線型加速器


コッククロフト型や バンデ・グラーフ型の加速器は、直流高圧を発生させて その電位差を利用して加速する方法であり、たとい高圧ガスの タンク中に器械を入れても、発生電圧に限度があり、従って 荷電粒子のエネルギーに限界ができる。 これに対し、高周波電圧によってくり返し加速エネルギーを 追加していく方式が考えられ、 加速器の考案が始まった1920年代に ヴィデレー (Wideröe) によって提案されていたが、1930年代に入って実現した。
本学の研究推進機構の電子線形加速器は、 このタイプの加速器で、Linear accelaratorを略して、リニアックまたはライナックと呼ばれています。 元々,ビームのエネルギーは18MeVでしたが、最近は15MeVに減少しています。この装置は、日本でも最古のライナックで、 非常に弱い強度のビームを作り出すことができるという特徴を持っています。 ライナックの電子ビームは液体試料中に生成されるラジカルの研究にも使われています。

これまで見て来た直流高圧を発生させて加速する方法では、 発生電圧に限度があり、従って 荷電粒子のエネルギーに限界がありました。 高周波電圧によってくり返し加速エネルギーを追加していく方式が考えられ、 1920年代にヴィデレー (Wideröe) によって提案されていました。


原理

ところで粒子の静止質量をm0とするとき、 これが速度vをもつときの運動エネルギーKは 相対論的に扱って
K=m0 c2 ( 1




1-(v/c)2
-1)
(4.1)
であたえられる。粒子や陽子がそれ以上の重いばあい、 始めはK [1/2]m0 v2の古典的な関係で エネルギーが上がって行き、相対論効果が現れるのは 陽子で10MeVをこえてからである。 一方電子のばあい、K ~ 1MeV程度でも 第4.1図のようにv ~ cとなり、 以後v c となる。このことは高周波でくり返し加速のとき
陽子やそれ以上の重粒子
: 低い周波数
電子
: 高い周波数
を使う必要があることを示している。

1931年にスローン(Sloan)は 円筒電極を共軸に並べた加速器を つくり、2つおきの各電極に高周波電圧を加えた。このとき 軸上を走る粒子が電極間でいつも加速されるためには、各段 粒子速度viと電極liとの間に
l1

v1
= l2

v2
=... li

vi
=... T

2
= 1

2f
(4.2)
の関係がなくてはならぬ。ここでfは高周波の周波数、 Tはその周期である。もし高周波のピーク電圧E0を うまく選ぶならば、荷電粒子は[1/2]周期ごとに 電極間に現れて (4.2)式をみたす速度vをもつことになり、 くり返し加速が行なわれる。

スローンはf=7MHz、E0 ~ 40kV、 電極数30として水銀イオンHg+ を加速し、K=1.26MeVをえた。このとき l は平均7cmであったから、結局約2mの加速管と なった。これが 線型加速器 (linear accelerator) の始まりである。

水銀イオン ~ 1MeVでは到底核反応は起こらない。 望ましいのは軽いイオンであるが、仮に陽子とすると 平均 l ~ 100cmとなり、全長約30mの長大な加速器となる。 l を短くするにはfを高くすればよいが、当時 数10 ~ 100MHzの強力な発振管がなく、 従ってスローンはやむなくf=7MHz に相応しいHg+イオンを選んだ。 その後10年たってこの周波数領域の強力発振管が 実用化されたので、 アルバレー (Alvarez) が f=200MHzの空洞共振式の陽子線型加速器を 1946年に完成した。

スローンの線型加速器は核反応実験に使えなかったので 一時見送られていたが、始めて 重イオン (heavy ion) を加速した点で大きな意義があった。1970年代に 入って重イオン加速の重要性が認識されるとともに、 再びスローン方式が登場し、多くの加速器に採用される ようになった。

線型加速器を大別すると

  1. ヴィデレーまたはスローン方式: 数10MHz、重いイオンを加速
  2. アルバレー方式: 100 ~ 400MHz、軽、重イオンを加速
  3. 導波管内の定在、進行波方式: 3000MHz、電子を加速
  4. 特殊な空洞共振方式: 数100MHz、軽、重イオンを加速
となっており、とくに導波管や空洞内の電磁界の巧みな利用が 行なわれている。

