実際の、グロー放電はもう少し複雑で、電子の平均エネルギーが小さい領域では光らない暗部が形成され、 電位が平坦な部分は陽光柱と呼ばれる広い発光領域になっています。 特に、陽光柱の領域は準中性な典型的なプラズマ領域になっています。 陽光柱では電気的に中性で一様な電場が存在することがわかります。
一様電場(平行平板電極で生成される)Eがかかると、
正イオンはドリフト速度v=ν+Eで運動し、
電流j+=e n+ v+を作る。(負イオンも同様。)
全体として、n+=n-=nより
j=j++j-=en(ν++ν-)E
照射線量1レントゲン(2.58x10-4C/kg相当)、あるいは
吸収線量8.77 mGy の放射線下では1立方センチあたり
2.08x109対の正負イオン対が生成される。
1センチ当たり1Vの電場のもとではドリフト速度が
1.0 cm/sであり、電流密度は 3.2 x 10-10 A/cm2。
このように、jはEに比例して増大するが、ある程度Eが大きく なるとイオン対は全て電極に集められ、jは飽和する。( これは放射線計測に使われる電離箱に相当する状態。)
さらにEが増大すると加速されたイオンにより 大気中での放電が始まる。(低圧で分子数が少ないときは 裸の電子が残っており、電場で容易に加速されて放電が 起こる。)
第一電離係数αは圧力Pに比例し、換算電場と呼ばれるE/pの関数になっている。
α/P=A Exp(-B/(E/p))
で近似され、係数AとBは気体の種類毎に調べられています。
第二電離係数γもE/pの関数で、カソードの材質や表面状態に依存します。
その関係はパッシェンによって最初に実験的に見出された。電極材料、電極形状、 気体の種類によって異なるが、Pd = 0.5 ˜ 1.0 cm ⋅ torr で極小値をとる。
多くの気体では1mの間隔の電極では、1パスカルつまり10万分の1気圧で最も放電しやすく、 それより低圧でも高圧でも放電し難くなっています。 高圧、ロングギャップでは電子が十分加速する前に衝突してエネルギーを失ってしまいます。 低圧、ショートギャップではそもそも電子が十分に加速されません。
イオン源では、ラングミュアチャイルドの式(j ∝ V3/d2)に 従ってdが小さいことが好ましいため、高真空に保ってパッシェン曲線の pd値の小さい側でVBを大きく保っている。(加速された電子が 残留気体と衝突する前に電極に達して絶縁破壊が生じないようにしている。 ただし、dの大きな別電極が無いような設計が必要である。)
次に放電電流の大小の影響を見ましょう。 直流放電では、最も電流が少ないのが、電圧に比例する暗流です。 その次にタウンゼント放電が起り、安定なグロー放電が続きます。 グロー放電の間は電圧は変わらず、徐々に電流が流れる陽光柱の太さが太くなります。 電流値が十分に大きくなると電極材料が加熱され、γ作用ではなく熱電子放出で放電が維持されるアーク放電にうつります。
圧力と温度の影響を考えましょう。 タウンゼント放電の様な低圧では電子の温度とイオンやガス温度が 大きくことなる非平衡プラズマが生成されるが、大気圧ではこれらの温度が等しい 熱平衡プラズマとなります。 ただし、1990年頃、直流電圧ではなくパルス電圧を使うことにより、 大気圧下での非平衡プラズマを生成できることが見いだされています。 熱平衡プラズマの電離度はサハの式を使うと計算できます。
これまでは、主に平板電極を考えてきましたが、 高圧送電線などの様に、針や線の形状の電極を用いる放電とコロナ放電(不均一電界放電) が得られます。 電極近くでは電離が進行するが大部分の領域では電場が弱く電離が 進行しない。
半径r1の線状電極の回りの半径半径r2
の同軸円環電極に電圧Vをかけると、径方向電場Erが生じる。
対称性を考慮して極板間にガウスの法則を適用すると(1/r)(d/dr)(rEr)=0
より、Erはrに反比例する。これをr1からr2
まで積分したものがVに等しいことから比例定数が決定され、
