真空工学
加速器工学とは電磁気学の総合的な応用であるが、
イオンビームを加速したり集束したりする場所は
高度の真空に保つ必要があるから、
真空工学(vacuum engineering)
とは切りはなせない関係にある。
加速器などの、設計や運転の際に、ポンプや真空計の動作原理、利用可能な真空度の見積り法を知っていることは重要です。
真空機器メーカーのカタログには、真空計とポンプの動作圧力範囲が記載されています。
現実には、これらから幾つかのポンプや真空計を選んで組合わせて使う必要があります。
2種類のポンプを組み合わせた場合、大気圧から用いる粗引き排気系と 高真空で使う本排気系と呼びます。
気体の基本的性質
今日、真空は広く学術上、工業上に応用されている。
例をあげると
- 分析機器:質量分析、電子やイオンのエネルギー分析器
- 真空蒸着:各種薄膜試料、材料の作成、生産
- 化学工学:低圧における分溜、蒸溜
- 真空管工学:真空管、ブラウン管、蛍光灯、電球の製造
- 半導体工学:イオン打ち込みによるIC、LSIの製造
- 宇宙工学:高真空、低温下の現象
などがあげられる。
気体の特徴は古くから熱力学上の諸法則に表されている。
真空工学上よく使われる事項を列記しておく。
ボイル・シャールの法則
1モルの理想気体では、その圧力pと体積Vとの間に
の
ボイル・シャールの法則(Boyle-Charles' Law)
が成立する。ここでTは気体の絶対温度、Rは一般気体定数であって
R=1.98 cal ·mol-1 ·deg-1 = 8.32 ×107 erg ·mol-1 ·deg-1 |
| (9.2) |
である。
圧力が高くて分子間力が効いてくるとき
との
ファン・デル・ワールス(van der Waals)
の状態式がよりよく適合する。
ここで[a/(V2)]項は分子間力、
bは分子の大きさを表わす項である。
標準状態
0 °C、1気圧(atm)の気体は
標準状態(normal temperature pressure)
にあるといい、NTPとかく。
NTPでの1モルの気体の体積は
22.4 lであり、この中に含まれている分子数は一定で
である。この数をアボガドロ数(Avogadro)または
ロシュミット数(Loschmit)
といい、しばしば、N0ともかかれる。
従ってNTPでの気体分子密度は
n=L/22.4 ×103 = 2.69 ×1019 cm-3 |
|
である。
圧力の単位
1 atm = 760 mm高の水銀柱の示す圧力であることから、
760 mmHg とかく習慣が長らく続いた。この水銀柱実験を
行ったトリチェリ(Torricelli)を記念して
mmHg = Torrと記した単位が用いられてきた。この他、
atm, kg/cm2, kg/m2,
Newton/m2, dyne/cm2のほか、
欧米ではlb/in2(ポンド/平方インチ)
が依然慣用されている。
これらの換算は
1 atm = 760 Torr = 1.013 ×106 dyne/cm2 = 1.033 kg/m2 = 14.7 lb/in2 |
|
となるが、極めて煩雑である。そこでMKS単位系に則った
新たな単位パスカル(Pascal)=Pa が導入され、次第にこれに変わりつつある。
これによると
である。
気体の分子運動
気体分子を完全弾性球とみなし、これが容器内で熱平衡の
自由運動をしているとして統計的に取扱い、
圧力を説明したのが
マックスウエル(Maxwell)
と
ボルツマン(Boltzmann)
である。
気体の圧力
直角座標をとり、
気体容器のdS面がyz面に平行とする。
気体分子はx軸の左側のあらゆる方向から
dS面に衝突し、完全弾性反射をするが、
いまこれらの気体分子のx方向速度成分vxを考え、
その
分布関数をf(vx)とする。
f(vx)は速度成分値がvxからvx+d vx
の間にある分子数であり
のように規格化されている。
単位体積中の気体分子数をnとすると、
dt時間中にdS面に衝突する分子の数は、
である。1個の分子質量をmとするとき、
dS面での運動量変化は2mvxであるから、
全運動量変化をdtで割ればdS面に作用する力dFx
が求まる。すなわち
d Fx = n dS vx dt f(vx) d vx 2m vx /dt = 2 n m dS vx2 f(vx) d vx |
|
である。従って単位面積あたりの力、つまり圧力pは、