導波管内の電磁波

銅、銀あるいは金のような良導体でできた内壁をもつ中空の容器を、 電波工学では 導波管 (wave guide)または 空洞 (cavity)という。 導波管や空洞では、一般に断面が円や矩形のように 幾何学的に簡単な形をしているものが取扱われるが、 この中での電磁波の様相をしらべてみよう。この問題は中空管の中に 音波を入れるばあいと似ており、ある条件のもとで共鳴が 起こることが想像できる。また数学的には境界条件下に波動方程式を 解く問題であり、無限の固有値解があることが予想される。 解が存在したときが共振状態であるから、特殊な導波管を 空洞共振器 (cavity resonator)という。 ということもある。

電気量の存在しない空間での マックスウエル (Maxwell)の電磁方程式は
rot

E
 
= -

B
 

t
(磁気誘導), div

B
 
= 0 (磁荷なし),

D
 
= ε

E
 
(電気変位)
(4.3)


rot

H
 
=

D
 

t
(電流と磁界), div

D
 
= 0 (電荷なし),

B
 
= μ

H
 
(磁束密度)
(4.4)
である。両式より直角座標系での Ex,Ey,Ez;Hx,Hy,Hzあるいは円柱座標系での Er,Eq,Ez;Hr,Hq,Hz が求まるであろう。ただし加速器としてz方向に 荷電粒子を加速する場合、z方向の電界Ez は必ず存在しなくてはならないから、加速に有用な
Ez 0,Hz = 0
(4.5)
の電波 モード (mode) をまず考えよう。このモードを TM波 という。

(4.3)と (4.3)式より
rot ·rot

E
 
= rot(-

B
 

t
) = -μ

t
(rot

H
 
) = -εμ
2

E
 

t2
であるが、一方
rot ·rot

E
 
= grad div

E
 
- 2

E
 
= - 2

E
 
であるから
2

E
 
= εμ
2

E
 

t2
(4.6)
との波動の式をえる。 Hベクトル についても全く同様な式が 導かれるが、これらは空間における電磁波の様相を与えている。 いまこの波動を

E
 
=

E0
 
exp(jωt - γz)
(4.7)
の形で表わす。これは角周波数が ω(=2πf) でz方向に進行する波の一般形である。ところで
2

E
 

t2
=

t
(

E
 

t
) = jω

t
{

E0
 
exp(jωt - γz) } = - ω2

E0
 
exp(jωt - γz) = - ω2

E
 
であるから、 (4.6)式は時間tが表に出ない形
2

E
 
+ ω2 εμ

E
 
= 0
(4.8)
となる。 従って適当な境界条件のもとに (4.8)式の 定常状態の解を求める問題となる。

ここで円柱座標を用い、断面が円の導波管の中でTM波を 解いてみよう。円柱座標のときのラプラシアンは
2 = 1

r

r
(r

r
)+ 1

r2
2

θ2
+ 2

z2
であるから、 Ez = Ez0 exp(jωt - γz) として(4.8)式に入れると
2 Ez

z2
= γ2 Ez
(4.9)


2 Ez

r2
+ 1

r
Ez

t
+ 1

r2
2 Ez

θ2
+(ω2 εμ+ γ2) Ez=0
(4.10)
をえる。まず(4.9)式は
γ = 実数のとき、Ezはz方向に exp(γz)で減衰して行く

γ = 純虚数=j βのとき、Ezは減衰せずに伝わる
ことがわかる。そこでβ = ω/vpと表わすと
j ωt - γz = j ωt - j βz = j ω(t- z

vp
)
(4.11)
となるから、この波はz方向にvpの速度で伝わることを 示している。vp位相速度 (phase velocity)という。

一方(4.10)式は、電界Ezがどのようなr;θの 関数形になるかを与えるのであり、当然いろいろな形が予想される。 これを次節で求めよう。

円形導波管

半径aの中空円筒導波管のばあいにつき、 (4.10)式を解いてみよう。 Ez=R(r)Θ(θ)と変数分離すると
r2

R
d2 R

dr2
+ r

R
dR

dr
+k2r2 = - 1

Θ
d2 Θ

d θ2
(4.12)

ただしk2 = ω2 εμ+ γ2
(4.13)
となるから、(4.12)式の左右両辺をそれぞれn2とおくとき
d2 Θ

d θ2
+ n2 Θ = 0
(4.14)

d2 R

dr2
+ 1

r
dR

dr
+ (k2- n2

r2
)R = 0
(4.15)
をえる。 これらの解はそれぞれ
Θ = c1 cosnθ+ c2 sinn θ
(4.16)

