加速管は高性能排気ポンプで高真空に排気する。ただし上部のイオン源を
動かすために少しイオン源ガスを流入させるが、このばあいでも
充分よい真空に保つことが必要である。とくにイオン・ビームが細く
集束して電極に当たらぬように調整する。
バンデ・グラーフ加速器は数kWの電力を消費するので、
タンク内の除熱が必要となる。そのためタンク下部に
フレオン冷却機を備え、市水と熱交換する。
ベルトが廻るとともに上部構造が振動することは
避けられない。
そこで加速管は下部の基盤に直立させ、
支柱などの構造物とは独立にしている。
大体の寸法を次に記す。
Table 3.1:
バンデ・グラーフ型加速器の概略寸法
最高電圧 | 段数 | フープ直径 | タンク内径 | タンク高 | ガス圧力 | |
(MV) | | (cm) | (cm) | (cm) | N2+C02(atm) | SF6(atm) |
2 | ~ 50 | ~ 40 | ~ 100 | ~ 250 | ~ 20 | 5 ~ 6 |
3 | ~ 75 | ~ 60 | ~ 150 | ~ 350 | " | " |
4 | ~ 100 | ~ 75 | ~ 220 | ~ 450 | " | " |
5 | ~ 127 | ~ 80 | ~ 300 | ~ 600 | " | " |
高電圧の安定化
先にのべた原理と方法によって
絶縁ベルトに電気をのせると電圧が上昇する。
とくに帰りベルトにも反対電荷の電気をのせて、より多くの
電気量を運ぶが、この方式をダブラ法という。
ところでバンデ・グラーフ加速器ではベルトが運ぶ電気の何割かが
イオン・ビームになるのであるから、ビーム負荷がかかれば
その分だけ高電圧が落ちることになり、極めて不安定な加速器となる。
ビーム電流の変動に拘らず加速電圧が安定している工夫が必要となる。
そこで高圧電極の近くに
コロナ・ポイント(corona point)
をおくと、この尖端に放電がおこる。そしてこのときの放電電圧は
コロナ・ポイントの位置で決まり、放電電流に殆どよらない。
従ってビーム電流が増減すると、コロナ電流が減増して補償し、
電圧は変わらない。そこでコロナ・ポイントの位置を変えるだけで、
高電圧を大きく変え、かつほぼ一定値に保つことができる。
この方式では電圧安定度が数%
であって、不充分である。その改良法として発電電圧計を
利用し、その示す電圧の上下に応じてベルトにのせる電気を
減増することが行なわれる。これによって1%
程度に高電圧を安定化できる。
最も精密な方法は、
イオン・ビーム
を利用するものである。
10-4以下の安定度をもつ電磁石でビームを曲げ、
2つのスリット間を通す。加速電圧が上がればイオンのエネルギーが
増してビームが下スリットに当たり、作動増幅器が働いて
コロナ・ポイントにつながれた三極真空管のグリッド電圧を上昇させる。
従ってコロナ電流が多く流れて加速電圧が下がる。
この方法は応答が速く、0.1%
程度に電圧を安定化できる。
これを
スリット・スタビライザー(slit stabilizer)
という。ただし、三極管の極性のため、負の高電圧の安定化はできない。
ここで述べた
スリットを第1スリットとし、これより離れて
第2スリットを置いて充分狭くし、同様なスリット・スタビライザーを
作って微細に高電圧を制御することもできる。このように2段の
安定化を行なうと、加速電圧を極めて安定化できる。
高圧側電源
高電圧側のベルト用プーリーはひとつの発電機となっており、
イオン源、イオン引き出しと集束電源、帰りベルト用スプレー電源、その他
の電力1 ~ 2kWを供給する。とくに変圧器重量を軽減するため、
100 ~ 200Hzの交流発電となっている。
イオン源としては、フィラメントを用いないRF型やPIG型が
長寿命であるので、よく使われる。RF型とはパイレックス放電管内の
ガスに100 ~ 200MHzの高周波電磁界を加えて放電させたもの、
PIG型とは磁界内での電子の往復らせん運動によって放電させた
ものであり、いずれも細いカナルからイオンを取出す。
