プラズマ医療


プラズマ医療について3つに分類されます。 プラズマを患部に照射して、出血、皮膚疾患、さらにはガン等を治療するのがその一つです。 2番目は、人体に埋め込む材料の表面の生体親和性を向上するものです。 最後に、生体に有害な微生物の処理があります。
特に、最初の治療への応用は、 大気圧(またはそれに近い環境)で生成される低温のプラズマを生成する装置が実用化された 20年ほど前から研究が活発化しました。 研究内容は、プラズマ生成技術、生体との作用の解明、系統的なアプローチが含まれています。 (プラズマ医療国際会議)

新学術領域研究「プラズマ医療科学の創成」

プラズマ照射による、がん細胞のアポトーシス(細胞死)誘起、 皮膚疾患や傷病組織の治癒や再生に関する極めて有為な効果が示され、 プラズマの医療応用に関する戦略的な研究が、世界的に急速に勃興している。 プラズマの医療応用には、相互作用の本質を決定する「プラズマで生成される 活性な粒子と生体組織の反応」を粒子パラメーターや分子レベルから捉えて、 プラズマの生体組織への影響を理解し、相互作用を定量的に解明し、 新学術領域として体系化することが不可欠である。 (第1回公開シンポジウム開催趣旨より)

生体物質(人間の体の一部)にプラズマを照射するため、 大気圧(またはそれに近い環境)で生成される低温のプラズマの利用が必要。

プラズマ(が生成する熱、紫外線、化学活性種)を利用した治療は、 乾式で非接触という特徴を有するため、次世代の治療法として 注目を集めている。熱を利用した治療はすでに実用化の段階にあり、 紫外線や活性種を利用した治療のためにはプラズマの反応流動場と 生体の干渉問題が重要になっている。


アルゴンプラズマ凝固法(Argon Plasma Coagulation)

中心にワイア電極を持つチューブにアルゴンガスを流し、 電極に高周波電圧を印加し、ワイア電極先端と組織(接地電極) の間にプラズマを生成する。 生体組織に高周波電流が流れる直接放電式の装置で、 電流のジュール熱により生体組織を凝固させる。(凝固した 組織はインピーダンスが上がるので、電流は自動的に 未処理の組織に移動する。従って、複雑な形状であっても 均一な凝固が可能。)

非接触処理であるため電極と組織の付着がない、 広範囲を短時間で処理できる、凝固組織は浅層にとどまり、 炭化もおきにくいなどの利点がある。 さらに、 内視鏡と組み合わせることにより、 消化管の止血、食堂腫瘍の凝固、鼻アレルギーの治療などにも応用されている。

慢性創傷の臨床試験

ドイツでは、マックスプランク地球圏外物理研究所などで マイクロ波アルゴントーチプラズマを皮膚病の治療に使う試みが なされている。プラズマを照射すると傷が回復するのがわかります。詳細なメカニズムはまだ分かっていませんが、 プラズマからの紫外線や化学的活性種による 殺菌作用と言われている。

同様な効果は皮膚の疾患にも認められています。プラズマ照射でシミが消えているという報告があります。

ヤケドを負わしたマウスのプラズマ治療が、奈良でのプラズマ医療国際会議で紹介されていました。 大気圧非平衡プラズマは滅菌対象物を流れ作業的に処理できるため、 様々なタイプの放電プラズマ(RF駆動コロナ放電、誘電体バリア放電、 抵抗バリア放電、大気圧ブラズマジェット) が滅菌実験に供されています。 大面積のプラズマを生成する膜状の装置も提案されています。

プラズマニードル

オランダ、アイントホーヘン大学のグループは100ミリワット程度の 小電力でワイヤ状の電極の先端に直径0.5ミリ程度のプラズマを発生させる 装置を開発し、歯科治療や線維芽細胞の分離、アポトーシスへの応用が 図られている。


遺伝子導入

低周波の電圧パルスで発生する誘電体バリア放電プラズマ を用いてDNAを始めとする たんぱく質を細胞の内部に送り込むことが出来る。 これは、無電極構造によるエレクトロポレーション法(電気穿孔法) の一種であると考えられている。 ウイルスベクターを利用した方法より優れている点も認められています。

生体適用材料の改質

ステント(Stent)は血栓の詰まった部分に導入し 血管を広げるものです。 単に血栓を削り落とすと、血管の下流で新たな血栓を起こす恐れが あるので、 ステントを使った外科治療が盛んに行われています。 ステントや人工骨に代表される生体材料は長期にわたって体内にとどめ置かれるために、 生体との適合性が重要になります。そのため、プラズマを利用して表面改質がなされています。


プラズマ滅菌

細菌を殺すことについても正確な定義がある。
滅菌(sterilization)
全ての微生物(病原性および非病原性を問わず)を殺滅あるいは除去すること。

菌の死滅過程は確率的であるため無菌性保証レベル(Sterility assurance level)SAL=10-6 に達したときを滅菌と定義する。 滅菌に達しない時には、不活化(inactivation)という用語を使うことがあります。

消毒(disinfection)
対象物に存在している病原性微生物を無害なレベルまで減らすこと。 (非病原性微生物は含まない。)