R = c3 Jn(kr)
(4.17)
であり、Jnはn次のベッセル関数である。 内壁上すなわちr=aではEz=0つまり R=0でなくてはならないから
k = Pnl

a
(4.18)
をみたさねばならぬ。ただしPnlとは Jn=0とおいたときのl番目の根である。すなわち
n=0,1,2,...; l = 1,2,3,...
の無限個の解があり、これに応じた共振モードが 存在する。

最も簡単なモードはn=0, l = 1であり、さらにz方向に 対してγ = 0のときである。 γ = 0とはvp= つまり定在波であり、 これを TM010モードという。 そしてこのモードができるのは
k2 = ( Pnl

a
)2 = ω2 εμ
(4.19)
が成立するωであるときに限られる。 言い換えると、与えられた半径aの空洞があるとき、 ちょうど(4.19)式を満たすω のところでのみ TM010モード の共振が起こることを意味する。 ところで自由空間でのこの電波の波長をλとすると(空間波長)
λ = c

f
, c= 1




εμ
,ω = 2πf
の関係があるから、 TM010モード が生ずるときのλc, fcは(4.19)式より
λc = c

fc
= 2πa

P01
= 2πa

2.405
(4.20)
でなければならない。例えば
a=5 mのとき、λc = 1.306 m, fc = 229.7 MHz
となる。このとき、 z軸上に最も強い電界が管内に一様に成長する。

さて円形導波管に対して λを次第に短くしながら電波を入れてみよう。 (4.13)式を 書き換えると
( 2π

λc
)2 = ( 2π

λ
)2 + γ2
(4.21)
であるから、もしλ > λcの時はγ = 実数となり、 このような電波は管内で減衰して奥に伝わらない。 逆にλ < λcのときは γ = jβ = jω/vpとなって、位相速度vpで内部まで 入ることができる。このとき [(ω)/(vp)]=[(2π)/(λg)]のような 波長λg が定まり
( 1

λg
)2 + ( 1

λc
)2 = ( 1

λ
)2
(4.22)
となる。このλg管内波長 (guide wave length) という。従って上でのべたλc、fcとは、 TM010モード に対する限界であって、それぞれ しゃ断波長しゃ断周波数 (cutoff wave length, cutoff frequency) という。

線型加速の工夫

TM010モード では、管壁(r=a)上に最も強いz方向電界Ezが 生ずるが、これは高周波で振動しているから、 荷電粒子はある瞬間に加速されても、 次の瞬間に減速されてしまう。従って粒子は軸上を往復するだけで、 次々と加速されて行くことがない。

この困難を解決するのに2つの方法がある。 ひとつは 導波管内に円孔つき ヒダ (iris) を入れるのである。 このときヒダとヒダとの間には 強い電界が生ずるが、ヒダの位置(点線部) は電界からしゃへいされた場所となる。そこで 加速電界のときは粒子がヒダ間にあり、減速電界のときは 点線部に入るように設計すれば、 粒子はくり返し加速を受けることになる。

このようなヒダを導波管内に多数入れることは、 丁度尺八の管中に新たな壁を作るのと同じことで、 共振のあり方が大きく変わり TM010よりは TM01モードとなって進行波、反射波が混ざる。 しかしその中にうまく線型加速できるモードがあるので、 これを利用して加速を行なう。 ただ、ヒダつき導波管はあまり寸法が大きくなると 不利であるので、現在は管径10cm程度の電子線型加速器に 使われている。 ヒダつき導波管については、次にのべる。

第2の方法は、 小さな円筒電極を軸上に並べ、 減速電界がかかったときに粒子がこの電極内に入ってしゃへい されるようにする。この電極を ドリフト・チューブ (drift tube) という。これを入れると当然電界の様子が異なるが、 第1近似としてTM010モードであるので、 ドリフト・チューブ間に強い電界が生じ、 線型加速ができる。この方式は専ら陽子や重イオン加速に使われており、 後で詳しくのべることにする。

最近の電子加速器では、ヒダつき導波管の欠点をドリフト・チューブ方式で 逃れるような工夫が行なわれている。

ヒダつき導波管

円形導波管に周波数f、空間波長λの電波を入射したとき、 λ < λcのときは管内電波は expjω(t-z/vp)の形でz方向に伝わる。 位相速度vpの大きさは (4.22)式からすぐ求まるが、 vp > cとなって位相速度が粒子速度よりはるかに大きく、 このままでは加速できない。