上式をすべてのvxにつき積分してdS
で割ればよく
p = |
∫
|
d Fx /dS = 2nm |
∫
|
∞
0
|
vx2 f(vx) d vx |
| (9.4) |
で与えられる。我々はまだf(vx)の形は知らないけれども、
f(vx)=f(-vx)であることはわかる。そこで、
|
∫
|
∞
0
|
vx2 f(vx) d vx = |
1
2
|
|
∫
|
∞
0
|
vx2 f(vx) d vx = |
1
2
|
|
-
vx2
|
|
| (9.5) |
とおくことができる。ここで[
`
(vx2)]は速度のx成分値の
自乗平均値である。
(9.4)
を
(9.5)
に入れて
をえる。
今まではx方向にだけ注目したが、気体分子の運動はx、y、zどの方向でも
同様であるので
vx2+vy2+vz2=v2, |
-
vx2
|
= |
-
vy2
|
= |
-
vz2
|
= |
1
3
|
|
-
v2
|
|
| (9.7) |
の関係をえる。従って
p = n m |
-
vx2
|
= |
1
3
|
n m |
-
v2
|
= |
1
3
|
ρ |
-
v2
|
|
| (9.8) |
となる。ただし、ρは気体の密度である。
一方、気体分子の1自由度当たりの平均運動エネルギー
は
[1/2]kT=[1/2][R/L]T
であるから
|
1
2
|
m |
-
vx2
|
= |
1
2
|
m |
-
vy2
|
= |
1
2
|
m |
-
vz2
|
= |
1
2
|
kT,より |
1
2
|
m |
-
v2
|
= |
3
2
|
kT |
| (9.9) |
であり、これを用いると、
p= |
2
3
|
n ( |
1
2
|
m |
-
v2
|
) = nkT,ただしk = 1.38 ×10-16 erg/deg |
| (9.10) |
となる。
マックスウエル分布(ボルツマン分布)
熱平衡のもとで多数の自由粒子が持つ運動状態は統計的に
一定の分布をしている。これが分布関数であり、
まずf(vx)などの形を決めよう。直角座標系では
はすべて同じ関数形を持っている。従ってn分子のうち、
速度成分値がvx ~ vx+dvx,
vy ~ vy+dvy,vz ~ vz+dvz
であるものの数は
n f(vx) f(vy) f(vz) = n j(v) |
| (9.11) |
ただし
である。ここでj(v)はvの分布関数である。
いま(9.11)式で両辺の対数をとり、v=一定として
微分すると
|
f'(vx)
f(vx)
|
d vx + |
f'(vy)
f(vy)
|
d vy + |
f'(vz)
f(vz)
|
d vz = 0 |
| (9.13) |
一方(9.12)式から
vx d vx + vy d vy + vz d vz = 0 |
| (9.14) |
をえる。未定係数法、すなわち
(9.13) + 2 b2 ×(9.14) = 0
より
( |
f'(vx)
f(vx)
|
+2 b2 vx) d vx + ( |
f'(vy)
f(vy)
|
+2 b2 vy) d vy + ( |
f'(vz)
f(vz)
|
+2 b2 vz) d vz = 0 |
|
となるから、()内はすべて同時に0でなければならぬ。このことから
f(vx)=A e-b2 vx2, f(vy)=A e-b2 vy2, f(vz)=A e-b2 vz2 |
| (9.15) |
の形をとるべきであり、従って
j(v) = f(vx) f(vy) f(vz) = A3 e-b2 v2 |
| (9.16) |
の様にすべてガウス分布でなくてはならない。ところで
|
∫
|
∞
-∞
|
A e-b2 vx2 d vx = |
A
b
|
| √
|
π
|
= 1, より A = |
b
|
|
|
また(9.9)より
|
kT
m
|
= |
-
vx2
|
= |
∫
|
∞
-∞
|
vx2 f(vx) = |
b
|
|
∫
|
∞
-∞
|
e-b2 vx2 d vx = |
1
2 b2
|
, だからb = |
√
|
|
|
|
となる。以上をまとめて
j(v) = ( |
m
2pkT
|
)[3/2] e-[(m v2)/2kT] |
| (9.17) |
が導かれる。これがマックスウエルの速度分布関数
であり、ガウス分布をなしていることがわかる。
(9.17)式は、
vx, vy, ...
