナ・ポイント(corona point) をおくと、この尖端に放電がおこる。そしてこのときの放電電圧は コロナ・ポイントの位置で決まり、放電電流に殆どよらない。 従ってビーム電流が増減すると、コロナ電流が減増して補償し、 電圧は変わらない。そこでコロナ・ポイントの位置を変えるだけで、 高電圧を大きく変え、かつほぼ一定値に保つことができる。
この方式では電圧安定度が数% であって、不充分である。その改良法として発電電圧計を 利用し、その示す電圧の上下に応じてベルトにのせる電気を 減増することが行なわれる。これによって1% 程度に高電圧を安定化できる。
最も精密な方法は、 イオン・ビーム を利用するものである。 10-4以下の安定度をもつ電磁石でビームを曲げ、 2つのスリット間を通す。加速電圧が上がればイオンのエネルギーが 増してビームが下スリットに当たり、作動増幅器が働いて コロナ・ポイントにつながれた三極真空管のグリッド電圧を上昇させる。 従ってコロナ電流が多く流れて加速電圧が下がる。 この方法は応答が速く、0.1% 程度に電圧を安定化できる。 これを スリット・スタビライザー(slit stabilizer) という。ただし、三極管の極性のため、負の高電圧の安定化はできない。
ここで述べた スリットを第1スリットとし、これより離れて 第2スリットを置いて充分狭くし、同様なスリット・スタビライザーを 作って微細に高電圧を制御することもできる。このように2段の 安定化を行なうと、加速電圧を極めて安定化できる。
イオン源としては、フィラメントを用いないRF型やPIG型が 長寿命であるので、よく使われる。RF型とはパイレックス放電管内の ガスに100 ~ 200MHzの高周波電磁界を加えて放電させたもの、 PIG型とは磁界内での電子の往復らせん運動によって放電させた ものであり、いずれも細いカナルからイオンを取出す。
このカナルの直下に-5 ~ -40kV可変の電圧を加えると、 イオンが引出される。このビームを電気レンズの作用で集束させるための 電源が集束電源であり、0 ~ -40kV 連続可変にする。電圧の可変は、接地側からの回転制御棒で スライダックを廻すのがふつうである。
帰りベルト用のスプレー電源は、ベルト回転と同時に -30kV程度が発生するようにしてあり、これを 先に述べたような 方法でベルトに負電荷をのせる。
イオン源ガスの微調整には、ダブル・ニードル・バルブまたは サーモ・メカニカル・リークを用い、 いずれも接地側からの制御棒で操作を行なう。
以上は正イオンを発生して加速するばあいであるが、もし 電子を加速するときは、電子源を取付け、また引出し、集束、 スプレー電圧をすべて逆極性にする必要がある。 いずれにしても高圧側電気回路が故障すればタンクを開けて 修理する事態となるため、できる限り頑丈で長時間動作する回路でなくては ならない。
| (3.5) |
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中性原子を放電させると、ふつう正イオンが 大量に発生し、負イオンはごく僅かである。この中から負イオンを 取出すこともできるが、一般に行なわれるのは、 正イオンに余分の電子を付着させて負イオンに変換する。 正イオンを10keV程度に加速し、気体層を通過させるとき、 大半は中性原子に戻るが、気体の種類をうまく選ぶと負イオンも 発生する。このように衝突によって核外電子が増減する現象を 電荷変換 (charge echange)という。 タンデム・バンデ・グラーフはこの電荷変換を巧みに利用した器械 である。イオンのエネルギーが増して数MeVともなると、 正負イオンのどれも電子をいくつか失って正イオンに変わる。 従って上のOイオンの例を取り上げると次のようになる。
イオン源 | 電荷交換 | 電荷交換 | |||
O+ | → | O | |||
加速 | 加速 | ||||
→ | O- | → | O+ | → | |
" | |||||
O2+ | → | ||||
: | " | ||||
On+ | → |
負イオンを大量に作ることは容易ではなく、また H、O、F、Clなどは負イオンを作りやすいが、 He、N、Neなどはできにくい。従って タンデム・バンデ・グラーフで加速できるのは限られており、 またビーム電流も1mA程度である。 ただ重イオンには多数の負イオンがあるので、その加速には 便利である。
ストレート方式を 横型あるいは縦型にしたばあい、全長あるいは全高が 大きくなりすぎる。とくに高電圧にするほど、この欠点 が支障となってくる。V ≤10MV の器械のときは、 フォールディング方式 が優れている。これは高電圧部に180 ° 電磁石をのせ、 ストリッパー直後の正イオンを反対方向に 曲げるもので、帰り加速管の途中にさらにストリッパーを 入れてイオン電荷をふやし、エネルギーの高いビームを 得る工夫も行なわれている。日本原子力研究所東海村には V=20MVのものがあり、高圧ガス・タンクの直径は8m、 高さ約30mのものである。なおこの器械では絶縁ベルトではなく、 後述する絶縁ペレットの方式で昇圧を行なっている。
| (3.6) |
| (3.7) |
| (3.8) |
いま回転円板の左側に高誘電率ε の誘電体を挟んでコンデンサに電圧Vをあたえておき、 次に円板を廻して誘電体をとり除いてしまう。 このとき電気量Qは保存されるから、 右側空間の媒質の誘電率がε0のとき、 電圧はV ×([(ε)/(ε0)]) となる。ε >> ε0のときは 電圧が始めより大きく上昇して発生し、 これらを直列につなぐときは相当高電圧がえられる。
この加速器では5MVぐらいの高電圧が簡単に得られ、 またタンクを大きくしてSF6ガスを用いると10MV以上の 電圧が発生できる。 かつスリット・スタビライザーによって加速電圧が極めて安定できるので 精密実験に適しており、原子核の反応実験に広く使われてきた。 最近は原子物理、放射線物理、物性の実験に専ら利用されるように なった。一方数MeVで数100 mA の電子ビームを金、タングステンなど重い元素の水冷ターゲットに 当てると、 10000 Ci(~PBq)の60Co相当以上の 強い制動X線(bremsstrahlung) が発生するので、RIガンマ線に代わる線源として、 放射線損傷、放射線高分子、生物学などにも用途が広い。
タンデム・バンデ・グラーフは最終的にえられるイオン電流が 少ない欠点があるが、多種類の数10MeV重イオン・ビームが 使えるので、核反応、原子衝突、物性の実験に広く使われる ようになった。
バンデグラーフ加速器の応用例の一つとして、核融合プラズマの 空間電位測定用の重イオンビームプローブ(HIBP)がある。 プラズマ閉じ込め磁場の中のプラズマに送り込むために、高エネルギーの重イオン一次ビームを作って入射します。 プラズマ中で一次ビーム粒子が電離し、二次ビームを検出すると一次ビームとのビーム粒子のエネルギー差は 電離を起こした点での電位に比例します。磁場閉じ込めプラズマは、 内部の電場(つまり電位分布)に特徴的な粒子及びエネルギーの輸送状態の急激な遷移を示すことが知られており、 HIBPは有用な計測機器として重宝されています。