そこで、 ヒダを入れたばあいを考える。 いまヒダ間隔lを一定とする。 このとき、管内にはヒダ孔を通って進行する波と、 ヒダで反射する波とが共存するであろう。 従ってこの電波は一般的に
X=X0(r,θ,z)expj(ωt - βz)
(4.23)
と表わせる。X0をフーリエ展開して
X0(r,θ,z) =

n=- 
An exp(-j 2πn

l
z)
(4.24)
となるから、(4.23)式に入れて
X(r,θ,z) =

n=- 
An expj{ ωt -(β+ 2πn

l
)z }
(4.25)
をえる。ここで
βn = β+ 2pn

l
, (- < n < )
(4.26)
とおくとき、(4.25)式 は vpn=ω/βn できまる無数の位相速度をもった電波が重なっていることを示す。 そして
vpn < 0 (n < 0)は反射波、vpn > 0 (n > 0)は進行波
を意味する。ここで進行波のvpnをしらべて みると、すべてvpn < c となっており、この中から粒子の速度に近いものを選ぶと加速に使用できる。 この原理は、海岸に寄せる大波のうち適当なものに 乗ってサーフィンをしつつ海岸に近づくのと同じである。

例としてf=3000MHz、λ = 10cmのマイクロ波が、 a=5cmの導波管に入るときをしらべてみよう。 (4.20)式 から、
λc= 2πa

2.405
=13.1 cm,従って λg = 15.6 cm > λ

vp = f λg = 4.68 ×1010 cm/s = 1.56c > c
となり、位相速度が光速度より速くなっている。 そこでl = 7.8cm (=λg/2)おきに ヒダを入れてみよう。 (4.26)式 より
bn = 0.403+0.806n cm-1, vpn= 1.56c

1+2n
cm/s
であるから、n=-2,-1,0,1,2のばあいにつきvpnを 求めると、次のようになる。

n -2 -1 0 1 2
vpn -0.52c -1.56c 1.56c 0.52c 0.31c
明らかにn=1,2,... の進行波の vpn は 光速度より小さいから、これらのうち 粒子速度に近いものを加速に使用できる。

電子線型加速器

半径が5cm程度の円形導波管の内部に適当な間隔でヒダを 配列し、これにf ~ 3000MHzのマイクロ波を 入射してTM01モードの つよい電界を 生長させ、 軸上を電子が走るようにしている。 ヒダの間隔の選び方によって、電界が丁度 定在波状になるπ型と、 進行波状になるπ/2型 が代表的なものである。

π型とは、上の計算例で示したように l = λg/2にとるのであり、 このとき各ヒダは +, -の電圧が交互に生じ、あたかも定在波のようになる。 これがπ型とよばれる理由である。 そして軸上の電界はヒダの間で強く、ヒダの位置に 電界がしゃへいされた部分ができる。従って電子は + - の電界の場所で加速されて右方へ進むが、 逆電圧になったときは 点線のしゃへい部分に入る。結局電子群は空間的に集中して パルス状に加速される。

一方 λg/4ごとにヒダを入れるとき、 ヒダの励起電圧は++ - ++ ... のようになり、半波長ごとに電界のしゃへい部分ができる。 そして励起電圧は順に 変化し、あたかも右方に進行する形となる。そして この進行速度がちょうど 電子の速度と同じように 選べば、進行波型の電子加速器となる。これを π/2型とよんでいる。

導波管内のヒダは電波に対して抵抗の役割をするから、 左側から 管内に電波を送り込んでも、右方に行くと 次第に減衰する。ヒダの内径を2pとするとき
pが大きいと電波の減衰が少ないが、加速電界も弱い。

pが小さいと電波の減衰が大きいが、加速電界は強い。
との特徴がある。このことを考えてヒダの寸法を 決めるのであるが、実際上p ~ a/4に選ぶことが 多い。いま、加速管入口z=0での電波の電力を P0とすると、管内各位置での電力P(z)は
P(z) = P0 exp(- z

L0
)
(4.27)
のように減衰する。ここで、P、P0はピーク値を示し。 またL0減衰長 (attenuation length) という。

一方管内での平均電界強度[`E](z)は
-
E
 
(z) = k λ

πp2


 

P(z)
 