が −∞ から +∞
まで分布しているとする座標系で導出している。
もし速度の絶対値がv ~ v + d vである分子数を求めるときには、
dvx dvy dvzのかわりに球殻4pv2 dvを用いるべきで、このときの
分布は
f(v) = |
4
|
( |
m
2 kT
|
)[3/2] v2 e-[(m v2)/2kT] ∝ E e-[E/kT] |
| (9.18) |
となる。これもマックスウエル分布であり、
一般には
ボルツマン分布という。
温度Tの容器の小孔から真空中に飛出してくる
分子の速度分布やエネルギー分布を観測すると
(9.18)式の形で表される。逆に容器中に視点を
入れて分子を眺めると
(9.17)式の形となる。
f(v)から
- a)
- 最大確率速度vm
|
df(v)
dv
|
=0 より vm = |
1
b
|
= |
√
|
|
|
| (9.19) |
- b)
- 平均速度[`v]
|
∫
|
∞
0
|
v f(v) dv = |
-
v
|
より |
-
v
|
= |
√
|
|
|
| (9.20) |
- c)
- 平均自乗速度√{[`(v2)]}
|
∫
|
∞
0
|
v2 f(v) dv = |
√
|
|
より |
√
|
|
= |
√
|
|
|
| (9.21) |
をえる。これらの大小関係は図に示すように
である。
平均自由行路
気体の各分子は全く衝突なしの自由運動をしているのではなく、
互いに激しく衝突して、そのたびに方向や
速度が変化している。1つの分子が衝突から次の衝突までに
動く距離の平均値を
平均自由行路(mean free path)
といい、真空工学では特に大事な量である。
いま分子直径をsとするとき、単位時間にπs2 [`v]
の体積中に含まれた静止分子と衝突する。その回数nは
であるから、平均自由行路lは
である。相手の分子も動いているとして計算するとき
となる。
ここでnは気体の圧力pに比例するから、圧力が減るとともに
lは長くなる。
加速器では真空中を走るイオンも残留気体と衝突するから、
進行方向が変わったり、電離を起こして二次電子を発生したりする。
従って加速器の加速管内はできる限り高真空にして
lを長くすることが必要となる。
表9.1には各種気体の分子直径と平均自由行路を記す。
この表からわかるとおり、
イオンビームが10 mの長さを衝突なしに走るには、
10-6Torrオーダーの真空でなければならない。
Table 9.1:
分子直径と平均自由行路
気体 | 分子量 | m | s | √{[`(v2)]} | [`v] | | l | (25 °C) cm |
| | 10-23g | 10-8cm | (0 °C) | m/s | 1Torr | 10-3Torr | 10-6Torr |
H2 | 2 | 0.335 | 2.75 | 1840 | 1690 | 9.3 ×10-3 | 9.3 | 9.3 ×103 |
He | 4 | 0.665 | 2.18 | 1310 | 1200 | 14.7 ×10-3 | 14.7 | 14.7 ×103 |
Air | 29 | 4.81 | 3.74 | 485 | 447 | 5.1 ×10-3 | 5.1 | 5.1 ×103 |
Ar | 40 | 6.63 | 3.67 | 412 | 381 | 5.3 ×10-3 | 5.3 | 5.3 ×103 |
CO2 | 44 | 7.31 | 4.65 | 393 | 362 | 3.3 ×10-3 | 3.3 | 3.3 ×103 |
Hg | 201 | 33.3 | 4.26 | 184 | 170 | 3.8 ×10-3 | 3.8 | 3.8 ×103 |
流量、コンダクタンス、排気速度
放電、プラズマ、加速器で扱う真空は
10-1 ~ 10-7Torrであるが、この気圧でのガス分子の流れを
分子流(molecular flow)
という。この分子流が排気管や真空装置中を流れ、
ポンプで排気されるのがふつうであるから、この過程で
どういう式が成り立つかを調べてみよう。
流量(flow rate)
薄い無限平板があり、
小孔dSが原点Oに開いているとする。平板の上部で圧力はp、
下部では圧力0であるとき、この小孔を通って下方に流出する気体の量を
計算してみよう。
dSを中心に、半径が[`v]の半球を画き、その内部の一点Pの
ところの微小体積dτ
であり、Pより原点のところのdSに向かう分子数は
であるから、1秒間にdSを通って流出する分子数は
|
∫
|
半球
|
ndτ |
dS cosθ
4 πr2
|
= |
∫
|
[`v]
0
|
dr |
∫
|
2p
0
|
d φ |
∫
|
[(π)/2]
0
|
|
nr2 sinθd θ
4 πr2
|
= |
n
4
|
|
-
v
|
dS |
| (9.25) |
となり、従って単位面積あたり
で与えられる。 ところが(9.10)式より
p=nkTであるから、上の流出量と圧力pの
もとで測ったときの体積を
V’
、モル数で測ったときηであるとすると
を得る。
(9.26)、
(9.27)両式より
V'
= |
ηL kT
p
|
= |
ηL
n
|
= |
√
|
|
=一定 |
| (9.28) |
の関係をえる。すなわち
「圧力pの気体が開孔を流出するとき、
その量を圧力pのもとで測るならば、
毎秒単位面積あたり一定で、
√{[kT/(2pm)]}である。」
との重要な結論が導かれる。
例えば空気が27 °C
(300K)のとき
V' = 11.7 L/cm2 s ≅ 12 L/cm2 s |
| (9.29) |
となる。この値は空気の分子流が厚み0の開孔から流出するときの
流量、つまり理想孔での値である。開孔に厚さがあったり、
近くに邪魔板があると、この値より小さくなる。
また他の気体分子流については
(9.29)式にm[1/2]を
考えればよい。
コンダクタンス(conductance)
圧力p1、p2
の容器が導管でつながれているとき、この導管を流れる
分子流の流量Qは
で与えられる。ここで、Gは導管の寸法や内面の状況できまる
量であって
コンダクタンス(conductance)とよばれる。
ところで、
と対比するとGは(抵抗)-1に対応するから、
Gは導管の排気抵抗の逆数である。
Q,pの単位はそれぞれ Torr L/s, Torr
であるから
となる。また上のように導管は抵抗体と同様にみなせるので、
G1, G2, ...Gn
のコンダクタンスをもつ 導管を直列または並列につなぐ時の 合成コンダクタンスGは
直列接続: |
1
G
|
= |
1
G1
|
+ |
1
G2
|
+ ...+ |
1
Gn
|
|
| (9.31) |
で表わされる。
圧力が高いときは流れは粘性流で、コンダクタンスは圧力に比例します。
圧力が低いときは流れは分子流で、コンダクタンスは圧力に依存しません。
排気速度(pumping speed)
排気導管の両端に圧力差が生じて気体が流れる原因は、
低圧側にたえず流入気体を排出する機能があるからである。
この機能を持った器械を通常ポンプ(pump)
と呼んでいる。その能力の大小は、毎秒どのくらいの
体積の気体を排出できるかできまる。これを
排気速度(pumping speed)といい、
一般に圧力pの関数である。
排気導管で低圧側がポンプであるとするとき、
流量Qが
どの場所でも一定(連続の定理)であることを考えて
の関係で、排気速度Sが定義される。
従ってSの単位は
[L/s]であり、コンダクタンスと同じ単位である。
もし排気速度S
の
ポンプにコンダクタンスGの導管をとりつけたとき、
合成の排気速度は
(9.31)'の式で与えられる。
排気導管のコンダクタンス
低圧の気体が流れる導管や排気管には、固有のコンダクタンス
があることがわかったので、次に代表的な形状のものについて
コンダクタンスを求めよう。詳しい計算は省略するが
- 管内気体は分子流であり、平均自由行路l >> 管直径D
- 内壁に衝突した分子はあらゆる方向に同じ確率ではね返る
との仮定を用いる。
- 平板に開いた孔
前に、
(9.27)式を得たから、開孔A (cm2)
に対し
である。Gはm-[1/2]に比例することから、
H2, N2, ...