Er=V/(ln(r2/r1))(1/r)
従って、中心電極近くでは電場が強くコロナ放電が起こる。
放射線計測で用いられるGM管は放射線により引き起こされる パルス的コロナ放電を利用している。 また、針状電極を用いたストリマーコロナ(払子コロナ)は 大気圧直流プラズマの生成にされている。
ストリーマー理論(ミークとロエブ)によると、イオン衝突による γ作用を必要とせず、α作用と光電離作用および空間電荷電場による 小さな二次電子なだれが放電を起こしている。
このストリーマーと呼ばれる微小放電路、稲光の進行する様は、 今話題のビールスの外観に似ています。だから、コロナという名前になっています。 コロナと言う名前は元々王様の冠という意味です。
0.1~1.0気圧でのグロー(冷陰極)では、陰極から順に陰極グロー、 陰極暗部、負グロー、ファラデー暗部、陽光柱が形成される。 陰極に向かう強い電場は陰極暗部までに形成される。ここでは、イオン電流は 減少し、電子電流は増大している。(イオン密度は最大になっている。) この領域の幅dと圧力Pの積とカソードフォール(電位差)Vcは パッシェン曲線の極小値に対応する値を取っている。 (Vcはガス種や陰極材料によって100~500V程度の範囲で 変化するが、ガス圧は陽光柱が存在できる範囲が限られているため、 幅dの値が変化する。)
直流放電で作られるプラズマは主に陽光柱の部分にあり、ここでは 電位や電流(あるいは電子やイオンの密度)は一定となっている。 (ただし、径方向の拡散損失を補償する程度のプラズマ生成を起こす 弱い軸方向電場は存在するが、放電機構には大きな影響を及ぼさない。) 放電管を長くすると陽光柱が伸び、蛍光灯やネオンサインに用いられるが、 ガス圧が下がるとdが増えて陽光柱が短くなり、ついには 存在しなくなって放電の様子は急変する。 陰極前面の強い電圧降下が流れる電流の大きさに あまり依存しないことを利用したのが定電圧放電管 (ガイスラー管)である。
熱電子放出によって放電を持続するため放電電圧が低く 動作が安定な上に磁場中でも使用することが出来るので実験用 プラズマ源として用いられている。例えば、サイラトロン(整流放電管に格子電極 をいれたものなど)、イグナイトロンはアーク放電を利用している。
陰極は普通の真空管に比べて低エネルギーのイオン衝撃を 受けるので、バリウム、ストロンチウム、カルシウムなどの酸化物陰極 やタングステン、タンタルの線陰極を用いる必要がある。 これら酸化物陰極は低温でも十分な熱電子が得られるが、 低ガス圧放電で用いると高エネルギーイオンによるスパッタリングで 陰極の寿命が短くなる。
陽光柱部分はほぼ一様なプラズマではあるが、わずかに電場がかかっている。 これを取り除くためにはメッシュ状の陽極を挿入すればよいが、 電子密度はもとの陽極に向かって減少し、電離度も改善されず 高々1%にすぎない。
狭いチャンネルを持つ中間電極内で放電を行い、同時に差動ポンプで中性ガスを 減らせば高電離度のプラズマが得られるが、内部にかなりのビーム状電子が 混じっている。デュオプラズマトロン型イオン源、オークリッジ型イオン源 デュオピガトロンがこのタイプで、陽極側から引き出される。
陰極側からイオンを引き出すと同時に電子を付着すると、電子ビームとの 相互作用のないプラズマが得られる。(後方拡散型プラズマ源)ただし、 密度が低いためダブルプラズマ装置などでの基礎実験の用途にかぎられる。
熱平衡の熱陰極直流放電(アーク放電)は材料分野や環境分野でのプラズマトーチに使われています。 機械工学の大久保先生のグループは、プラズマを利用した環境汚染物質の処理で有名です。
このように、衝突の効果がない限り電子は軸方向を何回も往復 するので、10-6 torr あるいは 10-3 Pa の低圧(電離の平均自由工程が長い)でも放電を維持できる。 陰極の一方をリング構造にすれば外部にプラズマを取り出すこと ができる。