, k:定数
(4.28)
で与えられるから (4.27)式と組合わせて
-
E
 
(z) =
-
E
 

0 
exp(- z

2 L0
)
(4.29)
となるから、長さLの加速管によって電子のえる エネルギー、すなわち加速エネルギーKは
K = e
L

0 
-
E
 
(z) dz = 2e
-
E
 

0 
(1 - exp(- L

2 L0
))
(4.30)
をえる。 (4.30)式は、Lが長くてもKが大きくなるとは 限らぬことがわかる。さらに[`E]0λp-2に比例するから、 Kの値はp/λ、Lによっていろいろ変わる。

短い加速管で大きいエネルギーをえるには p/λを小さくしたほうがよく、逆に 長い加速管ではp/λを大きくしてL0 を長くしている。

電子線型加速器の構造

電子線型加速器では、始め電子を数10keVに予備加速して加速管入口 に入射する。同時に強力なマイクロ波発振を行い、ピーク出力P0 が1 ~ 3MWの電力を加速管に入れる。 このような強い電波は連続的に発生しているのではなく、 巾1 ~ 5 msで1kHz程度の くり返しでパルス的に行なわれている。例えば、 3MW、巾5 ms、1kHzのときの平均電力は
3 ×106 ×5 ×10-6 ×103 = 15 ×103 W = 15 kW
である。またこのときの 稼働率 (duty factor) は次のようになる。
5 ×10-6 ×103 = 5 ×10-3 = 0.5 %
電子源からパルス状に加速管に打ち込まれた電子は、 加速管内の電界によって右方に直進し、ターゲットに達する。 加速管の出口でもまだ相当なエネルギーを 持っており、これを帰還用導波管によって入口側に 戻し、再使用する。ただし位相調節器により 入力位相をそろえる。

ここで集束コイルの役割についてふれておこう。 後でのべるように高周波電界を利用する線型加速器では 位相安定性 (phase stability) が存在する。すなわち同期位相よりも外れた電子は、 次第にこの同期点に集中するとの性質がある。 しかしながらこのとき電子は加速されるごとに 発散力を受ける。つまり電子ビームの 集束性がない。これを補うために外部から z軸に平行な磁場を加えて集束させる。

電波のエネルギーの大半は 加速管の壁を温めるのに使われる。 つまりジュール熱として失われるのであり、 これを減らすのに超伝導材料が注目されている。 すなわち液体ヘリウムで0 K 近くまで冷やし、 超伝導加速管とするのであり、このときは ジュール熱損失がなくなる。

電子線型加速器の特徴と用途

電子線型加速器は今日多数作られているが、 エネルギー的に大別して
K 8 MeV, K 30 MeV, K 400 MeV
となる。エネルギーが8MeVをこえると、核子の結合エネルギーの 平均値よりも大きくなるから (γ,n)反応で 中性子が出てくる。

K 8 MeV のものは電子ビームの直接照射、 強力なX線源として生物医学、工業的利用が 盛んに行なわれている。 K 30 MeV のものは 制動X線 (bremsstrahlung) によって(γ,n)反応が起きるので、強力な パルス中性子源 (pulse neutron source) として、中性子実験に不可欠な機器となっている。 また電子線を直接照射する化学、生物学実験にも よく使われる。エネルギーがもっと大きくなり K 400 MeV となると 中間子を発生することができるし、 また円形磁界中にとじこめて 紫外線源とすることもできる。 従って中間子実験や物性研究に使われるようになった。

このように電子線型加速器が発達した理由は、なんといっても 短い直線加速で大きな電流がとれること、電子ビームの 取出しが簡単であること、中性子実験が容易であることなどに よる。さらに加速管をつぎ足し、マイクロ波電力を追加していけば エネルギーが上がるとの利点がある。なおこの加速器は原理的に エネルギー固定であるが、実際はマイクロ波電力を 変えることによりある程度の巾でエネルギーが変えられる。 また多段式の加速管では、後段から順次加速を止めれば、 段階的にエネルギーを下げることができる。

最近、超高真空技術の発達により、加速管に更に大きな ピーク電力を供給できるようになった。一方ヒダつき加速管では どうしても奥へ行くほどマイクロ波電力が落ちるので、 ドリフト・チューブ方式に似た形に変わってきた。 その一つが 横壁結合管 (side-coupled tube) ともいうべきもので、マイクロ波は横壁の穴を通って 加速管の全長にわたって供給するようになっている。 こうして強い加速電界を管内に作り、一気にエネルギーを 上げていく。