など分子質量が異なる気体についても
同様に求まる。
- 円形導管
半径がR、長さがLの導管でL >> Rのとき
G= |
2
3
|
π |
R3
L
|
|
-
v
|
= |
1
6
|
|
√
|
|
|
R3
L
|
, D=2R |
| (9.35) |
である。ここで、R、L を mm で表わして
R′、L′ とかくとき、20°C の空気に対し
の実用式をえる。また R ≈ L のときは
となる。
- 矩形導管
断面がa,b (a < b) で長さがLの矩形導管のときは
と計算できる。
- 油の蒸気が充満した円形導管
あと
で述べる真空排気装置は、一般に油回転ポンプによって
最終的に空気中に管内気体を放出する。このときポンプに
近い導管内は
油分子が充満しており、気体分子の運動を妨げることに
なるので、上で扱った分子流の式は適用できなくなる。
この問題はむしろ、気体分子が
油分子中に拡散して行く現象として扱うべきである。
そこで拡散係数kを用いるとき、
R << Lの円形導管に対して
が成立する。ただしp1,p2は導管両端における
気体の分圧である。従って
をえる。
真空ポンプ
真空装置は、最初1気圧から出発して装置内部を
必要な真空度まで排気していくものである。
この排気動作をする器械が
真空ポンプ(vacuum pump)
であり、次のような種類がある。
機械式ポンプ | : | 1気圧 ~ 10-3Torrの範囲で荒く排気する |
噴射ポンプ | : | 油分子を高速度で噴射し、気体分子を一定方向に押しやる |
拡散ポンプ | : | 油分子や水銀蒸気の流れの中に気体分子を捕らえ、拡散を利用する |
分子ポンプ | : | 高速回転するタービン翼によって、気体分子を押しやる |
吸着ポンプ | : | 物質の表面吸着性を利用 |
- 油回転ポンプ
通常
ロータリーポンプ(rotary pump)
とよばれ、回転機構を蒸気圧の低い油の中に浸して
気密と磨耗防止をはかっている。
ゲーデ(Gaede)、
センコ(Cenco)、
キネー(Kinney)
の3つの型があり、いずれも一方向に回転させつつ
気体を圧縮し、弁の開閉と連動させて
大気中に気体分子を放出する。
ふつう2段、3段と直列に連結して
排気速度を大きくしている。なお排気側であまり
気体分子が圧縮されると凝結する欠点があるので、
ある程度圧縮すると排気弁が開くガス・バラスト方式が
実用化されている。
- ダイヤフラム
弾性のあるゴム板やベローズで
仕切り板(ダイヤフラム)
を作り、これをピストンにつけて上下運動を
させるとともに、吸気弁と排気弁とを
交互に動かす。あまり高真空まで排気することはできないが、
油を嫌う蒸気や流体を扱うところでよく用いられる。
- 分子ポンプ
ジェットエンジンの技術が進んで高速タービンの製作が
確立したことから、これを真空ポンプに使うことが行なわれ、
分子ポンプ(molecular pump)
とよばれている。
構造は
多数の羽根のついた翼車が高速モーターで回転し、
気体分子を下方に運ぶ。
油使用部が回転軸のみであるので、オイルフリーの
高真空をえるのに使われる。
10-9Torrの真空度を達成することも可能であるが、
排気速度があまり大きくなく、また高価であるのが
欠点である。
- 拡散ポンプ
室温で10-7Torrぐらいの低蒸気圧を持った油を
真空中で加熱し、
傘の間から下方に噴出させて
10-2 ~ 10-3Torrの油蒸気部分をつくる。
吸気孔よりこの部分に拡散してきた気体分子は
平均自由行路が短くなり、油蒸気流の動きに従って
下方に流れ、排気孔より出て行く。
加熱された油蒸気は水冷された器壁に当たって凝縮し、
液体となって再び油溜に戻る。
この方式のポンプを
油拡散ポンプ(oil diffusion pump)
といい、加速器だけでなく、一般真空装置や工業用真空装置
にも広く用いられる。また油のかわりに水銀を利用した
水銀拡散ポンプ(mercury diffusion pump)
もあるが、動作機構は油使用のものと同じである。
油拡散ポンプは長時間使用していると油が劣化して
蒸気圧が上がってくる。最近では分溜式といって、
たえず油を精製して低蒸気圧を維持できるよう、
油溜に工夫がこらされている。
拡散ポンプの排気速度は、排気孔の面積でほぼ決まる。
そのため吸気孔直径2",4",6",10",...