このカナルの直下に-5 ~ -40kV可変の電圧を加えると、
イオンが引出される。このビームを電気レンズの作用で集束させるための
電源が集束電源であり、0 ~ -40kV
連続可変にする。電圧の可変は、接地側からの回転制御棒で
スライダックを廻すのがふつうである。
帰りベルト用のスプレー電源は、ベルト回転と同時に
-30kV程度が発生するようにしてあり、これを
先に述べたような
方法でベルトに負電荷をのせる。
イオン源ガスの微調整には、ダブル・ニードル・バルブまたは
サーモ・メカニカル・リークを用い、
いずれも接地側からの制御棒で操作を行なう。
以上は正イオンを発生して加速するばあいであるが、もし
電子を加速するときは、電子源を取付け、また引出し、集束、
スプレー電圧をすべて逆極性にする必要がある。
いずれにしても高圧側電気回路が故障すればタンクを開けて
修理する事態となるため、できる限り頑丈で長時間動作する回路でなくては
ならない。
タンデム・バンデ・グラーフ型加速器
バンデ・グラーフ型加速器は原理が簡単で数MVの高電圧を
発生できる長所があり、原子核反応実験用に多数建設された。
しかし後でのべる線型加速器やサイクロトロンに
比べると、イオン・エネルギーが低いという欠点がある。
ところでバンデ・グラーフでは加速に直流の電位差を
使っており、正イオン、電子、負イオンのどれでも
加速できる。そこでもし適当な負イオン(-e)があり、
これを高電圧(+V)に向けて加速するならば、
エネルギーはeVである。もしこの高電圧の部分で
負イオンが突然正イオン(+ne)に変換できたとすると、
そのまま接地側に向けて再び加速されてneVの
エネルギーを得るであろう。従って全エネルギーは
となり、大きな値となる。例えば5MVの高電圧で始め
O-イオンを加速し、高圧電極の中で
O- → O4+
と変換するならば、
O4+イオンはさらに接地側に向けて走り出す。
こうして
K=5 MeV + 4 ×5 MeV = 25 MeV |
|
をえる。このようにひとつの高電圧を2回利用する方式の加速器を
タンデム・バンデ・グラーフ (tandem van de Graaff)
型加速器という。タンデムは双頭という意味である。
中性原子を放電させると、ふつう正イオンが
大量に発生し、負イオンはごく僅かである。この中から負イオンを
取出すこともできるが、一般に行なわれるのは、
正イオンに余分の電子を付着させて負イオンに変換する。
正イオンを10keV程度に加速し、気体層を通過させるとき、
大半は中性原子に戻るが、気体の種類をうまく選ぶと負イオンも
発生する。このように衝突によって核外電子が増減する現象を
電荷変換 (charge echange)という。
タンデム・バンデ・グラーフはこの電荷変換を巧みに利用した器械
である。イオンのエネルギーが増して数MeVともなると、
正負イオンのどれも電子をいくつか失って正イオンに変わる。
従って上のOイオンの例を取り上げると次のようになる。
イオン源 | | 電荷交換 | | 電荷交換 | |
O+ | → | O | | | |
| | | 加速 | | 加速 |
| → | O- | → | O+ | → |
| | | | | " |
| | | | O2+ | → |
| | | | : | " |
| | | | On+ | → |
イオン源から出た正イオン・ビームは
アッダー(adder)
とよばれる低圧ガス槽内で電荷変換衝突により、
その一部が負イオンに変わる。
分析電磁石によって負イオンのみを選別して加速管内に入れ、
+Vの高電圧に向けて走り、eVのエネルギーをえる。
高電圧電極の所に炭素薄膜があり、ここを通過するときに
電荷変換衝突を起こして電子をはぎとられ、
+1,+2,...+n, ...
の正イオンが生ずる。炭素薄膜をストリッパー
(stripper)
といい、数10枚を用意して交換できるようになっている。
この電荷変換衝突によってもイオンの進行方向は初めと
殆ど同じであるので、そのままさらい加速されて
+neV (n=1,2,...)