表には3つの電子線型加速器を 比較して示してある。これらは試作的な器械であり、 これらの経験をもとにして、最近は格段に優れた 加速器が多数完成している。

Table 4.1: 電子線型加速器の例
加速器 スタンフォード大(米) MIT(米) 東大核研
Mark III
p/2 p p/2
エネルギーK(MeV) 680 16 6
ピーク電流(mA) 100 10 200
周波数f(MHz) 2855 2800 2759
発振管 クライストロン マグネトロン クライストロン
本数、全出力 21本、9MW 20本、0.8MW 1本、3MW
減衰長L0(m) 1.5 4 2.5
加速管L(m) 66 6 3
ヒダ開口p(cm) 1.045 3.183 1.20
用途 中間子実験 X線、パルス中性子 試作

イオン線型加速器の設計研究

電子線型加速器と同じ原理で陽子を加速できるかを 考えてみよう。陽子は速度が小さくてもエネルギーが大きいから、 周波数があまり高いと陽子が加速されないうちに逆電界と なってしまう。 従って数100keVの陽子を線型加速していくためには、 f=100 ~ 200MHz, λ = 3 ~ 1.5m に選ばねばならない。このとき TM010モード用の加速管径はλ と同程度になるから、 ドリフト・チューブを並べた方式となる。 ところで前に のべたスローンの方式は
l = v

2f
= v

2c
λ = 1

2
βλ
(4.31)
であるから [1/2]βλ型の加速器とよばれ、 高周波1周期で2回加速される。 これに対してβλ型 のもの、つまり高周波1周期で1回加速する型がある。

βλ型の加速器は1946年にアルバレーが成功したもので、 TM010モードの円形導波管内に小さなドリフト・ チューブを共軸に並べている。 このチューブによって多少電界が乱れるが、近似的に TM010モードを保つことができる。 これをβλごとに取り出すとき 単位空洞の連結とみなされる。そしてどの 単位空洞も一定周波数fに共振して TM010モードを作っているとともに、 イオンに対しても同じような加速条件をみたしていることに なる。

いま単位空洞の加速間隔gで、質量m、電荷eの イオンがどれだけのエネルギーをえるか考えてみよう。 間隙の中央を原点にとり、エネルギー増加を ΔKとすると
ΔK = eE0
g/2

-g/2 
cos(ωt + φs) dz
(4.32)
ただし
E0: 加速電界のピーク値

φs: 電界ピーク時からみた粒子の位相=同期位相角
である。ところで
ωt = 2πf t = 2πf z

v
= 2π

βλ
= 2π

l
z,だからωt = 2π

l
z
(4.33)
であるから、 (4.32)の積分が実行できて
ΔK = eE0 g
sin πg

l

πg

l
cosφs = e
-
E0
 
lT cosφs
(4.34)
ただし
-
E0
 
= g

l
E0: 平均電界強度、T =
sin πg

l

πg

l
: transit time factor
である。一方ΔK=mv Δvで あることを用いると (4.34)式は
Δv =
e
-
E0
 
λ

mc
T cosφs
(4.35)
となる。従ってアルバレーの加速器とは、g/lが一定のとき、 各間隔で一定の速度増加をあたえる器械といえる。

以上のことから、アルバレーのイオン線型加速器を 設計するに当たって、次の緒元を決める必要がある。
  1. f,Dをいくらに選ぶか。このときdはすこしずつ変わって行く。
  2. g/lをいくらに選ぶか。またφsをいくらに決めるか。
  3. E0をいくらに選ぶか。
  4. 最終エネルギーK、入射エネルギーをいくらにするか。

アルバレー型イオン線型加速器の実施例

f=202.15MHzを用いた加速器がある。 この電波によって丁度TM010モード が生ずるときは、(4.20)式より
λc=148.4 cm, a=56.8 cm
となるが、この半径のままではドリフト・チューブを入れることが できない。そこで実際には a=50cm(だからD=2a=100cm)とし、 d ~ 10cmのドリフト・チューブをおくようにする。 dの正確な寸法は単位空洞の共振条件から決まる。

g/l = 0.2 ~ 0.4に選ぶ。 g/l = 0.25にしたばあいT=0.90である。 また同期位相角φsは、電界が上昇しつつある側、 つまりφs < 0に選ぶ。 この位相より進んだイオンは加速電界が弱いので Δvが小さく、従って次の加速間隙では 位相が遅れてφsに近づく。 逆に遅れたイオンは強い加速電界を受けて Δvが大きくなり、 次の加速間隙では 位相が進んでφsに近づく。 こうしてイオンはφsのまわりを 位相振動しつつ φsに集中してくるが、その範囲は -φs > φ > 2φs である。 実際にはφs=-10 ~ -30 ° に選ぶが、この例では φs=-25 ° である。