で区別している。いま吸気孔の面積をAとすると、
(9.29)式から
が排気速度の上限を与える。
ところが実際はこの値の20 ~ 40 %
しか排気できない。
そこで実際の排気速度をS L/s
として
という
ホー係数(Hi's coefficient)
によってポンプの性能を比べている。
例えば2"ポンプでは、11.7A = 236 L/s
が排気速度の上限であるが、実際は
80 L/s程度であり、
従ってHo ≅ 0.34
となる。
拡散ポンプは排気孔の圧力すなわち
背圧(back pressure)
が高いと、排気孔
から
吸気孔へと 逆拡散(back diffusion) が起こり、排気速度が高真空の側で 劣化する。
そこでこの防止策として ブースターポンプが使われる。
- 噴射ポンプ
油蒸気を10-1Torr以上に加熱し、
細いノズルからジェット状に噴出して気体分子を
下流に跳ね飛ばすようにしたもので
ジェット・ポンプ(jet pump)
とか
エジェクター・ポンプ(ejector pump)
とよばれる。
10-1 ~ 10-3Torr付近の真空度で
効率よく設計されているため、
油拡散ポンプの
前置ポンプ(fore pump)
として使われる。
ブースター・ポンプ(booster pump)
ともよばれる。
ところで以上のポンプの最適動作真空度は相異なっている。
また排気速度は真空度の関数である。
従って単独で使用することは殆どなく、
組合せて使うのがふつうである。組合せ方は
回転ポンプ | - | (ブースターポンプ) | - | 拡散ポンプ | |
回転ポンプ | - | 分子ポンプ | | | (オイルフリー系) |
などである。
- 吸着ポンプ (スパッターイオンポンプ)
特殊な材料は低温になると気体分子を大量に吸着する性質が
あり、この作用を利用したものが
吸着ポンプ(sorption pump)
である。例えば金属製デュワー瓶では
二重壁の間に活性炭を入れて荒引きし封入する。
これに液体窒素を入れると、活性炭が壁間の残留気体を
吸着して高真空となるので、断熱層ができる。
ステンレス製デュワー瓶では広く実用されている。
核融合の分野では、真空容器壁にチタン原子膜を蒸着し、 主に水蒸気が分解した酸素を吸着して、高真空を実現しています。
また、大電流の加熱ビーム源の作動排気には、液体水素で冷却された
金属板に気体分子を吸着するクライオポンプが使われています。
真空度の測定と真空計
真空実験装置では、1気圧から排気して
10-4 ~ 10-9Torr
の真空度で実験を行なうが、この真空度をどのようにして測るかが
問題となる。上記のすべての範囲をカバーする
測定器はなく、適宣分割して使用する。
測定範囲(Torr) | 測定器 | 特徴 |
760 ~ 0.1 | 水銀気圧計 | 絶対測定可能 |
1 ~ 10-4 | マクレオド・ゲージ | ” |
10 ~ 10-3 | ピラニ・ゲージ、容量型圧力計 | マクレオド・ゲージで較正 |
10-4 ~ 10-9 | 電離真空計 | ”、外挿 |
- マクレオド・ゲージ(マクラウド真空計)
トリチェリが、1メートル程度の試験管に水銀をいれて大気圧を測ったことは良く知られていますが、
水銀柱の高さの測定精度から、1Torr あるいは133 Pa程度の低真空度しか測れません。
複雑なガラス管を用意します。
水銀溜を持ち上げてV中の気体(もとの圧力p)
を圧縮して毛細管中に入れ、体積がvになったとする。
毛細管部の水銀柱差をh(mm)とすると、
が成立するが、p << hであるから
となる。
従ってv/Vの値を小さくしておけば
1 ~ 10-4Torrの真空度が絶対測定できる。
これを
マクレオド・ゲージ (Mcleod gauge)
という。
- ピラニ・ゲージ
タングステンや白金のフィラメントを加熱すると、
発熱量の一部がまわりの気体の熱伝導によって
失われる。一方フィラメントの抵抗は放熱の大小によって変わるから、
この抵抗変化を利用して真空度測定器としたのが
ピラニ・ゲージ(Pirani gauge)
である。
回路は、フィラメントと定抵抗とを直列につなぎ、
これに低電圧を与える。
ゲージ内真空度に応じてフィラメント抵抗が変化し、
従って定抵抗を流れる電流が変わるから、この変化を
直流増幅してメーターを振らせる。
このゲージはおおまかな真空度を
測るのに便利で、また消耗部分がないという利点があり、
リレーつきメーターを使用して真空バルブ類の開閉作動を
させるのに広く使われる。例えば装置内圧力が
10-2Torrになれば始めて拡散ポンプの
バルブが開くとか、逆に閉まるとかの作用を持たせる。
- 容量型圧力計 (ダイアフラム真空計)
極めて弾性に富んだ隔壁板をもった容器が
あって、左右から排気管が出ている。その圧力を
p,p0としp0を10-6Torr
程度に排気すると、圧力pに応じて隔壁板がたわみ、
容量Cが変化する。