現実には、低圧条件では陰極のポテンシャルが陽極の中心まで 浸透し、径電場を作り波によるノイズが多くなる。(マグネトロン型放電)
従って高周波放電が起こるための限界条件は、変位の最大値が電極板間隔の
半分に等しいとして決められる。(低周波では変位の大きさはmsの
平方根に反比例するため、粒子としては電子のみを考えればよい。)
d/2=|v/iω|max
=Zse E0/( ms ω)
(νms2+ω2)-1/2
変形して、境界周波数は電場の振幅E0の関数として
ωc
=(-(νms/2)
+((νms/2)2+(Zse E0/msd)2)1/2)1/2
高周波では、&numsに比例する項の寄与は少ない。例えば10cmの間隔の
電極に500Vの高周波電圧をかけたとすると、
ωc
=Zse E0/msd)1/2≈
1.3x108 1/s、
つまり30MHz程度の周波数の電源を用意すれば
プラズマ源として用いることが出来る。
高周波放電プラズマにはかなり強い電場が作用しているため、 イオンや電子のエネルギーにはかなりの広がりを 持つが、これは温度が高いことを意味するものではない。
薄膜堆積やエッチングに最も良く使われるプラズマ装置は 2枚の平行平板に整合器(マッチングボックス)と直流阻止コンデンサー を通して13.56MHzの高周波パワーを加えるもの。プラズマを 誘電体としたコンデンサの形をしている ため容量結合プラズマ(CCP)と呼ばれている。 これは、アンテナ表面の電荷が作る静電場によって放電する 電界型放電であり、プラズマの密度はそれほど高くはないが 大口径化が用意であるという利点がある。
アンテナ電流が作る磁界によって放電する磁界型放電の 代表が容量結合プラズマ(ICP)である。低い圧力でも プラズマが生成できるアンテナの開発が進められ、 近年ではプラズマプロセッシングに広く使われている。
類似の装置が開発されています。 低圧ヘリコンプラズマ源では、金属サンプルを1000度以上に加熱し熱伝導解析を行いました。 大気圧下での熱プラズマは、電子の数密度が桁違いに大きく、材料処理時間を大幅に節約できるそうです。
ECRプラズマは、低圧力(10-6 torr あるいは 10-3 Pa)でも 生成できるため、イオン源としては理想的であるが、磁場の存在のため イオン源としての使用は出来ない。また、生成されるプラズマ密度は カットオフ密度nc=ε me/e2 ω2 に制限される。 (高域混成波を利用してより高密度のプラズマを作ることもできる。)
電流密度が高く、イオンは高エネルギー(600eV)で陰極をたたき、 スパッタリング粒子の平均自由工程が長いため薄膜形成などに 使われている。
放電電流が運ぶ電荷が誘電体表面に蓄積すると逆電場を生じるので、 スパークや放電集中によるアーク遷移を避けることが出来る。 熱伝導性が良く、放電開始電圧が低いヘリウムをキャリアガスとして 用いたものは特に大気圧グロー放電と呼ばれている。
研究室で使っている低周波プラズマジェットでは、 10キロヘルツ10キロボルト程度の電源を用いることにより、大気圧中で非常に綺麗なジェットが生成します。 同様の装置は、世界中の研究者が製作し、表面処理やバイオ応用の研究に使われています。
近年の大口径プラズマを要す半導体プロセスでは、 マイクロ波(2.45GHz、1kW)を30センチの石英板を通して照射し 2〜200Paで1018 m-3の高密度 プラズマを生成している。
高気圧のZピンチの予備電離ほか、プロセス用の材料生成に使われる。
一般にプラズマ銃で作られたプラズマは、空間電荷効果によりイオンと電子は同じ速度で 高速移動しているため、もしこれを捕捉し運動エネルギーを熱エネルギーに完全に 変えることが出来れば、イオン温度の方が電子温度よりも高くなる。
他の型の電子銃と異なり、速度分布の広がりの大きい流れ速度を持たない プラズマが作られるので、ミラー磁気閉じ込め装置の種プラズマ源として 使われている。
非一様な電場を利用するコロナ放電、冷陰極を使うグロー放電、 熱陰極を使うアーク放電などが含まれる。