のエネルギーが加わる。
なお衝突によって生じた正イオンの電荷分布は
エネルギーeVの関数であるが、このエネルギーが高いほど
裸になりやすい。
負イオンを大量に作ることは容易ではなく、また
H、O、F、Clなどは負イオンを作りやすいが、
He、N、Neなどはできにくい。従って
タンデム・バンデ・グラーフで加速できるのは限られており、
またビーム電流も1mA程度である。
ただ重イオンには多数の負イオンがあるので、その加速には
便利である。
ストレート方式を
横型あるいは縦型にしたばあい、全長あるいは全高が
大きくなりすぎる。とくに高電圧にするほど、この欠点
が支障となってくる。V ≤10MV
の器械のときは、
フォールディング方式
が優れている。これは高電圧部に180 °
電磁石をのせ、
ストリッパー直後の正イオンを反対方向に
曲げるもので、帰り加速管の途中にさらにストリッパーを
入れてイオン電荷をふやし、エネルギーの高いビームを
得る工夫も行なわれている。日本原子力研究所東海村には
V=20MVのものがあり、高圧ガス・タンクの直径は8m、
高さ約30mのものである。なおこの器械では絶縁ベルトではなく、
後述する絶縁ペレットの方式で昇圧を行なっている。
静電加速器の改良
静電気現象を利用して高電圧を発生させる方法は、バンデ・グラーフ以後
いろいろ発表されている。例えばベルトの代わりに絶縁油を循環させ、
この中に電気を吹きこむ案があった。ベルトが表面電気であるのに対し、
絶縁油が体積電気であって大電流がとれることを狙ったのであるが、
成功していない。また送風機によって絶縁物粉末を高電圧側に吹き上げて、
これに電気をのせる珍案も出たが実現しなかった。
しかし絶縁ベルトを使うことはひとつの弱点であり、これを改良するのに
いろいろ工夫が行なわれている。
ペレトロン
金属製の小円柱ペレットを絶縁物によって鎖状につなぎ、
ベルトの代わりとして用いると、
電気を運ぶ
機構として使える。
問題はつなぎ方と
可撓性および引っ張り
に強い絶縁物がえられるかどうかにあるが、
最近その材料が得られた。
このようなチェーンを何條か架けて
高電圧加速器としたものを
ペレトロン (pelletron)
といい、現在2MV程度から20MVの端子電圧のものが
市販されている。
ラダートロン
ペレットを横に大きくしていくと結局金属棒を絶縁紐で
つないだ梯子状
のもにとなり、従って呼名が
ラダートロン (laddertron)
となった。この型がもっと細かな梯子状となると
織布となり、ベルトとなる。ただしラダートロンは
まだ作られていない。
誘電体利用の加速器
面積Sの2枚の平行平板が間隔d
でおかれ、板の間に誘電率がe
の媒質があるとき、このコンデンサの容量は
であたえられる。平板に面密度σ
の電気量をのせるときの電圧Vは
である。
いま回転円板の左側に高誘電率ε
の誘電体を挟んでコンデンサに電圧Vをあたえておき、
次に円板を廻して誘電体をとり除いてしまう。
このとき電気量Qは保存されるから、
右側空間の媒質の誘電率がε0のとき、
電圧はV ×([(ε)/(ε0)])
となる。ε >> ε0のときは
電圧が始めより大きく上昇して発生し、
これらを直列につなぐときは相当高電圧がえられる。
特徴と用途
バンデ・グラーフ加速器は原理が簡単で、リップルがないという長所のほか、
容量Cを使用していないので蓄積電気エネルギーが殆どなく、
従って放電時の故障がすくないとの利点がある。
しかし全体を高圧ガス・タンク中に収めているので、調整修理に手間がかかり、
またベルトの磨耗による粉塵の発生という欠点もある。またベルトの回転によって
振動が起こり、コラム全体が揺れるので、加速管にこの振動が伝わらぬよう
設計しなければならない。
この加速器では5MVぐらいの高電圧が簡単に得られ、
またタンクを大きくしてSF6ガスを用いると10MV以上の
電圧が発生できる。
かつスリット・スタビライザーによって加速電圧が極めて安定できるので
精密実験に適しており、原子核の反応実験に広く使われてきた。
最近は原子物理、放射線物理、物性の実験に専ら利用されるように
なった。一方数MeVで数100 mA
の電子ビームを金、タングステンなど重い元素の水冷ターゲットに
当てると、
10000 Ci(~PBq)の60Co相当以上の
強い制動X線(bremsstrahlung)
が発生するので、RIガンマ線に代わる線源として、
放射線損傷、放射線高分子、生物学などにも用途が広い。
タンデム・バンデ・グラーフは最終的にえられるイオン電流が
少ない欠点があるが、多種類の数10MeV重イオン・ビームが
使えるので、核反応、原子衝突、物性の実験に広く使われる
ようになった。
バンデグラーフ加速器の応用例の一つとして、核融合プラズマの 空間電位測定用の重イオンビームプローブ(HIBP)がある。
プラズマ閉じ込め磁場の中のプラズマに送り込むために、高エネルギーの重イオン一次ビームを作って入射します。
プラズマ中で一次ビーム粒子が電離し、二次ビームを検出すると一次ビームとのビーム粒子のエネルギー差は
電離を起こした点での電位に比例します。磁場閉じ込めプラズマは、
内部の電場(つまり電位分布)に特徴的な粒子及びエネルギーの輸送状態の急激な遷移を示すことが知られており、
HIBPは有用な計測機器として重宝されています。