この微小変化を拡大してPaないしTorr単位で表示する。
この圧力計は気体分子の熱運動を力学的な変位に換えており、
気体分子が分解して指度を狂わせることがない。
注意深く実験すると
を測ることができる。
容量型圧力計(capcitance manometer)
という。
- 電離真空計
直熱式三極真空管のグリッドに+200V、
プレートに−20V程度を加えると、電子電流はグリッドに
流れてIgとなる。
このときグリッド近くで管内気体が電離されて+イオンとなり、
これがプレートに流れてIpとなる。
Ig = 2 ~ 5mA, p < 10-3Torrのとき
の関係が成立するので、これを用いたのが
電離真空計(ionization gauge)
という。ここでgは気体の電離度差に関係した
比例定数で
感度係数(sensitivity coefficient)
とよぶ。
表はN2のgを1としたときの
各種気体の
比感度係数(speific sensitivity)
を示しているが、この値は管球の形状で多少異なる。
Table 9.2:
電離真空計の比感度係数
気体 | N2 | O2 | H2 | He | CO | CO2 | H2O | air | Ne | Ar | Kr |
g/gN2 | 1 | 0.854 | 0.482 | 0.175 | 1.04 | 1.45 | 1.29 | 0.975 | 0.317 | 1.31 | 1.81 |
測定を容易にするため、Igを一定に保つ回路や、
Ipが小さいときに直流増幅する回路の付加した器械が
市販され、10-3 ~ 10-9Torr
の測定に広く使われる。
- ガイスラー管
最も簡単な定性的真空計で
ガイスラー(Geissler)
の考察にかかることから、ガイスラー管
とよばれて重宝されている。
単なる二極放電管であり、
インダクション・コイル
で5 ~ 10kVの電圧を加えると、
ガスの種類と圧力pに
応じて放電の様子が変わることを利用している。
p ~ 100Torrで紐状、
p ~ 10Torrでは縞状の放電が
起こり、この縞の間隔は大体平均自由行路l
に等しい。
一方陰極の前には放電光の見えない
dark spaceとよばれる部分が生じ、これが
pの低下とともに伸びてくる。
そして
p ~ 10-2Torrで陽極側
管壁に蛍光が生じ、
p ≅ 10-3Torrで蛍光も消える。dark spaceの長さdをmmで表わすとき
の関係がある。
ガイスラー管の放電光は、空気やN2
のとき暗赤色、アルコール蒸気のときは
青白色であるから、これを利用して真空装置の大きな
もれ探しをすることが多い。
真空装置ともれ探し
加速器は一種の高真空装置であり、一般に
10-6Torr以下に排気しなければならない。
そのために、これまで述べてきた器械を組み合わせて所定の
性能を維持できるようにする。とくに最終のポンプ性能が装置の
最終真空度を決定するので、目的に応じてポンプを選ぶ。
排気管やポンプの接続には
フランジ2枚の間に
O-リング
とよばれるゴム・パッキングを挟んでいる。
市販のポンプには排気速度S0と到達真空度puが示されています。
しかし、真空システムの構成によっては、このカタログ値通りの性能は得られません。
実効排気速度は、先に説明した様に、一般にカタログ値よりは小さくなります。
主ポンプ直上での排気速度をS0
とし、これにコンダクタンスG0の排気管をとりつけて
真空容器につなぐときは、
できまるSが容器排気口での排気速度となり、
S < S0となっていることに注意するべきである。
容器に
もれ(leak)がないとき
であり、もしS=constならば
p=p0 e-[S/V]t
のように指数関数的にpが下がるはずであるが、
S
はpの関数であって、
pが小となる時Sも小となるため ある程度までしか排気できない。
この限度を
到達真空度という。
到達真空度がp0であった状態で容器内に
流量Qのもれが始まったとすると、
で表わされる圧力pで定常状態になる。
従って高真空実験を行なうには、
p0が小でかつSができる限り大きいポンプ系を
使用しなければならない。
また、もれQ
がある状態で主バルブを閉じたとき
|
dp
dt
|
= |
Q
V
|
, p = |
Q
V
|
t + p1 |
| (9.48) |
のように容器内圧力pは時間tとともに直線的に増加する。
もし、Vがあらかじめ分かっていると、増加の勾配から
もれQがわかる。
なお、外部から容器内にもれがなくても、容器壁からの
ガス出し(outgas)があるので、この効果を
引かねばならない。
真空装置に多少でももれの箇所があると、
必要な高真空が得られないため、
もれの場所を探さなければならない。
これを
もれ探し(leak hunting)
という。その方法にいくつかあるが代表的なものを
あげると
- (イ)大きいもれ:
-
怪しい箇所にエチル・アルコールを塗り、