表4.2はK=10MeVの陽子線型加速器の例である。 ここで最初の間隙には0.5MeVに予備加速された陽子が入る。 こうして
f=202.15 MHz, g/l = 0.25, φs=-25 °

E0=74.4 kV/cm,
-
E0
 
= 18.6 kv/cm
とするとき、 (4.35)式から各段の速度増加は
Δv=0.00264c, c:光速度
となるから、各段のg,l,Kなどが順次求まる。 そしてl = Lは加速管の全長をあたえるが、今のばあい

l = L = 550 cm
となる。

Table 4.2: 10MeV陽子線型加速器の計算例(米、バークレー)
段数n b(=v/c) K(MeV) l(cm) g(cm)
1 0.0331 0.5 4.72 1.18
2 0.0357 · 5.08 1.27
3 0.0382 · 5.47 1.37
: : : : :
10 0.0556 1.50 8.57 2.14
: : : : :
20 0.0830 3.25 12.48 3.12
: : : : :
43 0.1440 10 21.70 5.43

加速器管内における高周波電磁界の成長

線型加速器では一般に大きな高周波電力をパルス的に 加速管内に入射するが、このとき管内の高周波電磁界が 時間とともにどのように変わるかを調べてみよう。 加速管空洞はいわば大きな水タンクであり、これに激しく注水しても 一杯になるには時間がかかるのと同様である。いま
U: 加速管の単位長当たりに貯えられるエネルギー

P: 加速管の断面を通って流れるエネルギー

R: 加速管の単位長当たりの壁に吸収されるエネルギー
とするとき
P=vg U
(4.36)

U

t
+ P

z
+ R = 0
(4.37)
が成立する。ここにvgは管内を流れる電磁波の 群速度 (group velocity) であり、(4.37)式は 電磁エネルギーの保存則を示す。一方電波工学では 空洞の性質をQで表わし
Q= 貯えられるエネルギー

損失
= ωU

R
(4.38)
と定義している。(4.36) ~ (4.38)式より
P

t
+ vg P

z
+ ω

Q
P = 0
(4.39)
とのPに関する方程式を得る。
  1. 定在波のとき
    定在波の定義より[(P)/(z)] = 0 であるから、(4.39)式は
    P

    t
    + ω

    Q
    P = 0
    すなわち
    P=P0 { 1 - exp(- ω

    Q
    t) },U=U0 { 1 - exp(- ω

    Q
    t) }
    (4.40)
    をえる。このことは高周波電力が入射しても、内部には (4.40)式で表わされるようなエネルギーが成長することを 示している。 従って粒子の加速には、電磁界が飽和して平坦となってからの 領域が使われる。

    イオン線型加速器ではf ~ 200MHz, Q 104 であるから、 これらの値を(4.40)式に入れると、 飽和電磁界ができるには 100 μs かかることがわかる。 従って電波入射はその5倍の 500 μs が必要となる。

  2. 定常状態のとき
    [(P)/(t)] = 0 であるから、(4.39)式は
    P

    z
    + ω

    vg Q
    P = 0, だから P0 exp(- ω

    vg Q
    z)
    (4.41)
    となり、電波の流れは入口z=0より指数関数的に 減衰する。 (4.41)式を (4.27)式と比べることにより
    減衰長: L0 = vg Q

    ω
    (4.42)
    であることがわかる。

イオン線型加速器の構造

アルバレー型の線型加速器ではl = βλ であるから、イオン初速度があまり小さいときは lやgが小さくなって、この部分で放電が起こる。 これを防ぐには初段g 1cm にとるべきであり、従って これに対応した イオン入射速度をあたえねばならない。 この器械が 入射器 (injector) であり表4.2の例では500kVのものを用いている。

線型加速器では 位相の安定性 (phase stability) が成立し、 2φs < φ < -φs の範囲のイオンはφsに集中してくることは、 前に のべた。 ところがこのとき、イオンに対してr方向の発散力が作用し、 ビーム・ドリフトチューブ間隙ごとに発散していく。 これを防止するために、 グリッドを入れたり(a)、 ドリフト・チューブ内に 四極電磁石を並べて磁界による強集束 を行なっている(b)。このような磁石を入れるためにも、 lがある程度大きいことが必要となる。 強集束の原理は イオン幾何光学のところでのべる。