殺菌
菌を殺すこと全般。対称や程度を含まない。 1000個のバクテリアを100個に減らしても殺菌済みと言うことができます。

大気圧非平衡プラズマは滅菌対象物を流れ作業的に処理できるため、 様々なタイプの放電プラズマ(RF駆動コロナ放電、誘電体バリア放電、 抵抗バリア放電、大気圧ブラズマジェット) )が滅菌実験(しばしば大腸菌が研究対象とされていますが ピロリ菌(Helicobacter pylori)の報告もある)に供されている。

プラズマ照射後には菌形状の変化が報告されており、 酸素ラジカルによるエッチングの効果、または窒素プラズマからの 紫外線が有効であるなどの報告がある。

ヘリウムプラズマが直接接触した場合(青線)と酸素ラジカルを積極的に作った非接触プラズマの効果(赤線)を 比較すると、プラズマ滅菌は放射線滅菌と同じく、化学活性種を介した間接的な効果が大きいと分かります。

動物および人体組織に直接プラズマを照射した滅菌ばかりではなく、 カテーテル(Catheter)の様な複雑な形状の医療機器 や通気性樹脂シート(Tyvek紙)で包装された容器内部の滅菌も 実証されている。

大気圧プラズマではなく、低圧の酸素プラズマの応用例があります。 この場合にはパイプの中に直接酸素プラズマ、そして酸素ラジカルが作られています。 大気圧プラズマで生成した ラジカルをガス流で送り込んでもパイプ内の滅菌が可能ということも報告されています。

高温水蒸気、エチレンオキシド、放射線、プラズマの滅菌比較を示しています。 詳細は省くとして、昨今話題の、ウイルスの不活化の可能性を検討しましょう。 ウイルス自体は細胞よりも極めて小さく、水分が少ないため、 放射線やプラズマでも活性酸素が作られないため、あまり効果はありません。 むしろ、紫外線がウイルスの遺伝子構造をより破壊しやすいと言われています。


ガン治療の試み

がん細胞は正常細胞に比べて代謝が活発であるため 活性ラジカルの効果を受けやすい。 従って、大気圧プラズマ照射、あるいはあらかじめ プラズマ照射によりラジカル生成した溶液による がん細胞失活化の基礎研究が進められている。

通常細胞が損傷を受けて死滅することをネクローシスと言いますが、 時として細胞が「自殺」することがあります。これをアポトージスと言います。 一番分かりやすい例は、オタマジャクシのシッポです。 親のカエルになる時にシッポは切れるのではなくシッポの細胞が選択的に死んでいきます。
体内にがん細胞が生まれた時に、このアポトーシスを誘起できれば、 がん細胞の増殖や転移を押さえることができます。 がん細胞は正常細胞に比べて代謝が活発であるため 活性ラジカルの効果を受けやすい。 従って、大気圧プラズマ照射、あるいはあらかじめプラズマ照射によりラジカル生成した溶液による がん細胞失活化の基礎研究が進められています。



プラズマ農業


カビ、胞子、有害物質の不活化

全世界の農作物の4分の1が、カビ等により腐敗し損失となっている。 そのため、収穫後の保管や輸送に先立って有害なカビやバクテリアを 除去出来れば、今後開発途上国(日本においても)で予想される 食料不足に対する備えとなりうる。

発芽、成長促進

昔から、雷の落ちた田んぼでの収穫が良くなる事が言われていた。(稲妻という 名称もここから来ている。)種子やキノコの菌糸に適度な刺激を与える事により、 確かに成長促進の効果が確認されている。種子に対するプラズマ照射は 必ずしも大気中でなく、減圧中の放電でも可能であり、パルス電圧による 物理的な刺激が有効な場合も多い。 (シイタケやカイワレの生長促進の例が有名。)

なお、遺伝子操作に必須な遺伝子の細胞への導入にもプラズマや高電圧パルス 照射が、ウイルスベクターを利用した方法より優れている点も認められている。



プラズマ環境応用


排ガス処理

コロナ放電を用いた空気清浄機はすでに市販品が出ている。 これは空気中の微粒子に電子を付着させ(いわゆるダスト プラズマを生成し)、静電気的に微粒子を除去するというものである。

積極的に電子が起こす化学反応で、有害物質(窒素酸化物や硫黄酸化物)を 分解する試みは様々なされているが、処理効果に比べて放電維持に要する 電力が大きく、他の方法と競合出来ない。そこで、フィルターや 触媒と併用し、分解効率の向上がはかられている。 極めておおざっぱに言えば、フィルターで有害物質を取り除き、 フィルターの目詰まりをプラズマで処理するというもので、大規模なテストプラントも作られている。


水処理

汚染水の処理、あるいは湖のアオコの処理にプラズマが使おうとされています。 水は空気に比べて密度が大きいため、少なくともプラズマ照射された部分では 効率よく液中の有害物質の分解は可能である。しかし、液中に直接放電を 起こすには非常に高い電圧が必要で、通常は界面あるいは気泡内(ベンチュリー 効果、水の気化などで生成)での放電を利用する方が効率的である。