ガイスラー管の放電光が青白色になることで見つかる。
- (ロ)小さなもれ:
-
電離真空計の指度を見ながら、アルコールを塗る。
もれ箇所で針のフレが急変する。プロパンガスを吹き付けてもよい。
- (ハ)ごく小さなもれ:
-
(イ)(ロ)の方法で見つからぬとき、
もれ検出器(leak detector)
を用いる。ヘリウム・リーク・ディテクターが
最も高感度である。
真空装置を組立てたとき、
多少ともどこかにもれがあることが多い。
大きなもれは、もれ箇所にアルコールを塗ると
ガイスラー管が青白色に急変するので、これで
知ることができる。
しかし、ごく小さなもれになると、アルコール法では
検出できなくなる。
高感度のもれ検出器(leak detector)として使われるのに
ヘリウム・リーク・ディテクター
(helium leak detector)がある。
これは一種の質量分析器であり、空気中に
4He
が殆ど含まれていないことを利用している。
もれ箇所から入る気体は
N2, O2. H2O, CO2, Ar, ... |
|
などであり、これをイオン化しても
[e/m]=[1/4] (4He+)
に対応するイオンがない。そこで、
磁界を利用したe/m分析器を作り、
4He+のところに検出器を合わせておく。
もしもれ箇所からヘリウムが入ると、
4He+イオン電流が検出器に
入ってメーターを大きくふらせる。
検出器は10-13 ~ 10-11Aの
微小電流を二次電子増倍するように
なっているので、ごく僅かのもれも検出できる。
10-10 [Torr l/s]の感度のものが
市販されている。このディテクターは
工業用にも広く利用されるようになってきた。
なお最近、Qマス・フィルターとよばれる
新型のものも市販されている。
これはQ電界に高周波電圧を重ね、
イオン速度で分離する方法であって、
磁界を使用しない。
超高真空
従来の油拡散ポンプは排気速度が大きい反面、
油蒸気のため10-7Torrが到達限度であった。
このことは油分子層が容器内壁に付着していることを示し、
表面研究や物性実験の面では好ましくない。
試料表面が清浄な状態を保持するには
油の使用を抑えること、10-10Torr以下の真空に保つこと
が要求される。こういった真空領域を
超高真空
(ultra high vacuum)という。
超高真空を実験するには、まず容器材料を選ばねばならない。
鉄、真鍮の使用は禁物であり
ステンレス、アルミ合金、銅
が材料として用いられる。
またフランジ類の取付けには、銅、銀、金などのメタル・パッキングや
ステンレスのO-リングを使う。
そして容器内面も十分平滑に研磨して、表面の凹凸をなくする。
一方ポンプ系は
| | | | クライオポンプ | | |
回転ポンプ(荒引) | - | ソープションポンプ | - | ターボ分子ポンプ | - | 真空容器 |
| | | | スパッタ・イオンポンプ | | |
のようにつなぐ。(油蒸気の混入を防ぐため荒引き系は
できるだけ短期間の使用に限る。)ここでクライオポンプとは、
液体窒素温度で吸着が激しく行なわれる材料(活性炭)を
使っており、またスパッタ・イオンポンプとは
チタニウムやジルコニウムを真空中で放電スパッタさせ、
その原子に気体分子を多量に吸着させるようにした器械である。
ガスを流さない真空実験装置や電子加速器にはこの超高真空
のポンプ系が使われており、終夜排気も可能になっている。
チタニウムやジルコニウムは表面にガスを吸着する作用が極めて
大きく、特に水素分子に対しては原子比で1:1程度まで吸着する。
この性質を利用してチタニウムを
連続的にスパッターさせ、器内分子を吸着させて行く方法が
とられている。チタニウム・ポンプ
では、磁場内でのペニング放電を利用している。
放電によって陰極からたえず新しいチタニウムの原子が放出され、
これが器内分子を吸着するので、ポンプの役割をしている。
ただしこの吸着作用は、チタニウム原子ー気体分(原)子
の化学的性質によって異なるので、ポンプの排気速度は左のように
気体によって差が甚だしい。
H2、空気、N2、O2、有機ガスに対して
大きいが、He、Ne、Arに対しては小さい。
このように吸着作用のポンプは電子加速器のような
ガスを流さない器械に対して有効であり、バルブを閉じて
終夜排気をしつつ超高真空を維持するのによく使用される。
また、一般の超高真空ポンプの必要な実験にはこれが活躍している。
電子源、イオン源
電子やイオンを加速するに際し、まずこれらを大量に発生させて
加速部に入れることが必要になってくる。加速器の構造や加速粒子の
種類に応じていろいろな型が考案され、実用されている。
ここではそれらの基本形について述べることとする。
電子源
トリウム入りタングステン線をヘア・ピンの
ように曲げ、これを加熱すると大量の熱電子が発生するので、
陽極の孔よりとり出す。ただし途中にウェーネルト円筒と
よばれるグリット電極を置くと、電子線が細く絞られてビーム状となる。