ただし(a)ではグリッドのためにイオン・ビームの何% かは途中で失われるし、(b)ではドリフト・チューブ の小さいときに電磁石を入れることができないという欠点がある。 そこで小さいドリフトチューブの場所にはグリッドを、大きい場所には 電磁石を入れて併用している。
空洞内壁やドリフト・チューブ表面は無酸素銅を使って 鏡面仕上げを施し、高周波損失をできる限り小さくする。 またドリフト・チューブ軸は0.1mm以内の精度で共軸にする。 高周波のピーク電力P0は1 ~ 数MWに達する。

イオン線型加速器の特徴と用途

イオン加速器では一般に、イオンの走行距離が短いほど、 またイオン・ビームの集束性がよいほど大電流がえられる。 ところが線型加速器は1段当たりに得るエネルギーが大きく、 しかも走行距離が短くて細いビームに出来ることから、 エネルギーの高い大電流がパルス的にえられるとの利点がある。 ただし装置全体が特定エネルギーに合うように設計されているので、 加速エネルギーが固定されてしまう。特徴を列記すると、 次のとおりである。
  1. 1段当たりに得るエネルギーは、後段ほど大きい。
  2. 加速管が短く、パルス大電流がえられる。
  3. 直線ビームなので、ビームの引出しに困難がない。
  4. エネルギーが固定である。
  5. 加速器の寸法が大きく、大空洞が必要である。
  6. 入射器が必要である。
陽子線型加速器は当初シンクロトロンの入射器として、 10 ~ 20MeVのものが多く建設されてきた。しかし最近は 改良型の線型加速器により 500MeV の陽子加速によって、 強力中性子の発生、 中間子発生と医療用途を目的とするようになった。

一方 重イオン線型加速器は、当初f=70MHzのものが作られ、 まず1MeV/amuまで加速したところで電荷交換してイオンの e/mの値をあげ、さらに直線加速を行なって 10MeV/amuまで上げていた。 最近は、低エネルギー部分をスローン型、中エネルギー以上を アルバレー型とする方式に変わっている。 重イオンの器械は、核物理、核化学、原子物理、放射線物理など、 用途は極めて広い。

イオン線型加速法の改良

アルバレーの TM010モード方式では、 低エネルギー部でl(=βλ) が短くなってビーム集束レンズが入らぬこと、重イオン加速のとき 空洞直径Dが 大きくなることなどの欠点があった。これを除くために、 低エネルギー部はfが低いTEMモード方式、 中エネルギー以上では2f、4fを用いるTMモード方式を 組み合わせるとか、全く別のモード方式を考えるなどの 工夫が行なわれている。

TEMモード

同軸線路に共振するのが TEMモードである。長さL=λ/2のときが 基本モードであり、内軸上に sine型の高電圧を発生する。 もし半分の長さに切ると、凹形の共振器となって、 内軸の先端に高電圧が生じる。

そこでこの内軸上にドリフト・チューブを並べ、 接地側との間に (4.2)式を 満たすような条件を 作り出して加速する方法が考え出された。 このばあい、充分低い周波数fでも加速管直径が 大きくならないとの利点があり、重イオン加速に有利である。

TEMモードを利用して変形した形の 低β領域重イオン線型加速器では、内軸上の発生電圧ができる限り一様になるよう 工夫されており、使用f ~ 20MHzである。

RFQ

イオン線型加速器では位相の安定性、つまり同期位相に イオンビームが集中しているという性質があるが、 r方向に発散するとの欠点があった。 これを補うためにドリフト・チューブ内に集束用レンズを 配置する方式がとられていた。しかし低β領域ほど ドリフト・チューブが短くてレンズ設置が困難であった。

そこで考えられたのが、RFによる誘起電圧そのものを 利用して集束と加速とを同時に行なおうとするもので、 Radio frequency Quadrapole、略して RFQと呼ぶ方式である。 円形導波管内に4枚羽根を入れ、 TM21モードに共振させるとき、 上下板端に+、左右板端に-の電圧が誘起され、 これらが高周波振動する。そこでこの羽根の先端を、 次第に波長が伸びて行くsine状の切り込みを入れるとき、 xz、zy面での集束とともに+ - のz方向電界分値によって z方向に加速される。

この加速器ではsine状切り込みを極めて小さくできるので、 ごく低いβ領域から加速が可能であること、 および広がったイオン・ビームが次第に φsに集中してくるので、ビーム電流が強いなどの 特徴があり、将来の線型加速器として有望である。