プラズマの準中性の破れの代表的パラメーターはデバイ遮蔽長さ λD=(ε0Te/n e2)1/2 で与えられる(点電荷の作る電場はおよそλDまでしか届かない) ので、シースの大きさもλDの10倍程度である。 これはプラズマ自体の大きさに比べて極めて小さい。
便宜上、「シース端」という用語が使われ、それよりプラズマ側をプレシースと 呼ばれることがあるが、これの定義が必ずしも明確ではなく、現実には プラズマ領域からシースは連続的につながっている。(従って、シースの大きさや 厚みという量も定義に注意する必要がある。)
固体壁でプラズマ密度がゼロであるとすると、粒子束が保存する 状況では流速は発散する。(u=Γ/n) また、ボルツマン関係Φ=Φs+(Te/e)ln(n/ns) から、電位も発散する。(ただし、両者の発散が同じ位置、つまりシース端で起こるという 保障はない。)
イオンはシース内で加速されるため、niはシースに向かって減少する。
他方、電子密度もボルツマン関係により電位Φ(x)または
規格化された電位深さ
φ(x/λD)=-e(Φ(x)-Φp)/Te
の関数となる。
ne(x)=npExp(e(Φ(x)-Φp)/Te)
=nsExp(-(φ-φs))
ここで、シース端でのプラズマ密度はns=npExp(-φs)で、
プラズマ内部の密度npより小さい。これらの関係式を
電位を決定するポアソンの方程式
d2 Φ/dx2 = -e(ni-ne)/ε0
、あるいは両辺にd Φ/dxをかけて積分した式に代入し、シース内の電位分布を決定する式
(d φ/dx)2 - (d φ/dx)2s =
(1/λD)2
∫φsφ
(-ni(φ') + ne(φ')) d φ'
=
(ns/λD2)
∫φsφ
(-(φs/φ')1/2 + Exp(-(φ'-φs))) d φ'
=
(ns/λD2)
(-2φs((φ/φs)1/2 -1)
-( Exp(-(φ-φs))-1) )
を得る。
ここで、(イオンの空間電荷が優勢なイオンシースが形成されているならば)
シース端の電場(左辺第2項)はシース中の任意の位置の電場より小さいから
左辺は正の値をとる。したがって、
シース端のごく近く(φ=φs+Δφ)で右辺の括弧の中を
Δφの2次の項まで展開すると、
Δφ2φs/2 -
Δφ2/4 ≥ 0
即ち、電子温度で規格化されたシース端の電位の深さが0.5以上1(φs ≥ 1/2)
であることが要請される。
このとき、シース端でのイオン流速は
u=(2e(Φp-Φs)/mi)1/2
=(2Teφs/mi)1/2
≥ (Te/mi)1/2
の右辺で定義されるボーム速度を超えていなければならない。
ところで、ボーム速度はイオン温度がゼロの時の
イオン音波の伝搬速度(イオン音速)に等しく、プラズマ中では流速はこれより
小さくなければならない。(流体方程式の解が発散し、衝撃波が形成される。)
従って、イオン流速はちょうどシース端でボーム速度
uB=(Te/mi)1/2
に達すると考えるしかない。
このとき、シース端のイオン密度nsは
プラズマ主要部のExp(-1/2)=0.61倍で、固体表面に達するイオン粒子束密度
Γi=nsuB
はプラズマの密度と電子温度のみで来まる。(イオン温度は関与しない。)
これに対し電子粒子束Γeは 固体の電位で変化する。 特に、電子とイオンの粒子束密度(より正確には電流密度) がちょうど一致する時の電位(プラズマ電位との電位差)を浮遊電位という。
そのため、上記の導出では、プラズマ電位を明示し、式の導出で電位差が表れるようにしている。 Φp=0とすれば、多くのテキストの式を再現できる。
プロセスプラズマではイオンはすべて1価イオンと考えて良いが、核融合などの 超高温プラズマでは多価イオンが存在し、電流密度の評価に注意を要する。
大気圧希ガスプラズマでは単原子ガスがダイマーイオンを形成するため、質量は もとの原子の倍になる。このほか、分子イオンが存在するような場合も 質量の評価は注意を要する。
なお、電子と負イオンが共存する負性プラズマでも、負イオンの温度は電子温度に比べて 十分小さいため、電位構造が2段階になるという実験的報告もある。
(1/ns)∫0∞ (1/v)2 fi(v) dv
≤ mi/Te
この式は、静止したイオンが存在すると安定なシースが形成されないことを意味する。
従って、イオンの速度分布はマックスウエル分布からは大きく変形せざるを得ず、
温度そのものの定義から見直す必要がある。
また、有限なイオン温度の場合にボーム速度が
イオン温度の寄与を含めたイオン音速
cs=((Te+γ Ti)/mi)1/2
に等しくなるという保証はない。
また、
固体が正にバイアスされて電子の流入が増加している場合は、
シース電位で反射される電子が低速側まで広がってくるので、シース端での速度分布は
高温側が大きく打ち切られたマックスウエル分布になる。
また、イオンや電子の流入で固体の温度が上がると熱電子の放出が無視できなくなる。
また、励起原子も多数生成され(通常、プラズマ密度よりずっと多い)、
熱電子放出を助長する可能性が指摘されている。
ただし、 このような単純な取り扱いは、浮遊電位近くのバイアス条件に限られることが、最近 高村らによって指摘されている。(「境界領域プラズマ理工学の基礎」)また、シース端そのものの 定義も曖昧であることから、上記の評価式は定性的傾向を示すだけのものであると考えた方がよい。
自己バイアス電圧は、高周波電圧の1周期の正負の電流がちょうど打ち消し合う様に 決まる。接地電極が十分大きければ自己バイアス電圧の大きさは 高周波電圧の振幅に等しく、容易に制御できる。