フィラメントに対し陽極は
+500 ~ 5kV、一方ウェーネルト円筒は
-50 ~ 0Vを可変にして、ビームがうまく絞られるように
調節する。またウェーネルト円筒を充分負電圧にしており、
パルス的に適当な電圧に戻すときには、パルス状の電子ビームが
得られる。大電流をえるときには、フィラメントではなく傍熱型
の酸化物陰極を使う。
イオン源
イオン源(ion source)は一般に気体の放電を利用する。
放電部は10-2 ~ 10-3Torr、加速部は
10-6Torr以下の高真空でなくてはならぬから、細い
カナル(canal)によって圧力差を作るとともに、
イオンの引出し孔としている。いま、カナルの
コンダクタンスをG、イオン源部および加速部の真空度を
それぞれp1、p2とすると、ガス流量Qは
の関係を満たす。
またポンプの排気速度Sは
となる。ここでp0はリークのない時の
到達真空度、pはリーク時の真空度であって、
当然
となっている。
大電流イオンビームを得るにはカナルを大きくする
必要があり、従ってポンプの排気速度を大きくして、加速部真空度
p2を低くおさえる。この部分は多くの経験に基づいて最適の
構造にするのが普通である。これまでに実用されている
イオン源は
高周波放電型(RF型)
デュオプラズマトロン型(duoplasmatron)
PIG型(Penning ionization gauge)
が代表的なものである。
- 高周波放電型
パイレックス放電管の外側にコイルを巻き、これに
30 ~ 100MHz, ≥ 100W
の高周波を入れて管内気体を電離し、
プローブに+電圧を かけて正イオンをカナルから引き出す。
カナルは1.5 ~ 2mmjで、長さ10mm程度が多い。
構造が簡単で耐久力があり、
H2,D2,He
ガスを入れて、
H+,D+,He+
イオンが簡単にえられる。ガス圧力は10-2Torr
ぐらいが多い。イオン電流は500 mA程度である。
-
デュオプラズマトロン型
フィラメントから放出された電子を軸方向磁場でトラップし、
カナルに向けて加速する。このカナル部はガス分子の通る穴であるので、
ここで電離が行われる。
カナルを通り抜けた電子は引き出し電極で追い返されて、
結局カナル部で往復し、高密度のイオンを作る。
このイオンが引出電極によってビーム状に絞られる。
ガス圧力は10-2Torrぐらい、イオン電流は
1 ~ 10 m Aが得られるので、最近は
イオン打ち込み用加速器のイオン源として多く使われている。
ただしフィラメントの断線がひとつの欠点である。
-
PIG型
磁場中での電子の往復らせん運動によってガスを電離し、
生じたイオンを引き出す方式である。ガス圧が10-3Torr
と他の型よりも低いことから、相対的に多価イオンが多くできる
利点がある。また陰極材料がスパッタしやすい放電電圧で
あるので、このスパッタした大量のイオンをとり出すように
したものである。通常は100 mA程度、
傍熱陰極にするとこの10倍ぐらいのイオン電流がえられる。
サイクロトロンでは陽極に
カナルを開けて横引出し型にする。
Plasmaからのionの引き出し
Alkali metal等の特殊なionは固体表面から直接引き出す(extract)
できるが、一般的にion beamを作るのは目的とするionを
plasmaから引き出す必要がある。
plasmaに対して負の電場をかけると図に示す様なpotentialが
生じ、plasmaの境界では≈ -Teとなる。
これは電子はBolzmann分布をして(
ne=n0 exp(-(-eφ)/kTe))、
φ=-Teまで
ni=ne(plasmaのquasi-neutrality)
が成立するからである。この境界より先はextractされたion
のみが存在することになり、前節の
Langmuir-Childの式が成立する。
plasma境界を通るionの電流密度は、
ionがこの -Teのpot.で加速するために
js=ni e vs, vs=√{2kTe/mi}
となる。vsはionのthermal vel.ではなく、Te
とmiから定まる速度である。
(ion sound velocityと呼ぶこともある。)
電極管電圧Vと電極間距離d
から決まる電流密度を
jLCとすれば、
jsとjLCの大小によってionを引き出すときの
状況は変わる。最適条件では
plasmaのconcave shapeがion beamを収束させ、
js = jLCの時に
ほぼこの状態になる。
js < jLCの時は、(a)の様にplasma
boundaryは後退し、d →大となって
jLCをjs に近づけようとする。
逆に
js > jLCの時は、
boundaryは前進しd →小となるが
shapeが悪いので収束せず、無駄なloadingをおこす。
n_i, T_e, d, Vのいずれかを調整して
最適化をはからねばならない。